雇用差別とその社会への影響

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  • 国別労働トピック:2003年11月

米国雇用平等委員会(EEOC)とは

米国では、1964年に公民権法の下で米国雇用平等委員会(EEOC)が設立された。EEOCは、人種、性、宗教、心身障害、年齢などによる雇用差別禁止のための委員会で、雇用差別に関わる訴えを受理し、それに関して調査、和解のための調停を行うとともに、調停が成立しない場合には、提訴を行うなどの手続きを行っている。年間10万件以上の申立が委員会に持ち込まれる。また、法の内容についてガイドラインを作成する委員会は連邦レベルと州レベルに設置されている。2000年度に受理された訴えの構成と割合は、下の表のとおりであるが、解雇に関する訴えが6763件と最も多く、雇用条件に関する訴えが2578件とそれに続く。採用、昇進、退職者年金に関する差別についての訴えも多い。

最近の雇用差別をめぐる問題

EEOCに持ち込まれた雇用差別の訴えのうち、

  1. 容姿による差別、
  2. 心身障害者への差別、
  3. 年齢差別

などが、最近マスコミなどで取り上げられ、その社会的影響が懸念されている。

容姿による差別は、ファッションストアチェーンが従業員を採用する際、企業イメージに合った容姿端麗な美男美女を積極的に採用するというもので、これについて、ヒスパニック、東洋人そして黒人の求職者らがサンフランシスコ連邦裁判所に訴えを起こした。小売業界では、激しい競争のなかで消費者のブランド意識を高めるためにも、企業イメージに合った人材を探し出すことは重要であり、若者向けのファッション業界では特に必要なことであると、企業側は主張している。しかし、連邦政府は、企業の行き過ぎに警告を発している。また、EEOCのある弁護士は、採用に当たっては、職務遂行能力を優先するべきで、企業イメージを先行させると無意識な差別を犯す危険があると苦言を呈している。

心身障害者への差別の問題としては、精神障害者と見なされ採用を拒否された男性が、これは心身障害者保護法違反であるとして、K‐マート社に対して訴訟を起こしている。またUPS社でも、耳の不自由な社員の昇進を拒み社員教育期間中に通訳をつけなかったことに対して、訴訟が起きている。この件で、UPS社は、580万ドルの和解金の支払いに同意した。この和解で、

  1. 聴覚障害者の採用面接時、オリエンテーション、教育期間に通訳をつけること、
  2. 就業時に非常事態を知らせる振動型ポケットベルを3カ月以内に提供すること

が約束された。

年齢差別をめぐっては、最近、IBM社での年金プラン変更が、高齢者退職者に不利となるとの連邦高等裁判所の違法判決があり、社会的関心が高まっている。国民の高齢化と年齢差別については、海外委託調査員稲葉隆氏からのレポートで詳しく説明しているので紹介する。

国民の高齢化と雇用均等法

年齢差別禁止法(ADEA)は1967年に制定されたものであるが、合衆国国民の急速な高齢化に直面し、ますます重要になっている。連邦国勢調査局は、2025年までには、65歳以上の人口は13%から19%に増大し、人口に占める55歳以上の割合は21%から30%に増えると予想する。米国民が急速に高齢化することにより、雇用差別法遵守のための費用が増大し、その費用を過大報告する恐れがあると、Contemporary Economic Policy誌で、Newmark氏は論じている。

まず、年齢差別の定義に関して、Newmark氏は、使用者が雇用者を生産性や費用に関係のない特質(例えば年齢)により異なる取り扱いをする、という「不適当なステレオタイプに基づく差別」である、という定義を採用している。ADEAが制定されたときの労働省の報告書にある定義では、年長労働者に対する差別は、敵意から生じる差別ではなく、年齢が仕事遂行能力に影響するという根拠のない仮定があるための差別であると記されている。Posner(1995)が、「彼ら」対「われわれ」という考えが人種、エスニック、そして性差別を助長するが、年齢差別にはこのことは当てはまらない、と指摘するように年齢差別は歴史的に敵意が記録されている人種差別とは異なる。

年長労働者に対するネガティブなステレオタイプは、産業老年学者の調査によりつくられたもので、そこでは年齢は生産性や管理評価(これも恐らくステレオタイプを反映していると考えられるが)に関係し、視力、聴力、記憶力、計算スピードなどが衰えるということに関連しているという調査に基づいている。しかしながら、年長者はそれらの衰えを努力により補い、またPosner(1995)は、リーダーシップ能力は年とともに増大すると指摘するように、年長になるにしたがい他の能力が増大すると考えられている。また、同一年齢グループ内の差異は年齢グループ間の差異より大きいとJablonski他(1990)が指摘している。

年齢差別には、経済的動機が雇用者にはあると指摘する者もいる。Miller(1966)は、年長者は病気や死亡する確率が高く、健康保険や生命保険の費用も高いと指摘している。同じように、社員教育への投資が生産性に反映されるまでの時間は、若年者より年長者のほうが短いし、転職をする可能性は年長者のほうが若年者より低い。経済的動機を複雑にする要素は労働者に長期雇用を奨励する賃金体系にもある。これは、若く年功の低い労働者の賃金は、彼らの生産高より低くするが、年功が上の年長者には彼ら自身の生産高より多く支払う、そして労働者には彼らの生涯生産高に匹敵する生涯賃金は彼らの定年の日まで仕事を続けなければ支払われることはない。

結論のなかでNeumark氏は、年齢差別法は高齢者の雇用を押し上げ、この法律で保護されている年長者の退職を減少させ、彼らの昇給も可能にした、と指摘している。そして、
年齢差別法の顕著な影響は、使用者が年長の、給料の高い労働者への長期コミットメントを破る行動を減少させ、その結果として労働者と企業の長期関係を強める、と言っている。

W. KilbergはEmployee Relations Law Journalで、ADEAに関してCline対General Dynamicsを取り上げている。General DynamicsとUAWは50歳以下の退職者への健康保険手当に関する労働協約を結んだが、その協約ではこの手当は用途を決定されずに年輩者のために貯蓄の形にされると決められた。この決定に対し、40~49歳の労働者の訴えは地方裁判所により退けられたが、控訴裁判所はこの決定を覆した。Clineのケースは、雇用主の行為の劇的転換に影響を与える可能性があり、様々な社員手当の出発点となる年齢の要求を無効にし、雇用に関する決定に新しく全面的に厳密さが注入されるべきであるとされている。

EEOCによる差別申し立て受理状況
  年齢差別禁止法 タイトルセブン 合計
小計 小計 小計
案件別
福利厚生 468 1.9 1,033 1.0 1,986 0.9
退職年金給付 1,620 6.6 283 0.3 2,042 0.9
解雇 6,763 27.5 26,346 24.9 41,902 19.3
採用 1,973 8.0 3,320 3.1 6,548 3.1
レイオフ 1,137 4.6 1,793 1.7 3,465 1.6
昇進 1,645 6.7 7,415 7.0 10,047 4.6
退職 217 0.9 83 0.1 372 0.2
セクシャルハラスメント 266 1.0 9,328 8.8 10,064 4.6
雇用期間 2,578 10.5 13,806 13.0 19,178 8.8
賃金 1,099 4.5 6,188 5.8 9,013 4.2
総計 24,586   105,854   216,839  
告訴数 15,926 59,215 79,325

参考:www.EEOC.govリンク先を新しいウィンドウでひらく

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