相変わらず高い失業率

カテゴリー:雇用・失業問題統計

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  • 国別労働トピック:2003年10月

ドイツをはじめ欧州経済全体が後退傾向にあるなか、スペイン経済は緩やかながらも成長を維持し、またこれに伴って雇用も伸びてきている。にもかかわらず、7月に発表されたユーロスタットの報告は、スペインが欧州のなかで相変わらず最も失業率が高い国の1つであることを思い出させる内容のものであった。

欧州レベルで比較が行われる労働市場のデータは労働力調査(EPA)であるが、それによると5月におけるスペインの失業率は前月よりわずか0.1ポイント低下しただけで、前年同月と比べると1.3ポイント高くなっている。特に、スペインの場合は女性失業率が高いことが懸念され(ユーロ圏の平均10.2%に対し16.4%)、男性失業率で見るとスペインのほうが7.9%と、ドイツ(8.3%)、フランス(9.7%)よりも低いことを考えると、なおのこと注意を引く。

一方、この報告とほぼ同時に6月の登録失業者数が発表されたが、それによると6月には失業者数が7950人減っている。政府労働省はこれについて、「スペインは欧州でもイギリス、アイルランドと並んで唯一雇用失業が減っている国」との強気の評価をしている。もっとも、6月は夏のバカンス・観光シーズンを前に雇用が伸び失業者が減るのが常で、6月の失業者減少数としては今年の数値は決してかんばしいものでなく、昨年のほぼ3分の1、不況のさなかにあった1993年以来最少となっている(なお、求職・失業手当受給のために国立雇用庁(INEM)に登録する失業者のデータは、アンケート調査に基づくEPAとは全く方法論が異なり一概に比較できない)。

ユーロスタット報告では、スペインに対して失業問題の解決を目指した一連の勧告を行っているが、こちらも労働者の地理的な移動(転勤、現在居住している場所以外での就職等)の奨励、雇用紹介サービスの近代化、地方間格差の是正、労働市場の柔軟化、女性労働者を支える各種社会サービスの導入等、すでにこれまで何度も叫ばれてきたものばかりである。ユーロスタットはスペインで未だにパートタイム雇用が少なく、これに対して有期雇用が非常に多い点を何度も指摘しているが、第2四半期のEPAを見ても、有期雇用の増大(11万9300人)が無期雇用の増大(12万800人)に近い数値になっている点が目につく。もっとも、第2四半期が観光シーズン中だけ働く季節雇用が増える時期であることを考えれば不思議ではない。

一方、7月25日に行われた夏休み前最後の閣議で可決され国会に送られることになった「雇用法」法案では、労働者の地理的移動促進に関する提案が見られる。1998年以来、公的職業紹介サービスおよび積極的雇用政策に関する権限が労働省から各自治州政府に委譲されてきた結果、現在はこれらのサービスが17の自治州間で細分化しているが、それを新たに全国レベルで調整しようというもの。具体的には全国各地の雇用情報、求職情報を一本化した共通のデータベースを作り、労働者がどの自治州からでもアクセスできるようにする。一般にスペインでは転勤の習慣がほとんどなく、居住地を変えてまで求職活動を行うことも少ないが、深刻な失業問題との取り組みには労働者の移動が極めて重要な要素であることを考えれば、自治州への権限委譲がまるでその流れに逆行するような形で行われてしまったことはほとんど理解し難い。たとえ権限委譲を行ったとしても、全国の自治州間での調整・情報交換メカニズムはいくらでも整備できたはずであり、実際労組や雇用者団体は「これを最初から行っておけば今さら多額の費用がかかる改革を行うまでもなかった」とのコメントを行っている。

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