減少続ける労働組合員数

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2003年10月

イギリスの労働組合員数は、1979年の1300万人をピークに減少し続けている。組合承認に法的強制力を付与した1999年雇用関係法も、期待されていた成果を上げておらず、事実、99年以降も組合員数は減少を続けている。だが労組自身は、使用者との間で締結した組合承認協定の件数は近年増加していると主張しており、助言斡旋仲裁局(ACAS)が公表している統計もこの主張を裏づけているかに見える。しかし、承認協定が増えても、組合員数の増大につながってはいない。

組合員数の減少と並行して、労組の財政難も深刻化し続けている。近年顕著に見られる組合合併の動きの背景には財政難の解決を図ると同時に、組合運動全体のあり方を合理化しようとする組合の意図がある。しかし労組の思惑通りには必ずしもなってはいない。

イギリスの労組が長期に渡って財政難に対処してこなかったために、(1980年代に組合員数の減少を食い止められなかった時と同様に)今後20年の間に深刻な問題が生じる可能性がある。

組合加入者数の動向

2001年組合員数は11万9000人減少して777万9393人である。減少分の大半は、組合員数10万人以上を抱える16の労組で生じている(このうち14の組合は労働組合会議(TUC)に加盟している)。この上位16労組に限ると、組合員数は8万2000人減って639万7915人になっている。これはイギリス全体の組合員数の82%に当たり、イギリスの労組の動向を観察するうえで有益な指標となりうる。

2002年も組合員数は2万8403人減って775万990人まで減少した。ただし、上位16労組は1300人増えて640万225人になった。

これらの数字から2002年に組合員を減らしたのは小規模労組であることがわかるが、労組を個別に見ると、2001年と2002年には大労組の間で組合員数が顕著に減っていることが分かる(表1)。

表1
  2001 2002
運輸一般労組 -13,000 -10,000
製造科学金融労組 -54,000 -18,000
通信労働者組合 +4,000 -5,000
グラフィカル・ペーパー・メディア組合        -650 -30,000
UNIFI (金融関連組合) -11,000 -6,000

出所:Annual Reports of the Certification Officer 2001-2002

他の11の労組は、王立看護師学校(RCN)と英国医療協会(BMA)を除いて、大きな変化は見られない。RCNは2001年と2002年の間に1万7500人増やして34万4192人となり、英国で第5位の労組になった。一方BMAは、同2年間に2500人増やして第16位の労組になった。健康医療関連の労組では総じて組合員数は増加している。もし、上位16労組からこのRCNとBMAを除けば、つまりTUCに加盟している残り14の労組について見ると、この2年間に組合員数は10万458人減っている。こうした実態は集計データでは覆い隠されている。傾向として、TUCに加盟している組合は組合員数を減らし続けているのに対して(1979-90年半ばで36%減)、主に公共部門でTUCに加盟していない組合は組合員数を増やしている(同80%増)。

後者を組織しているのは主に専門職のホワイトカラーである。組織率に目を向けると、こうした専門職の組織率は2001年に48%で、全体の組織率26.8%と比較するとかなり高く、また公共部門の組織率も同年59%と高い。民間部門だけはわずか19%で、この20年間に低下の一途をたどっている。

しかも、こうした数値は実際の組織率を正確に反映しているとはいい難い。というのは、引退した者や失業者など組合費を納めていない者まで組合加入者に数えているからだ。事実、組合費を納めている組合員数は、全体の組合員数よりも、減少率が大きい(表2)。

表2
1998 -6%
1999 -10%
2000 -10%
2001 -11%

出所:Annual Reports of the Certification Officer 1998-2001

しかしながら、加入者数の動向で組合にとって最も深刻なのは、若年層に対して労組の存在意義をアピールできていないことである。例えば、20年以上の勤続者と1年未満の勤続者の組織率を見ると、前者が60%であるのに対して後者はわずか12%にすぎない。

持続する財政難

組合員の徴募・維持活動は、労組の支出項目として大きな割合を占め、また多大な浪費が伴うことが多い。表3に見られるように、一部の組合では組合員の移動が激しく、加入者数を単に維持するのに毎年全加入者数の15%を徴募しなければならない状況になっている。

表3:加入者数に占める新規加入者数の割合
  1985 1990 1995 2000
加入者数 加入者数 加入者数 加入者数
TGWU 19.3 1,434,005 20.1 1,222,891 16.4 896,550 16.2 871,512
AEU 13.0 974,904 18.6 702,228 14.7 725,743 14.4 727,369
GMB 15.3 826,920 14.8 865,360 12.6 740,319 12.8 694,174
MSF 17.1 390,000 16.3 653,000 16.0 446,000 18.3 404,741
BIFU 9.4 157,468 11.6 171,101 14.0 123,540 16.3 171,249
USDAW 26.4 385,455 30.0 361,795 28.8 283,255 28.7 309,811

出所:respective union membership department section heads as at 17th October 2002

組合費の収入が長年にわたって減少してきたため、労組は投資や資産売却などにより収支の均衡に努めてきた。その一環として労組は、過去20年間にわたって、傷害・死亡給付など加入者に対する各種ベネフィットを削減してきたが、これが収支の均衡に寄与しているかは疑わしい。組合費の徴収率を引き上げられないことが、労組財政を苦しめている最も大きな要因だ。主要労組では組合費の徴収率は80%で、前述のように、これだけでは支出全体をまかないきれない。

1970年以降、ストライキの年間発生率が劇的に低下してきたのに伴い、ストライキ参加者を支援するために流動性の高い資産を維持する必要性も小さくなっていった。そのため労組は資産の運用先を株式などにシフトさせてきたが、株式市場の低迷により期待された収益を得られず、この面でも労組の財政は打撃を受けている。1998年に総支出を上回る組合費を徴収できたのは、上位16労組のうちわずか3労組にすぎず、2002年には1労組だけとなった。6労組は2002年末までに総収入で総支出をまかなえず、また残り9労組のうち7労組は純収入が10万ポンドを下回っている。

結論

近年、労組の合併が進んでいるが、加入者数や財政面では、合併の効果はほとんど得られておらず、この面ではむしろ小規模労組のほうが成果を上げている。同様に、TUC加盟の大労組よりも未加盟の労組のほうが成果を上げている。組合の財政力の低下により、組合員に対するベネフィットが低下しているだけでなく、今後成長が見込まれる産業部門で組合員を徴募していくことが困難になっていく可能性がある。とりわけ深刻なのは、若年層への浸透が進んでいないことだ。これまでの20年間に労組は加入者の減少で苦しんできたが、今後20年間は、財政難が原因でさらに多くの問題を抱え込むことになるであろう。

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