全国労働協約の改定をめぐる主要産業の動き

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  • 国別労働トピック:2003年10月

電機産業、自動車産業などで全国協約の改定交渉が進められている。今年の協約改定は、厳しい雇用情勢を受けて、レイオフの扱いと退職者への医療保険補助、退職者年金の扱いをどのようにするのかが焦点になっている(2003年7月号参照)。以下、各産業の全国労働協約の改定交渉の状況を具体的に紹介したい。

GEの新労働協約が妥結

6月27日ゼネラル・エレクトリック社は、1万3000人の組合員を持つ国際コミュニケーション労組(CWA-IUE)加盟組合と3500人の組合員を持つ全米電機ラジオ機械労組(UE)の主要な2労働組合との労働協約に署名をした。今回の交渉でGEの労働者側は、よりよい退職年金、雇用保障、上昇し続けるヘルスケア費用に上限を設けることなどを要求していた。新しい労働協約は、2003年から2007年までの4年協約である。新協約の内容は以下のとおり。

  1. 10カ月にわたる交渉の末の結果として、ヘルスケア費用についてGE社が拠出金の82%、労働者が18%をそれぞれ負担することで妥結した。
  2. 労働者の負担する掛金はわずかながら増加することになるが、これは、賃金と生活費用のパッケージによって相殺され、組合員には1万5272ドルを追加的に払い戻すことが約束された。
  3. 時間当たり賃金は、平均16.5%上昇し、3.52ドル増加することになる。
  4. 組合員は、年金受給に当たり、18%から50%の幅で増額された有利な年金テーブルをベースにした金額を受けることができる。
  5. 1020人の組合員に特別な早期退職措置が約束される。
  6. 組合員の退職者は、GE社が退職者に退職年金増額措置交渉の結果を経て支給するようになった小切手で予算総額1億4200万ドルの13回目小切手を2003年12月に受けとることになる。

今回の新協約の締結に当たり、CWA-IUEのファイアー会長は、「公正なキャンペーンの末の画期的な協約であり、今後の行動規範となる」と評価のコメントを出している。

UAWとビッグスリーの交渉始まる

全米自動車労組(UAW)は、7月中旬、ビッグスリーといわれる3大自動車会社、フォード社、ダイムラー・クライスラー社、ゼネラル・モータース社(GM)との全国協約改定交渉を始めた。前協約は、1999年に締結された4年協約で、2003年9月14日に期限切れを迎える。今回の最大の焦点は、退職者の医療保険と退職年金をめぐる扱いである。ビッグスリーは、各社とも営業利益が減少しており、7月発表のレポートによると、第2四半期の純利益は2001年以来の落ち込みをしめしている。企業にとって医療保険と年金に対するコスト負担は深刻なものであり、今回の改定交渉は、このような厳しい状況の中で行われることになる。

(1) 退職者の医療保険の課題

医療保険については、近年の処方箋薬代の値上がり等による医療費が高騰しているため、経営者の負担分の増加が、経営コストへの負担となっている。現在大手企業の3分の1が退職者への医療費補助を経費負担しているが、これらの企業の多くが、3年以内にその退職者への医療費負担を取りやめる計画があることを明らかにしている。

ちなみに、GM社では、従業員および退職者への医療費負担として、2001年には42万ドルを支出していたが、2002年には45万ドルに増加しており、フォード社でも2001年の24万ドルの支出が、28万ドルの支出に膨らんでいる。

一方、今年に入ってブッシュ政権はメディケア改革法案を議会で審議しており、政府による補助の増額を検討している(「海外労働時報」2003年4月9月号参照)。政府は10年間に4000億ドルの補助金を計上しているが、これにより、フォード社は、年間予算を5000万ドル節約できると発表している。

(2) 退職者企業年金の課題

米国では、公的年金に頼るより、企業がその運用を法的に任されている確定給付型や確定拠出型と呼ばれる企業年金が、退職者の老後の生活の重要な収入源となっている。とこが、株価の下落など景気後退により、資金運用の悪化や企業収益の減少などにより、年金積立金の不足状況においこまれている企業が多い。
そういった退職年金積み立ての不足分を補うため、GM社は、100億ドルの負債を社債や有価証券などの形で売り出す計画である。その収入のほとんどは、退職年金の積み立て、退職者への給付に当てられる。

UAWのゲティルフィンガー会長は、「退職者が不安のない生活が送れるよう3大自動車会社が責任を果たすことを期待する。年金プランは、現在の義務を果たすことによって生じた資産であり、将来の義務を果たすためには、調整もありうる。GM社、フォード社およびダイムラー・クライスラー社のすべての退職者が年金を受け取ることができるプランこそが本当の年金プランである。」とコメントしている。

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