労使紛争の迅速処理へ向けタスクフォース設置

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係

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  • 国別労働トピック:2003年9月

政府は6月30日、労使紛争の調停制度を見直すためタスクフォースを設置すると、フォン人的資源相が国家労働諮問会議(NLAC)の会合に出席した後の会見で明らかにした。年々増加の一途を辿る労使紛争を迅速に処理するため、新制度を構築したい意向だ。

フォン人的資源相の会見によると、不当解雇などをめぐる労使紛争の数が1970年以降確実に増加しており、労働局は毎年7000~8000件の労使紛争を抱えている。ところが紛争を処理する職員の数は30?40人に過ぎない。現行の労使紛争処理制度が破綻しているのではないかとの問いに対して、同大臣はこれを否定したものの、抜本的な見直しが必要であることは認めた。

こうした状況を打開する方策の一環として、2002年末には労使控訴裁判所を設置する方向で協議が最終段階に入っていると政府は発表していた。労使控訴裁判所が設置されれば、労使裁判所の決定に不服の使用者や労働者は、労使控訴裁判所に上訴することが可能になり、労働争議は、司法制度上の高等法院、控訴院、連邦裁判所の三つの段階を経る必要がなくなる。

今回設置されたタスクフォースは、こうした労使控訴裁判所の新設を含めて、労使紛争処理制度を全般的に見直し、これに代わる新制度を構築することを目指す。

タスクフォースは、人的資源省の事務次官を委員長に、マレーシア労働組合会議(MTUC)、マレーシア使用者連盟(MEF)、政府官庁からの代表で構成される。今後1カ月で現行制度の徹底的な検証を行い、改革案を提出する。フォン人的資源相は、労使紛争を調停機関へ持ち込める基準を厳しくする案も出ていることを示唆した。

解説:マレーシアの労使紛争処理システム

労使紛争は、まず、労使の自主的な話し合いや労働協約の手続きにしたがって解決が図られる。これで解決されない場合、労使いずれかが労使関係局長に調整を申し出、局長が調停に必要な措置をとる(申し出が無い場合でも労使関係局長は公共の利益を考慮して調停に乗り出すことができる)。それでも解決しない場合、局長は人的資源大臣に調整を申し出、大臣が調停に必要な措置をとる(局長の調停を経なくても大臣は調停に乗り出すことができる)。

以上の調整手続きによっても解決できない場合、人的資源大臣は労使裁判所に争議を付託することができる。大臣は、紛争当事者の付託申請を受けて、あるいはその権限に基づいて、労使裁判所に付託する。

労使裁判所への付託は人的資源省大臣だけができる(ただし、裁定や認証された労働協約の解釈をめぐる争いについては、その当事者自身も労使裁判所に付託することができる)。

労使裁判所は、法律の専門家である長官と、労使の代表それぞれ1名、合計3名で構成される。付託があってから30日以内に、労使裁判所は公益・国の経済・関連産業への影響を考慮したうえで、裁定を下さなければならない。

労使裁判所から出された裁定や命令は最終的であるから、それをさらに争うことはできない。しかし労使裁判所は法律裁判所ではないため、労使裁判所の手続きにおいて生じた法律問題についてだけは、司法制度上の高等法院に付託することができる。その場合、当事者は裁定が出てから30日以内に、高等法院への付託申請を労使裁判所に提出しなければならない。高等法院の決定は最終的であり、それを争うことはできない。しかし法律問題に関してはやはり、高等法院に対する上訴を控訴院へ、最終的には連邦裁判所へおこなうことができる。

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