特集3:連帯制度と早期退職制度
連帯制度の各種手当

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2003年9月

(1) 特定連帯手当(ASS)

ASSは下記の者を対象に給付される手当で、受給には規定の条件を満たしていること(特に収入制限と求職活動の実践(注1)、が必要である。

a) 給付対象

ASSの給付対象となるのは、次のいずれかに該当する者である。

  1. 失業保険手当受給期間を終了した長期失業者。
  2. 50歳以上で、失業保険手当か連帯手当のどちらかを選択できる者。

b) 給付条件

ASSを受給するには、以下の条件を満たしていなければならない。

  1. 収入制限を超えていない(2002年1月1日現在、単身者は935.20ユーロ、カップルは1436.60ユーロ)。
  2. 離職前10年間に5年以上の労働期間があること。病気、職業訓練、兵役の期間も労働期間に算入可能(育児のために少なくとも1年間休業した場合は、ある条件下で、休業期間を短縮して計算することができる)。

c) 給付額

2002年1月1日現在、ASSの給付額は以下のとおりである。

55歳以上の者については、次の場合に174.90ユーロの割増給付を受けることができる。

  1. 55歳以上で、被用者としての労働期間が20年以上ある者。
  2. 57歳6カ月以上で、被用者としての労働期間が10年以上ある者。
  3. 老齢年金への保険料納付期間が160四半期以上ある者(注2)。

d) 給付実態

ASS受給者数は、最近減少傾向にある。1999年初頭には約50万人だった受給者は、2002年末に約38万人にまで減っている。

(2) 社会参入手当(AI)

AIは規定の条件を満たす者に対して、6カ月間給付される連帯手当である(1回の更新が可能)。

a) 給付対象

AIを受給できる者は、以下のいずれかである。

  1. フランス国外で勤務していたために、失業保険に加入していない被用者で、182日間以上の労働期間を証明できる者。
  2. 労災あるいは職業病故に雇用契約が中断され、職種再転換研修の待機中である者。
  3. フランス難民・無国籍者保護局(OFPRA)に政治的避難を申請中かすでに難民の資格を得た難民または無国籍者。
  4. 2カ月以上の勾留の後に釈放された被勾留者。

若年者はAIの給付対象にならない。若年失業者に対しては、後述のとおり、ANPEの職業訓練制度や若年者雇用のプログラムが用意されている。

b) 給付条件

AIを受給するためには、以下の条件を満たしていなければならない。

  1. 失業保険手当の受給資格がない。
  2. 収入制限を超えていない(2002年1月1日現在、単身者は846.90ユーロ、カップルは1693.80ユーロ)。

(3) 年金相当手当(AER)

AERは、ある条件を満たす高齢者に対して、ASSの代わりとなるか、あるいは失業保険手当を補足する目的で給付される。

a) 給付対象

AIの給付対象となるのは、60歳未満の者で、60歳になる時に老齢年金保険料納付期間が160四半期に達する者。

b) 給付条件

AIを受給するには、収入制限を超えていないことが必要である(2002年1月1日現在、単身者は1383.84ユーロ、カップルは1989.27ユーロ。いずれも控除前)。

c) 給付額

2002年1月1日現在、AERの給付額は以下のとおりである。

・ASSの代替としてAERが給付される場合

世帯の所得が1112.27ユーロを超え1989.27ユーロ以下の場合、AERの給付額は配偶者の給与所得あるいは失業補償(失業保険手当や職業訓練手当など)が含まれているか否かにより異なる。

世帯の所得に配偶者の収入が含まれない場合、AERの給付額は、

1989.27ユーロ世帯の所得

・世帯の所得に配偶者の収入が含まれる場合

  1. 配偶者の収入が1112.27ユーロを超える場合、AERの給付額は、 877ユーロ配偶者の収入を除く世帯所得
  2. 配偶者の収入が1112.27ユーロ以下の場合、AERの給付額は、 1989.27ユーロ配偶者の収入以外を除く世帯所得

・失業保険手当の補足としてAERが給付される場合

  1. 単身者の場合:失業保険手当およびそのほかの失業補償と合わせた総額が877ユーロを超えない限りにおいてAERが給付される。
  2. カップルの場合:単身者の場合と同様に、失業保険手当およびそのほかの失業補償と合わせた総額が677ユーロを超えないかぎりにおいてAERが給付される。ただし、配偶者の給与所得や失業補償は考慮されない。

(4) 社会参入最低所得(RMI)

1988年、フランス社会における困窮者の増加が深刻化し、連帯制度の枠内で、社会参入最低所得(RMI)の導入が決まった。今日では、RMIが失業者救済の最後の手段としての役割も果たしている。

a) 給付対象

RMIの給付対象となるのは、フランスに居住する25歳以上の者である(扶養すべき子どもがいる、あるいは出産を控えている場合にはこのかぎりではない)。

なお、外国人の場合は、滞在許可証、3年以上のフランス在住を証明できる場合の労働許可付き一時滞在許可証、またはそれに相当する資格を有する場合に限る。

b) 給付条件

RMIの受給には、以下の条件を満たしていることが必要である。

  1. 収入がRMI給付額を超えないこと。
  2. 社会参入契約(Contrat d’insertion)を締結すること。

c) 給付額

2003年1月1日現在、RMIの最高給付額は以下のとおりである。この額と受給者の収入との差額が実際の給付額となる。

家族手当給付の対象となる子ども、そのほかRMI受給者本人が扶養する25歳未満の者(配偶者、同居生活者concubin、4親等までの親族)は扶養家族と見なされる。

給付額の決定には本人および配偶者(同居生活者、扶養親族)の収入が考慮される(考慮される、あるいはされない収入は次の表のとおり)。定期的な金銭的援助の類は収入とは見なされない(注3)。

d) 給付の実施

給付額の決定のために、RMI受給者の収入は定期的に審査される。当初は、RMI受給を申請した月の初めにさかのぼって3カ月間給付され、その後は各人の社会参入契約に基づいて3-12カ月間給付される。RMIの給付は家族手当金庫(CAF)によってなされる。

受給者の収入がRMI給付額を上回った月から給付は停止される。また、受給者が社会参入契約の内容を遵守しない場合には、給付は中断される。給付中断の決定は、社会参入委員会の答申後になされ、正当な理由を伴わなければならない。

なお、RMI受給中でも、住宅手当や社会保険手当の受給は可能である。また、RMIは非課税である。

e) 給与所得との並行受給

  • 完全並行受給

    就労あるいは報酬を伴う職業訓練による所得とRMIは、就労開始後最初の収入審査まで並行受給できる。就労後第1回目の収入審査の際には、この間の平均月間給与所得が100%控除される。したがってRMIの給付額は、

    RMI基礎給付額+給与所得

    となり、完全並行受給の期間は最長計6カ月になる。

  • 部分的並行受給

    さらにその後の9カ月間は、給与所得の50%が控除され、RMIの給付額は、

    RMI基礎給付額-給与所得

    となる。

  • 特例

    就労後第1回目の収入審査からの1年間の労働時間が750時間未満で、社会参入上の必要がある場合、県知事あるいはCAFの責任者は部分的並行受給の延長を認めることができる。その期間は、受給者の総労働時間が750時間に達した後の最初の収入審査まで。

  • 就労中断後の就労再開

    RMI受給者が就労中断の後に再び就労を開始した場合、就労再開前の3カ月間に給与所得がないことを条件に、改めて6カ月の完全並行受給と9カ月の部分的並行受給の適用を受けることができる。

  • 連帯雇用契約(CES)との並行受給

    RMI受給者が連帯雇用契約(CES、後述)によって収入を得ている場合、控除の割合はRMI基礎給付額の33%(2002年1月1日現在、133.85ユーロ)である。

  • 企業創設・再建の場合

    RMI受給者が企業を創設・再建した場合、創設・再建後最初の2回の収入審査においてはそれによる収入は考慮されず、その後2回の収入審査においては収入の50%が控除される。

f) 社会参入契約

RMI受給の申請をする場合には、社会参入契約を締結しなければならない。この契約は、RMI受給者と社会参入地方委員会との間で交わされる相互の取り組みで、同委員会はRMI受給者に社会参入活動に参加する手段を提供する。

  • 契約の内容

    社会参入契約には、以下の事項がその内容として含まれる。

    1. 受給者の日常生活の改善(収支、医療、住居)
    2. 職業訓練研修(職業指導契約、FNEによる社会参入・職業訓練活動)
    3. 適当な就労(雇用復帰契約、任意団体や行政における公益活動)
  • 契約の期間

    社会参入契約はRMIの受給開始から3カ月以内に締結され、契約の期間は3-12カ月である。受給者の社会参入に1年以上を要する場合には、契約にその旨を明記しなければならない。

  • 契約の実施

    契約中で言及された個人または機関が、受給者の社会参入プロジェクトの実施をフォローし、受給者を支援する。社会参入地方委員会は、受給者の契約内容の実現状況を審査し、RMI給付の更新に関する意見を答申する。

  • 契約の改定

    受給者、社会参入地方委員会の委員長、あるいは県知事の要望によって、契約は改定されうる。

g) 給付実態

2001年12月末現在、家族手当金庫(CAF)によるRMI給付支出は45億9000万ユーロで前年比-0.2%、RMI受給者総数は105万1725人で前年比▲1.9%となっている。

RMI受給者の世帯構成は、カップルが20%弱、単親世帯が約25%、そして半分強が単身生活者である。また、単親世帯の場合、母親と子どもの組み合わせが全体の94%と圧倒的に多い(表13)。このほか年齢別では、受給者の21.5%が30歳以下である。

RMI受給者のうち56%は住宅手当も同時に受給している。一方、RMI受給者の31.7%にとっては、RMIが唯一の収入源である。

RMI受給者の就職は、CESなどの特殊雇用契約による場合は比較的容易であるが、フルタイムの就職口を見つけることは難しい。受給者の社会参入は、受給期間が長くなるほど困難になる。また、社会参入を果たした過去のRMI受給者が再びRMI受給者となる場合、再度の就職の可能性は低まる。RMI受給者の雇用復帰に際してカギとなるのは、年齢、学歴、そして健康状態である。一般的に、若年のRMI受給者のほうが就職は容易である。

RMI受給中の就労状況に関しては、1996年12月時点におけるRMI受給者の26%が98年1月までに1度は就労(報酬を伴う職業訓練を含む)した。このうち4分の1が無期限雇用契約(CDI)で、4分の1が有期雇用契約(CDD)あるいは人材派遣による雇用、そして3分の1がCESなどの被援助型雇用であった。これらのRMI受給者の平均給与所得は月610ユーロ(被援助型雇用の場合は月535ユーロ)で、大部分の者は時間給にしてSMICとほぼ同額の報酬を得ている(注4)。

h) 失業保険手当受給者とRMI受給者との相違

失業保険手当を受給中の失業者とRMI受給者との間には、相違が存在する。

両者間の違いは、まず、失業期間に顕著に見て取れる。失業保険手当受給者は失業期間12-17カ月の者が全体の34.2%で最も多いが、RMI受給者の場合は、失業期間36カ月超が41.6%と最も多く、長期失業者が圧倒的に多いことを示している。

婚姻の状態に関しては、失業保険手当受給者は全体の52.6%が既婚者であるのに対して、RMI受給者では独身が58.5%と最も多く、次いで離婚者が21.3%となっている。

学歴の程度に関しても違いが見られる。失業保険受給者では「免状なし」が40.3%であるのに対し、RMI受給者では51.6%、バカロレア(高校卒業)以上の学歴を持つ者は、前者で15.8%、後者で8.9%となっている。

これらを総合すると、RMI受給者は、通常の失業保険手当を受給している者に比べて、失業期間が長く、低学歴で、独身あるいは離婚経験者が多いというように、社会的に疎外された者であることが分かる。これらは両者の給与希望価格の相違にも反映されている。失業保険手当受給者が6.38ユーロの時給を希望するのに対して、RMI受給者では5.29ユーロと低い。

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