基礎情報:インド(2013年)
5. 社会保障

5-1 公的年金制度

インドでは年金制度がカバーしているのは国民の1割程度しかいない。年金制度は中央と州の両方の共通管轄事項となっており、中央レベルの制度が州レベルで適用されるためには州の法律が必要になる。ここでは中央レベルの年金制度について述べる。

1952年従業員退職準備基金および関連諸法にもとづき、187の産業・業種の民間および公企業の組織部門の労働者のために3種類の退職後の生活保障のための基金が設けられている。労働者は基本給と物価手当の12%、使用者はその12%と基金の運営費として1.1%、中央政府は1.16%を基金に拠出する。対象となる労働者は月6,500ルピー未満の労働者であり、月6,500ルピー以上の労働者は使用者の同意のもとで任意に加入できる。外国人は賃金額に関係なく適用される。ただし社会保障協定を締結した国の国民は適用されない。2012年5月、日本とインドの社会保障協定が合意され、両国の社会保障制度に加入が義務付けられることによって保険料の二重払いを避けることができるようになる予定である。二国間条約が締結し、署名されれば効力を持つ。そうなればインドで働く日本人は加入する必要はなくなる。

1つ目は退職準備基金で、55歳以上で定年退職や労働不能になった場合の生活を支える基金であり、55歳以上で退職した場合、自己都合以外の理由で解雇された場合、2カ月以上失業している場合に、基金の残額の90%まで引き出すことができる。これは年金ではなく一時金としての支払いとなる。

2つ目は1995年11月16日以降に施行された退職準備基金に加入した者に対する従業員年金スキームで、老齢年金、退職年金、障害年金、寡婦年金として年金額が支給される。退職前12カ月間のへ平均賃金(最大額6,500ルピー)×加入年数÷70に相当する額が年金額として58歳以上で制度に10年以上加入している者に支給される。10年未満の加入期間しかない者には一時金が支給される。

3つ目は1976年8月1日以降設けられた預託保険制度で、生命保険として設計されており、使用者だけが負担し、諸賃金の0.5%分を預託保険基金に拠出する。労働者により優位な待遇を付与しようとするものである。労働者が死亡した場合に、その遺族に一定の額が支払われる。これに加入するかどうかは企業の任意にまかされている。

2003年12月以前に採用された公務員の場合は、公務員年金スキームに加入し、60歳の定年や死亡によって確定給付型年金が国家予算から支給され、加入者の負担はない。2004年1月以降採用の公務員は、2004年に確定拠出型積立年金として新たに創設された国家年金制度の適用を受ける。2009年5月以降民間企業や公企業の従業員も任意に加入できるようになった。2階建てになっており、1階部分には公務員は基本手当と物価手当の10%を納付し、政府も同額を支払う。公務員以外は年間の最低納付額は6,000ルピーである。政府は負担しない。60歳からの年金支給となる。2階部分の加入は任意であり、口座開設時には年間最低1,000ルピーの支払いが必要となり、その後1回あたり最低250ルピーの納付が義務付けられる。この部分への政府の負担はない。いくらの年金額になるかは積立金の運用しだいである。

資料出所:Government of India(2013) “INDIA 2013” Publication Division
太田仁志(2013)「インドの年金制度」『年金と経済』公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構、Vol. 31、No. 1

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5-2 企業年金制度

任意に使用者が加入できる預託保険制度が企業年金制度の1つとなっている。上述の国家年金制度での任意加入の2階部分も企業年金とみることもできる。さらに生命保険会社が個人に提供する年金制度もある。

5-3 社会保険料の労使負担割合

従業員退職準備基金および関連諸法による保険料は労働者は基本給と物価手当の12%、使用者は12%と基金の運営費として1.1%を負担する。預託保険制度に加入する場合には、使用者は基本給と物価手当の0.5%を支払う義務がある。国家年金制度に任意に加入する場合には、1階部分のために労働者が年間最低6,000ルピー、2階部分のために口座開設時に最低1,000ルピー、あと年間最低250ルピーの支払いが必要となる。

従業員国家保険制度では失業保険、労災保険、医療保険をまかなうために、使用者が賃金額の4.75%、労働者が1.75%を負担する。

5-4 公的扶助制度

生活保護

全額税金で賄われる生活保護としてはインディラ・ガンディー全国高齢者年金スキームがある。これは貧困線以下の60歳以上の高齢者に支給されている年金である。これは農村開発省国家社会扶助プログラム局が管理運営している。中央政府が費用を負担するが、州も同額の負担をする場合もある。月200ルピー(80歳以上には月500ルピー)が支給される。州も負担すると月400ルピーが支給される。

医療保険制度

医療保険制度は1948年従業員国家保険法(Employee State Insurance Act, 1948)に基づき、従業員国家保険公社によって運営されている制度と貧困層を対象とする国家医療保険制度がある。

従業員国家保険制度ではこの制度が適用になる被保険者とその家族、退職直前の5年間この制度に加入していた退職者とその配偶者、労働災害で永久的労働不能になった者、失業保険を受けている者に、疾病、出産、傷害等に給付を与えている。この制度によって運営される病院での外来や入院が無料になり、医薬品も無料で提供される。傷病手当として、年間最大91日まで賃金の70%が支給される。一部の疾病の場合には最大2年間、賃金の80%が支給される。不妊手術の場合には男性に7日、女性に14日間賃金の100%が支給される。これは家族計画を実施するためである。

保険料は事業主が賃金の4.75%、労働者が1.75%である。これで失業保険、労災保険、医療保険をまかなう。貧困層には中央政府が費用の75%、州政府が25%を負担して、1世帯に年間3万ルピーまでの医療費が給付される。但し対象となる世帯は年間30ルピーを登録料として負担しなければならない。

労災保険制度

労災保険制度は1948年従業員国家保険法(Employee State Insurance Act, 1948)に基づき、従業員国家保険公社によって運営されている。就業中の負傷や職業病にかかった者に、一時的な労働不能給付(賃金の90%相当額)、永久的な労働不能給付(能力の喪失の程度にあわせて最大で賃金の9%相当額)が支給される。本人が死亡した場合は遺族給付が支給される。賃金の90%が上限である。

従業員国家保険法によって補償されない労働者の損害は1923年労働者補償法によって補償されている。これは事業主が費用を負担する。死亡や永久的な労働不能の場合に賃金や年齢に応じて額が決められている。死亡の場合の最低額は14万ルピー、永久的労働不能の場合の最低額は12万ルピーである。

資料出所:Jeet Singh Mann(2010) “Comprehensive Social Security Scheme for Workers”Deep & Deep Publications

非組織労働者への社会保険

2008年非組織労働者への社会保障法(The Unorganized Workers’ Social Security Act 2008)が制定されている。10人以下の労働者を雇用する事業所に適用され、登録した労働者に医療、出産、年金を給付する制度である。しかし、まだ具体化はされていない。

2005年全国農村雇用保障法によって、農業労働者に年間100日公共事業での雇用を保障し、その生活維持を図っている。

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5-5 育児休業制度

1961年出産給付金法(Maternity Benefit Act, 1961)では、産後6週間は女性を働かせてはならない。産前の場合、女性の申し出があれば、厳しい作業や長時間の立ち作業の場合は出産予定日の1か月前、流産に危険がある時には、出産予定日の6週間前以降働かせてはならない。その間最大12週間という期間限定はあるが、100%の賃金相当額が出産給付として保障される。さらに出産後15週間までは1回15分の授乳時間を2回、勤務時間中に設けることが義務とされている。しかし、この法律では育児休業制度は設けられていない。ただ就業規則によって設けることができる。さらに父親休暇制度も取り入れて、妻の出産に立ち会うケースもでてきている。インドの中産階層以上の家庭では乳母やベビー・シッターを雇って子どもの面倒を見てもらうことができるし、家事労働もお手伝いさんに任せられる。子どもができても、女性は退職する必要はない。共同家族制度の場合には身内のだれかが子どもの面倒を見てくれるし、家事労働も任せられるので、女性が退職する必要はない。非組織部門の職場(たとえば建築現場等々)の場合には、子どもを連れてきて仕事をしながら子供の面倒をみている。困るのは都市部の核家族の場合で、乳母やベビー・シッターを雇えない場合である。

資料出所:P. L. Malik(2007) “Handbook of Labour and Industrial Law”Eastern Book Company

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5-6 育児に対する経済的支援(児童手当等)

使用者は産前産後のケアを無料で提供するか、医療ボーナスとして250ルピーを支払わなければならない。法律で定めるのはそれだけであるが、就業規則で子どもの扶養手当を支給する規定を設けた場合は、使用者に支払い義務が発生する。

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5-7 保育サービス:就学前児童向け託児施設の設置状況

1948年工場法(Factories Act, 1948)48条によって30人以上の女性を雇用している事業所では6歳未満の子どもを世話する施設を設置することが使用者に義務づけられている。そこでは衛生的で清潔な状態を保ち、一定の明かりを持ち、飲み水の供給が求められている。さらに資格のある保母の雇用が義務づけられている。

事業所内託児所がない場合は、保育所は3歳から預かってくれる。3歳前には乳母やベビー・シッターに頼む場合が多い。これは中産階層以上の場合だけである。

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:インド」