研究報告 出産・育児期の継続就業と育児休業
—大企業と中小企業の課題:第46回労働政策フォーラム

女性が働き続けることができる社会を目指して
(2010年6月3日)

池田心豪:労働政策フォーラム研究報告(2010年6月3日)/JILPT

研究報告:出産・育児期の継続就業と育児休業―大企業と中小企業の課題

JILPT研究員 池田心豪

先ほど定塚課長からも話があったとおり、女性の継続就業は出産・育児期にとりわけ難しいことから、本日はこの点に関する研究成果を報告する。

1992年の育児休業法施行から、15年以上経過したが、この間、法改正もあり、両立支援に関する制度は整いつつある。近年は、能力ある女性の退職は企業の競争力強化の観点からみてデメリットということも指摘されるようになった。

だが、依然として、出産・育児期に多くの女性が退職する状況は変わっていない。

依然として多い出産退職

図1 育児休業の規定率と女性の取得率
(30人以上の事業所・1993−2005年)

図1 育児休業の規定率と女性の取得率(30人以上の事業所・1993−2005年):労働政策フォーラム事例報告(2010年6月3日)/JILPT

資料出所:「女性雇用管理基本調査」(厚生労働省)

図1は育児休業の規定が就業規則などある事業所の割合(規定率)と女性の取得率の推移を示している。育児休業法施行の翌年の1993年から2005年まで規定率、取得率とも上昇している。

図2は日本全国の専業主婦世帯数と共働き世帯数の推移を示している。赤い線が専業主婦世帯で、青い線が共働き世帯。昭和55年頃は専業主婦世帯の方が多かったが、現在は共働き世帯との関係が逆転し、共働き世帯は増え続けている。これらのグラフをみると「女性の継続就業は増えているはずだ」と思いがちだが、実態は異なる。



図2 共働き世帯数の推移

図2 共働き世帯数の推移:労働政策フォーラム事例報告(2010年6月3日)

資料出所:昭和55年から平成13年は総務省「労働力調査特別調査」(各年2月。ただし,昭和55年から57年は各年3月),平成14年以降は「労働力調査(詳細集計)」(年平均)。「平成20年版男女共同参画白書」(内閣府)78頁より引用

図3 第1子出産前後の雇用就業率
(出産女性・コーホート別)

図3 第1子出産前後の雇用就業率(出産女性・コーホート別:労働政策フォーラム事例報告(2010年6月3日))

資料出所:「仕事と生活調査」(JILPT 2005 年)

図3は第1子出産の1年前、出産時点、出産1年後、出産2年後に雇用就業していた女性の割合をコーホート別に示している。「団塊世代」より少し下の1950年~55年生と1956~60年生の2コーホートは均等法が施行される前に労働市場に入り、まだ育児休業法もない時代に第1子を産んだ世代である。最も若い1971年~75年生は「団塊ジュニア世代」に当たるが、このコーホートは、すでに均等法が施行され、育児休業法もあり、さらには少子化対策のもとで保育サービスなども拡充されてきた、そうした時代に第1子出産を迎えた世代である。若いコーホートは、出産1年前の時点では、高い雇用就業率を示しているが、出産1年前から出産時点までの1年間でその割合は大きく低下する。その結果、出産時点の雇用就業率は古い世代とほとんど差がない。若い世代も多くの女性が出産・育児期に退職していることがうかがえる。

大企業と中小企業の課題

ただ、どういった状況で退職しているかを分析すると、大企業と中小企業で状況が異なっている。

まず、中小企業では、依然として育児休業の取得が難しい。その背景として、育児休業制度がまだない企業や、あるいは毎年女性が出産したり、若い女性従業員が毎年入社したりすることがないことから職場に育児休業取得の前例がない企業が中小企業には多いことがあげられる。

図4 企業規模別育児休業制度の規定率
―1999年と2007年の比較―

図4 企業規模別育児休業制度の規定率 ―1999年と2007年の比較―:労働政策フォーラム事例報告(2010年6月3日)

資料出所:1999年:「平成11年度女性雇用管理基本調査」(労働省)
2007年:「有期契約労働者の育児休業等の利用状況に関する調査」(JILPT)

一方、大企業の場合、育児休業の取得者は増えている。しかし、育児休業の取得者が増えても継続就業は増えていない。後ほど詳しく説明するが、職場で育児休業制度が整備されていても、休業の前後で仕事と家庭の両立が難しいといったように、育児休業とは別の要因で両立が難しいことから退職していることが分析結果からうかがえる。

図4は、育児休業制度の規定率を1999年と2007年で企業規模別に比較している。育児休業法の施行から7年後の99年には、300人以上の大企業のほとんどが育児休業制度を導入していた。一方、企業規模299人以下の中小企業は、相対的に規定率が低かった。しかし、2007年では、100~299人と30~99人の企業規模でも規定率は上昇しており、中小企業でも徐々に育児休業制度を導入する企業は増えてきたことがうかがえる。ただし、30人未満の企業ではまだ規定率が3割程度にとどまっている。このように、育児休業の規定率には、企業規模ごとに差があり、中小企業では育児休業制度がないことが継続就業を困難にしている可能性が高い。

図5 企業規模別妊娠・出産期の退職者と育児休業取得者の割合
(1961−75年生)

図5 企業規模別妊娠・出産期の退職者と育児休業取得者の割合(1961−75年生):労働政策フォーラム事例報告(2010年6月3日)

資料出所:「仕事と生活調査」(JILPT 2005 年)

図5は、妊娠・出産期の退職者と育児休業取得者の割合を企業規模別に示している。白い帯は育児休業を取得して仕事を続けた女性の割合、黄色い帯は育児休業を取らずに継続就業した女性の割合、赤い帯は育児休業を取得せずに退職した女性の割合である。企業規模30人未満では育児休業を取得して継続就業した割合は5.4%と非常に低い。一方、育児休業を取得せずに退職した割合は51.4%と高い。同じ傾向は30~99人規模の企業でも見られる。つまり、100人未満の企業では、育児休業取得がまだ浸透しておらず、そのため多くの女性が妊娠・出産期に退職しているといえる。

一方、300人以上の大企業では、育児休業を取得して継続就業した女性の割合は高い。しかし、問題は育児休業を取得せずに継続就業した女性の割合が、100~299人規模の企業に比べて低いことだ。その結果として、退職の割合は100~299人規模より、高くなっている。大企業では、休業を取っている女性は継続就業できているが、休業を取らなかった女性は辞める割合が高い。その結果として、継続就業が増えていないという状況になっている。

以上のように大企業と中小企業では課題が異なることを理解いただけたかと思う。中小企業では育児休業取得の難しさが継続就業を難しくしているといえる。一方、大企業では育児休業取得者は増えているが、継続就業は増えていない。今日の日本社会が直面している休業取得者が増えても継続就業が増えないという問題は、主に大企業で顕著に表れている。

中小企業と両立支援の制度化

中小企業については「個々の従業員から申し出があれば柔軟に対応しているので、わざわざ制度を設けなくても支援ができている」という主張をしばしば耳にする。しかし、今年我々が行ったヒアリング調査では「中小企業でも制度を整える必要がある」という指摘が企業・労働者双方からされていた。労働者にとっては制度がないと継続就業の見通しを立てることが難しくなる。企業にとっても、制度的な枠組みがない状態で女性従業員から休業の申し出があった場合、相手のいいなりになってしまう恐れがあるとの指摘があった。労務管理の負担を増減する意味でもきちんと制度を整える必要があるといえる。

両立の実態に沿った支援を

一方、ヒアリング調査によると大企業では、法定を上回る育児休業制度があるにもかかわらず、結果的に退職したという女性もいた。この女性が働いていた企業は子どもが3歳になるまで、育児休業を取ることができ、育児休業を取得しにくいという雰囲気もなかった。しかし、職場が交代制勤務で、勤務する時間帯が保育時間に対応していなかった。結果的に彼女の職場には結婚や出産を機に退職する女性が多く、彼女自身も育児休業を取得したが、休業中に別の就職口が見つかったので、退職した。個別の両立支援制度が整備されており、それを利用することができても、仕事と育児の両立困難に直面する女性の実態に沿っていなければ、女性は辞めざるをえないということを示唆するエピソードではないだろうか。

企業が女性に継続就業を期待するのは、戦力として女性を活用したいという理由によるものだろう。均等法施行後、女性の職域が拡大し、活躍の場は広がりつつある。しかし、企業が一方的に女性に期待するだけでは、逆効果になる可能性もある。ある女性は、残業や出張の多い仕事でも、出産前はやりがいを感じていた。だが、子どもができたら、そのような働き方はできない。そのことについて、復職後に職場の理解を得ることができず、出産前と同じような働き方を求められたことから、「これ以上は続けられない」と退職してしまった。また、ある企業では、女性に活躍してほしいという方針で、均等施策を推進してきたが、一部の女性に「これは男性と張り合う人のための取り組みだろう」「自分たちには関係ない」という印象を持たれてしまったという。企業として、多くの女性に活躍を期待するのではあれば、当の女性がどのような働き方を望んでいるのかを踏まえて、長く働ける環境を整備することが重要だ。

コミュニケーションの重要性

現在、両立支援についても、ポジティブアクションについても、様々な情報が流れており、政策メニューもたくさんある。だが、どういう施策が自分の職場、個々の従業員にあっているか、コミュニケーションを通じて、共有していくことが大事ではないか。

たとえば、ある不動産業の企業は、法定を上回る両立支援制度をつくっており、外見的には「ファミリーフレンドリー企業」だった。しかし、次世代法の施行を機に、労働組合の要求で一般の女性従業員をメンバーに入れた専門委員会を開いたら、人事担当者が想定していなかった意見が女性従業員から出された。制度を利用しにくいという意見が出たのだ。その意見を踏まえて、両立支援のあり方を一から見直した結果、一般事業主行動計画期間中に出産を理由に退職した女性がゼロになった。

また、企業からの働きかけだけでは、従業員の多様な課題に対応仕切れない部分もある。そうしたときに先輩や経験者がお手本となったり、相談相手になったりして、従業員同士が協力しあう雰囲気をつくることで、互いに継続就業意欲を高め合うことも重要だ。

両立支援の課題

我々の調査結果から見えてきた、出産・育児期の継続就業を可能とするための課題は大きく分けると2つある。

1つ目は妊娠・出産から復職後の働き方までトータルにサポートする両立支援の整備である。中小企業では、従業員ごとに柔軟に対応するだけではなく、それを制度化し、安定して両立支援ができる体制を職場につくることが重要である。そのために、21世紀職業財団や各都道府県の窓口など、両立支援制度を導入するためのノウハウを提供してくれる外部の支援を活用することも1つの方法である。育児休業制度が整備されている大企業では、個別制度の拡充と利用に終始せず、各制度が継続就業できるよう設計されているかを見極め、制度を利用しやすい環境をつくっていくことが大切だ。

2つ目は、女性が働き続けたいと思えるような職場づくりである。そのために女性の活躍を推進し、均等待遇を進めることは言うまでもなく重要なことである。だが、企業の都合で一方的に女性に期待するのではなく、当事者である女性従業員の意見や要望をしっかりと踏まえた雇用管理を行う必要がある。また、企業側から把握しづらい課題に対応するために、両立のロールモデルやメンターを職場につくり、従業員同士が継続就業意欲を高めあう関係をつくっていくことも重要である。