報告2:スウェーデンの有期労働契約の法制度 ―煩雑化した入口規制から、有期活用を認めつつ出口規制へ―
国際比較:有期労働契約の法制度
第44回労働政策フォーラム(2010年3月8日)

<報告2>スウェーデンの有期労働契約の法制度
―煩雑化した入口規制から、有期活用を認めつつ出口規制へ―

ミア・レンマー(ルンド大学准教授)

有期雇用は増加傾向

スウェーデンにおいて、有期雇用は増加傾向にある。90年に有期雇用契約労働者は10%であったが、2008年には16.1%へと増加している。EU15カ国の平均は、2008年は14.1%であった。有期雇用は製造業よりも、サービス業において、より一般的である。また、男性よりも女性、中高年よりも若年層に多い。

組合組織率は、有期雇用では低く、約50%である。これは他の国においては高い組織率といえようが、スウェーデンでは高いとはみなされていない。


労使関係、労働法の特徴

有期雇用の規制について説明する前に、スウェーデンの労使関係、労働法の特徴について説明する。

労使関係制度は、さまざまな柱からなっている。自主規制、独立した団体交渉、ソーシャル・パートナーシップなどである。労働条件、雇用条件は通常、団体交渉で合意した労働協約で決められる。団体交渉は、共同決定、労使協議、多様な情報提供などの仕組みによって補強されている。

組合組織率は現在70~75%で、全国労働協約の適用率は90%である。他の国と比較して組織率は非常に高いといえる。

だが90年以降、労働法が強化され、労働法によって重要な労働条件のかなりの部分がカバーされるようになってきている。95年にEUに加盟したことで、この傾向はさらに強まっている。

特徴的なことは、スウェーデンではほとんどの労働法の規制が「準強行的」なものであることだ。すなわち、労働協約で労働法の規制から逸脱することができる。労働法の規制を企業や産業のニーズに応じて柔軟に修正することができる。このことは労働者にとって利益になることもあれば、不利益になることもある。

また、スウェーデンの労働法の特徴は、労働者の概念が非常に広いことである。あらゆる種類の非典型雇用者が含まれる。有期雇用契約労働者も含まれる。

伝統的に均等待遇がさまざまなカテゴリーの労働者に提供されている。これは法的な規制においても、また団体交渉の結果においても、同様である。ブルーカラー・ホワイトカラーにおいても均等待遇だとする。公共部門、民間部門、また有期、無期労働者、どちらにも均等待遇が提供されている。

雇用保護法による有期労働規制

有期雇用契約の規制については、イギリスと同様に、74年に雇用保護法が制定されて以来、重要な問題となってきた。同法制定により、解雇に関する保護が設けられ、その関連で有期雇用契約に関しても規制を行う必要性が生じた。

まず、使用者の権利、つまり採用の自由という論点がある。差別禁止、憲法の原則などはあるけれども、まず採用の自由が出発点である。

74年の雇用保護法で幾つかの原則が提示され、それらは現在も適用されている。まず、無期雇用契約労働者(常用労働者)と有期雇用契約労働者を区別している。

無期雇用契約とは、期間に定めのない契約に基づく雇用であり、契約が終了するのは解雇の場合のみだ。解雇には正当な理由が必要となる。また、雇用保護法では、使用者は正当な理由を示すだけではなく、労働組合との交渉により、解雇した労働者に対して代替的な仕事、あるいは再雇用などを提供することが求められている。

有期契約は、一定期間の契約であり、契約は合意された期間が満了したときに終了する。これは解雇の問題ではなく雇用保護法に抵触しない。したがって、イギリスのシステムとは異なる。

そして、雇用契約は無期契約を原則としている。立証責任は、有期契約が存在すると主張する側、すなわち使用者にある。有期契約が許可されるのは、合意された場合および労働協約で規定された場合だけである。有期契約に関しての法律は「準強行的」であることから、労働協約によって、これを厳しくも緩くもできる。

有期契約に関しては、70年代からかなり厳しい規制を採っている。まず、有期雇用契約を締結できる条件を、明確な期限、期間、特定の季節、特定の業務・仕事、あるいは特定の不在労働者の代替である場合に限定している。これらの条件は非常に狭く解釈することになっている。

とはいえ、有期雇用契約の範囲は、その後、広げられている。例えば、使用者の業務量が一時的に増大した場合、あるいは試用のための雇用などに拡大された。こうした適用範囲の拡大は、雇用保護法の改正と判例法の変化によって行われてきた。

雇用保護法の制定以来、裁判所が有期雇用契約に関する事件を取り扱ってきた。裁判所は、使用者に対し有期雇用契約を締結するチャンスを広げてきたといえる。この結果、使用者にとって有期雇用契約を利用できる理由が増えることになった。

EU指令の適用

有期労働に関するEU指令との関係について述べる。EU指令には、不利益取り扱いの禁止、有期労働契約の濫用防止措置の2つの規定がある。この指令は、EUのフレキシキュリティの議論を基礎としている。さらに統合された柔軟性と安定を提供するというEUの雇用戦略にも繋がっている。とくに労働市場の柔軟性が強調されており、これは労働者の数を調整できるようにするとの考え方である。

同時に、機能的な柔軟性もこれによって可能になってくる。EUのフレキシキュリティの議論をみていると、重要な要素となっているのは、柔軟な、信頼できる契約上の取り決めである。これによって労働市場のセグメント化が薄れ、無期契約と有期契約の労働者の間の均等待遇が強調されるようになった。

この均等待遇の原則に関しては、非常に重要な、根本的な特徴があることを指摘しなければならない。

典型、非典型の労働者に関する伝統的な差別禁止の規制をみると、均等待遇には違いがある。非典型の均等待遇は、労働者の個人的な特徴、つまり性別、人種、あるいは年齢などではなくて、雇用契約の質に基づいている。したがって、人権に関する議論ではなく、グローバル化などの議論に基づいていることが特徴である。

有期労働に関するEU指令は、差別禁止をうたっているけれども、もう1つ、雇用保護の規制緩和もうたっている。つまり進歩的な雇用保護である。

差別禁止の原則に関するEU指令をスウェーデンでは2002年に国内法化した。具体的には有期雇用契約、パートタイム労働に関する法規に、EU指令の規定を盛り込んだ。スウェーデンではこのほか、差別禁止規制とも調和がはかられた。その中には、直接的な差別だけではなく、間接的な差別も含まれている。したがって、EU指令の要件を上回る規定を盛り込んでいるといえる。

継続的な有期雇用の使用、すなわち濫用防止に関しては、既存の雇用保護法で十分にEU指令の要件を満たしていると考えられている。

現在の法規制

有期雇用契約について定めている雇用保護法が、2007年に大きく改正された。この改正にはいろいろな目的があったが、重要な点は、法規制を簡素化する、明確化することであった。以前は利用可能事由に関する法的なリストが多岐にわたり、使用者としても、また労働者としても、リストの内容を正確に解釈し、権利を法廷で主張することが難しかった。

政府には、有期雇用契約を活用する機会を増やしたいとの目的もあったようである。

労働政策フォーラム開催報告【報告1】(2010年3月8日)「国際比較:有期労働契約の法制度~欧州諸国の最近の動向~」/独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)

2007年の改革によって、新しい有期雇用契約に対する姿勢が打ち出された。「一般有期雇用」(雇用保護法5条1項)に関しては、客観的理由は必要なくなった。これにより使用者は「一般有期雇用」を用い、有期契約労働者を何人でも採用できることになった。したがって、企業の従業員全員を有期契約労働者とすることも可能になった。これは全く新しい制度である。

しかし、労働者に雇用安定を提供するために、期間の上限を定めた。5年間に合計2年間を超えて同一使用者に有期契約で雇用された場合は、自動的に無期契約に転化することになった。

しかし、この一般的有期雇用と「臨時的代替雇用」(同5条2項)は通算されない。例えば、5年間に2年未満の一般有期雇用に2年超の臨時的代替雇用で計4年間有期雇用であっても無期雇用には転化しない。「臨時的代替雇用」とは、従業員が一時的に休業している場合や、特定のポストが一時的に空いている場合の代替雇用を意味する。当該ポストを埋める無期契約労働者(常用労働者)がいない場合、有期雇用契約が認められる。スウェーデンではさまざまな長期休暇の権利が認められ、休暇期間が長いこともあって、この臨時的代替雇用のニーズは高い。労働裁判所では、最近この要件を緩和している。

一般有期雇用、臨時的代替雇用以外に、期間や更新に関する規制のない季節雇用、67歳以上の労働者の有期雇用も定められた。

さらに試用目的の有期雇用が定められた(同6条)。期間は最大6カ月である。使用者は、この試用期間中、労働者を自由に解雇できる。この解雇について、雇用保護法上の保護を求めることはできない。しかし、この場合も集団的労使関係上の権利は尊重されなければならない。

情報に関する権利も定められた。例えば有期契約が直近の3年間に12カ月以上となった場合、使用者は、終了の1カ月前に予告しなければならない。そして当該労働者が正規の資格を有している場合には、再雇用の優先権が認められている。

有期雇用をめぐる紛争の多くは労使交渉によって解決されるが、解決できない場合は、労働裁判所の司法審査(原則一審制)に委ねることになる。毎年200から250件ほどの案件が裁判所で争われる。雇用保護法に関連する労働紛争で、有期契約が最終的に無期契約に自動転化した場合には、懲罰的損害賠償も認められうる。しかし、無期契約への転化に使用者が従わない場合のサンクションは、無期契約の強制ではなく損害賠償にとどまる。

現在の法規制に労組は反対

現在、労働組合は、スウェーデンの有期雇用に関するEU指令の実施について抗議している。EU理事会に対して、スウェーデンの2007年の雇用保護法改正は、EU指令に従った実施ではないと異議申し立てをするとともに、欧州議会に対してもプレッシャーをかけている。

差別禁止に関しても議論がある。これまでのところ、差別があるとの主張が認められたケースはない。この背景には、比較可能な労働者の特定が難しく、さらに有期雇用であることで差別されているのか否かを実証することが難しいという問題点がある。

現時点で2007年の雇用保護法改正の効果を評価するのは、時期尚早である。しかしながら、興味深いのは、雇用保護法の改正がEU指令に基づいていないと異議を申し立てているのが、組合であることだ。

雇用保護法の改正はあったが、その規制のインパクトを和らげる役目を果たすのが団体交渉であることは従来と変わりない。労働協約は新しい改正に何ら影響は受けていない。現在の団体交渉に関する規則は、74年の規則と同じである。

ただ、継続した有期雇用契約の上限を定めていることについて、マイナスの副作用があるかもしれない。というのは、上限に近づいてくると雇用が提案されないことがあるからだ。

いずれにしても、今般のスウェーデンの有期雇用契約のルールは、有期雇用締結規制を緩和し、一定期間については客観的理由を不要として有期契約利用を一般的に認める一方、有期雇用が一定期間以上となった場合には無期雇用への転化を認めることで、フレキシキュリティを促進するという考え方を採用したものといえる。

質疑・応答:スウェーデン

質問:

2007年の雇用保護法の改正が非常に重要であることが分かった。有期契約を自由化した。とくに「一般有期雇用」に関しては客観的理由なしで有期契約が利用できることになった。その意味において自由化されたわけであるが、一方で、契約期間の上限が決められた。その点ではむしろ厳しくなったといえよう。

先ほど有期契約に関して「標準化される」、あるいは「一般化される」との説明があったが、これは何を意味するのか。

レンマー:

客観的理由が不要になった。これを「一般化された」、「標準化された」と表現した。有期雇用を使うことが標準となった。これまでは使用者が有期雇用を使うことを制限していたが、この制限がなくなったので「一般化」と表現した。

質問:

2007年の改正前は、規制が複雑過ぎて、使用者はその規制の遵守が困難だったということか。

レンマー:

そのとおりである。有期労働契約を結び得る9つの事由が長いリストとして定められており、有期雇用を使うことは非常に複雑・困難だと考えられていた。

9つのカテゴリーの中に、プロジェクト雇用契約というカテゴリーがあった。このカテゴリーに基づいて、例えば研究職の労働者を5年、8年、10年、あるいは20年と期間を制限して、法律に抵触することなく、有期契約で雇用を続けることができた。

これに対して2007年の改正では一般的有期契約は、2年、あるいは3回の更新までに限定されることになった。

質問:

有期労働契約において、解雇の制約はあるのか。無期契約労働者の解雇に関しては正当な要件が求められている。有期雇用にも同じような要件があるのか。有期雇用契約の更新を拒否する、あるいは契約を終了するのに、何か要件はあるのか。

荒木:

無期契約労働者の解雇に必要な「正当な要件」と同じような要件は、有期雇用に関してはない。12カ月~3年間、雇用されていれば、契約終了が1カ月前に通知される権利はある。交渉の権利もある。組合員であれば企業の組合を通じて交渉する権利がある。しかし、有期労働契約は、合意された契約の満了とともに終了し、とくに期間満了による契約終了に正当な理由は要求されない。

しかし、「一般有期労働契約」の労働者で2年の契約期間の限度を超えると、自動的に有期契約は無期契約に転化する。裁判所に訴えて権利を承認してもらう必要はない。場合により、裁判所にその事実を宣言してもらうだけでいい。

しかし契約存続期間の上限を超えない限り、期間満了による契約終了について雇用保障の保護はない。

質問:

つまり、先に説明されたようなマイナスの副作用があるわけだ。

レンマー:

そのとおりである。使用者が2年の上限に達する前に雇止めする可能性がある。

例えば、メディア部門では、有期契約期間を11カ月とし、これによって雇用継続の資格が発生しないようにする例が多い。有期契約が無期契約に転化する制限期間直前に、契約を終了させることが懸念されている。

荒木:

上限規制のプラス効果とマイナス効果、上限規制にいたる前に雇い止めになるというリスクについて指摘があった。

確認のために聞きたい。スウェーデンの法制度の下では、法律と異なる規制を労働協約で行うことが可能であるが、労働協約の規制は、法律より厳しく規制するのか、それとも法律を緩和する方向で規制しているのか。

レンマー:

以前は規制を厳しくする方向で労働協約が結ばれていた。すなわち使用者が有期雇用を利用するのを困難にしていた。例えば、労働協約は試用期間を6カ月ではなく3カ月と規制し、見習いは3カ月のみと規制していた。

だが、96年法改正によって、産別協約だけではなく、ローカルの企業レベルの協約でもは法規制を引き下げる方向での逸脱を許すことになった。現在、ローカルの企業レベルでは、労働協約は規制を緩和する方向にある。

質問:

労働法の問題と労働市場全体に関することを質問したい。有期労働契約により、常用雇用を含めて、労働市場の流動性は高まったのか。常用雇用に対してどのような影響があったのか。

荒木:

質問の趣旨を確認したい。有期労働契約の規制が導入された結果、常用労働者がより流動的になったかどうかを聞きたいとの質問か。

質問:

そうだ。

レンマー:

有期労働契約が与えた流動性に関する影響については、関連する調査結果をみていないので答えられない。この30年間、有期雇用に関する改革がずっと続いてきた。2007年の改革はまだ新しいので、その影響についてはまだ分からない。

しかし、一般的にいって、スウェーデンを隣国のデンマークと比べると労働力の流動性は低い。同じ企業に長い間勤務することが、ほかのスカンジナビアの国、例えばノルウェーやデンマークと比べると長いといえる。

今のところ、今回の規制の影響についての具体的な調査結果はない。

荒木:

先の質問はおそらく大きな問題に関係している。有期労働契約規制が、有期労働者だけではなく、常用雇用労働者にどのようなインパクトを与えるのかという点は、非常に重要である。この点については最後にもう一度、議論できればと思う。

プロフィール

ミア・レンマー/ルンド大学准教授

1994年法学博士取得、2009年より現職。ロンドン大学LSE、ケルン大学、欧州大学院(フィレンツェ)で客員研究員。専門分野は、労使関係。

最近の著書は、"EU industrialrelations v. national industrialrelations. Comparative and interdisciplinary perspectives"(共著、2008)