開催報告:第29回労働政策フォーラム
若年自立支援、この三年を問う
(2008年2月3日)

基調報告1 若者の就業の現状と支援の課題

小杉 礼子 JILPT統括研究員

若者の就業の現状――失業・非典型雇用・無業

小杉礼子

若者の雇用・失業、また学卒就職や就業の現状をデータに即してお話したあと、この3年を問うというタイトルの通り、その前史を含め、この間、政策的にどんなことを実施してきたかを整理したいと思います。

まず完全失業率です。この3年の動向をみると、すべての年齢階層で下向きになっており、失業状況は改善している(図1)。若者の労働環境は非常によくなったことが、このグラフから見て取れます。ただ、年齢別に比較すると、 40代、 50代という壮年層の失業率に比べれば、若者の失業率が2~3倍高い構造はまったく変わっていない。 1970年代の半ばをみると、年齢間の差はほとんどなかったのですが、その後年齢間のかい離が始まります。最初に 10代が失業しやすくなり、その後、 90年代半ばから 20代前半も失業しやすい傾向が顕著になってきた。その構造が残ったまま、失業率が推移しています。若いことが、労働市場では有利ではない事実がここに表れています。

図1 完全失業率(年齢段階別)の推移

それから、グラフで縦に網がかけられている部分は景気低迷期ですが、景気が悪くなると失業率は上がり、よくなると下がる傾向があったのですが、 90年代に入ってからは、景気が改善しても失業率が高まる状況になっています。この5年間は、長期にわたって景気のいい状態が続いている。実感を伴っていないところが問題かもしれませんが、最近の失業状況の改善は景気要因が大きいと思われます。

次の表は、15~ 24歳の若年失業率の過去5年間における推移を学歴別にみたものです(表1)。 2004年あたりから男女とも、失業率は下がってきています。これを学歴別にみると、中学・高校、短大・高専・専門、大学・大学院の間に差がみられる。全般的には改善してきているものの、大きく改善しているのは、大卒の女性と大卒の男性。高校卒業学歴の人たちの改善の状態とは差が出てきている。確かに若い人の就職状況はよくなっていますが、少しずつ学歴の影響が大きくなっているのではないかということが、ここから見えることです。

表1 若年失業率(学齢別)の推移

次に 15~ 24歳層の非典型雇用、フリーターの動向です(図2)。グラフではアルバイト・パートと、その他の非典型雇用を、色をつけて分けてあります。このデータは労働力調査で、調査では職場でどう呼ばれているかで、雇用のタイプを分けているため、アルバイト・パートと、それ以外の雇用という二つカテゴリーになっている。もともと、女性の非典型雇用者比率は高いのですが、男女とも 1991年以降、比率は高まります。最近の3~5年は、比率の上昇がトータルとしては止まってきて、女性は少し下がってきている。男性も、アルバイト・パートは少し下がっています。

図2 15-24 歳層の非典型雇用者比率

フリーターの数をみると、 2003年の 217万人をピークに、昨年の統計で 187万人と、低下していると言われています。しかし、フリーターの定義は、アルバイトやパートという呼称で呼ばれている人を中心に考えていますので、アルバイトやパートではない、契約社員まで入れると、若年層の全体的に非典型労働者の比率が下がっているとは言いにくいような状態だと思います。少し止まってきているけれども、相変わらず相当数の若い人が非正社員として働いている。

表2 非典型雇用比率(学歴別)の推移

非正社員についても、学歴の関係を見ます(表2)。非典型雇用の比は、やはり男性と女性で大きく異なっています。その中で女性に着目すると、大卒の女性の非正社員と高校卒以下を比べると、ここに大きな断層がある。もともとある程度はっきりしていたのですが、景気が回復してからもそのままです。男性も 2000年代の初めはあまり、学歴差がなかったのですが、ここ数年は大卒とそれ以外のところでは若干差が出ている。全般に言えば、非正社員の比率にも学歴による差がはっきりしてきているような気がします。

次のデータは若年無業者、ニートの推移です(図3)。統計でニートをとる場合、非労働力のうち学校に行っていない「非通学」と家事手伝いではない「非家事」を対象にしますが、その状況です。5歳刻みの年齢別に積み上げたもので、 2007年の数字も数日前に発表になりましたが、前回と同じ 62万人でした。

図3 若年無業者(非通学・非家事)数・比率

02~ 05年の4年間は 64万人で推移し、06年に 62万になり、昨年も同数になったということです。ただ、同じ年齢層の人口に対する比率をみると、若年人口の減少があるので、約 1.9%から2%に少し上がりました。

このニート・無業状態と失業状態の間は、統計上は非常に小さな壁です。統計のうえでは、調査で就職活動したと答えることで変わるので、無業と失業は行き来する数字だと思います。

そこで、この両方を足し上げた、グラフをつくりました(図4)。既に出た数字ばかりですが、これを年齢別に見たものです。やはりどの年齢でも 03年までは、無業プラス失業状態の若者が増加する事態が起こっている。しかし、景気改善以降は全般的に減っている。特に失業者が減っている。ただ、 30代前半層をみると、減少幅が少ない。特に無業状態の人数はほとんど減っていない状態です。失業もあまり減っていない。 30代前半層に少し滞留が見られる。景気がよくなっても吸収されない層がここに表れているともいえます。さらにその上の層をみると無業状態の人たちが増えている傾向も見て取れます。

図4 <失業+無業>数の変化

以上のデータをまとめると、学歴の影響が大きいかなというのが私の印象です。次のグラフ(図5)は、 2002年の就業構造基本調査がベースで、少し古いデータなのですが、この時点でも正社員でいる人たちと正社員ではない人たち、フリーターであるか、ニートであるか、あるいは失業しているかという間の違いに学歴が影響している。若い年齢層で正社員である人の半数以上が高学歴層であるのに対して、ニート状態の場合には、3割が中学卒であるという大きな学歴の違いが出ています。直近のデータでわかる失業状態の統計を学歴別で見ても、学歴の影響はむしろ拡大傾向にある。景気改善の中でうまくいっていない部分があることが見えます。

図5 若年者の就業状況別学歴構成(15 ― 34 歳)

もう一つ日本の場合、学歴に大きな背景がある。ほかの国に比べて日本の高等教育の特徴は、親のお金で教育を受けることです。ヨーロッパなどでは基本的には公的なお金で高等教育を受けるのが普通です。日本の場合、最近は奨学金や個人ローンなんかも使うことがありますが、基本的に親の家計状態が学歴に反映する。高卒以下の低学歴層で、景気改善にも関わらず就業機会が恵まれていないということは、その背景にある社会階層の問題が見え隠れする。景気が良くなる中で、階層分化がさらに進んでいる可能性が見えるわけです。

学校から職業への移行――高卒労働市場、大卒労働市場

次に、学校卒業時の就職の状態を見ます。

一人の就職希望の高校生に対して就職口が幾つあるかという高卒求人倍率を見ますと、この3年上がってきています(図6)。直近では 1.8倍ぐらいまできている。08年3月卒はこれからですが、内定状況はかなりいいという報道がなされています。

図6 新規高卒求人倍率と無業率

高卒の求人がよくなると、高校を卒業しても就職も進学もしない無業やフリーターになってしまう若者の比率は下がります。学校を卒業しても就職も進学もしない若者たちの話は、 2000年あたりがピークでした。このとき 10数%まで上昇した。しかし、これは地域によって差が大きく、とくに東京などの都市部で特にこの割合が高く、就職者より無業者が多いという状態でした。就職できない若者、しない若者が多い状態が、求人が増えることによって変化し、減ってきている。高校卒業時点の就職状況は相当よくなったとは言えると思います。

ただ、無業者には反映するものの、求人倍率には反映しない事態があります。これはあくまでも就職希望を出している生徒に就職口が幾つあるかという話なのです。就職希望を出すことなく卒業する生徒が一定数いる。就職するためには、ある程度の成績で学校をちゃんと卒業していなければならない。しかし、それ以前の段階で、卒業することが確定していない人たちは、就職希望者にはならないこともある。この層が落ちている点が、一つの問題といえます。

図7 新規大卒求人倍率と無業率

ともあれ、卒業時点で無業という層は確かに減っている。しかし、これも当然ながら景気と非常に関係が深い。グラフにある 92年ごろからバブル崩壊後の平成不況が深刻化しますが、求人数も大幅に減ると同時に、無業者が増える。景気が悪くなると、無業率が高まります。この5年間の景気拡大の中で、求人が増えて無業者が減る動きがあったわけですが、求人というのは景気の変数ですので相当影響が出ます。

次のグラフは大卒です。リクルートワークス研究所のアンケート調査結果です(図7)。大卒は高卒ほどきれいな形にはなりませんけれども、かなり類似したところがあり、求人倍率がここ数年大きく伸びてきている。大卒の場合、 09年卒業者の倍率はもっと高く出ており、大卒の統計では、一時 25%ぐらいいたと言われていた無業者がどんどん減って、直近では 10数%になっています。求人が増えることによって無業者が減る関係がここでもはっきりしています。

ただ、大卒の場合、例えば求人が伸びても、無業者が減らないなど大卒そのものの質が変わったのではないかという議論もあります。いずれにしても、景気の変動に大きく規定されており、大卒、高卒の学卒就職は、景気の改善の中で、随分よくなったと言えるのではないかと思います。

もう一つグラフを用意しましたが、高校中退と求人倍率の推移です(図8)。高校中退と景気の関係をみるためです。求人倍率が下がると中退が増えるといった若干似た傾向があります。高校を卒業すればちゃんとした仕事に就けるけれど、高校卒業時点の就職状況が悪くなると、どうせ卒業してもいい仕事につけるわけではない、だから中退しやすくなるという理屈が語られていました。しかし、最近ちょっと違うかなという感じがします。景気が改善する中でも中退率が上がる傾向が見えます。欧米の話を聞くと、逆の理屈が一般的なようです。景気がよくなると中退が増える。なぜかというと、高校中退でも仕事につける。そうすると、おもしろくない高校に行く必要はない。早く仕事に就いてしまおうとして、中退者が増える。しかし、それは後々よくないということが欧米で議論されていることです。

図8 高校中退と求人倍率

景気がいいときは、とりあえずみんな雇ってくれるけれども、就いた仕事は景気が悪くなれば、すぐ切られる仕事です。したがって、学校をまともに卒業しなかった人たちは、景気の変化によって一番悪い状況にさらされることになる。だから、学校を卒業することが大事なのに、景気がいいと、ついつい今ある就職口につられて動いてしまう。ここが問題だと言われるようになっています。

ひょっとしたら、日本でも今の景気拡大のなかで、高校生のアルバイトが重宝されていることもあり、起こりうる可能性もあるのかなと、不安を覚える傾向です。

図9はコーホートという考え方で作成したグラフです。ある年に中学を卒業した年齢集団が、高校を卒業して、就職したかどうか、さらにその後、大学に行った人たちが、大学を卒業して就職したかどうかという全体を足し上げたものです。例えば、 2000年のあたりで中学を卒業した人は、 2007年に、大学を卒業する年齢になるわけです。それが、高卒、中卒、大卒という中で、どれだけ学校を卒業してすぐ就職したかという比率を見たものです。3年前までの状態は、「学卒就職」の枠外での就職が上がる状態でした。つまり、学校を卒業してすぐ就職できる人がどんどん減って、学校から職業に移るのに、学卒就職以外のルート、たとえば学校を中退してしまったり、卒業しても無業だったり、結果としてはアルバイトにつかざるを得なかったり、別の経路をたどった人たちの比率が増えていました。

図9 「学卒就職」の枠外での移行の変化

この比率が、 90年代あたりからしばらく上がってきていた。それまで日本の学校から職業への移行の特徴と言われてきた、学校を卒業したら皆が就職できるという形が崩れてきた。以前もある程度、学卒就職しない人たちは存在していましたが、 90年代後半になると、4割近い生徒が卒業しても就職に結びついていない。中退したり、フリーターで転々としたりする層が4割も出てきてしまった。しかし、この3年で変わってきた。比率が下がり始めました。学卒就職が復活してきて、かつてのルートに乗ることのできる生徒が増えてきています。よい傾向だとは思います。

ただ、グラフにある中学卒業者数と枠外比率がぴったりくっついた状態というのは、例えば丙午世代といった人数が少ない世代では枠外比率は低い。学卒就職の枠中に入れるか入れないかは、学生の人数によってほとんど決まっていた。人数が多いとあふれ、人数が少なければみんな学卒就職するというような。現在もこういう状態とはかなり離れていますので、学卒就職に乗れない層というのは、まだかなりいる。こういう層に対する対策は、最近の状態がよくなったからといって、決して忘れてはならないことだと思います。

最近の報道などでお気づきのように、景気の転換点がかなり近いような雰囲気を覚えます。景気は循環的なものですから、また当然起こります。ここ数年の間、若者支援の関係者が、築き上げた体制は、 2002~ 03年までの非常に厳しい状態を受けてでき上がってきた新たなものです。その後の景気回復と同時に、確かに若者たちの就業状況はよくなってきました。しかし、この先どうなるか。ここで、手を引いてしまうと、間違いなくやってくる次の景気の転換点の後にどうなるか。きちんとした体制をつくっておかないと、同じことを繰り返すことになるわけです。

ジョブカフェ、若者自立塾、地域サポートステーションなどの新たな枠組みが認知されるまでにどれだけ苦労されたかは、関係者の方はよくご存知だと思います。こうした新しい支援を世の中に知らせるための初期投資は大変なものがあります。今、数字がよくなっているからといって、ここまででいいとするかどうか。私は決してそれではいけないと思います。景気循環でまた起こってくることに備え、体制をつくっておかなければ、次の景気下降期にはゼロからの出直しになってしまう。

図10 学校卒業3 年目までの離職率 図11 転職時の雇用形態の変化

さらに、学校卒業後3年目までの離職率は下がっていません(図10)。それに転職時の雇用形態の変化を見ても、正社員から正社員への転職の割合が低下し、最初の仕事が正社員でも次の仕事が非正社員になるという傾向が高まっている(図11)。ここ1~2年は逆の動きも見えますが、長期的には、転職によって正規から正規、非正規から正規に雇用形態が移行する割合は低下している。そして、非正社員から非正社員という流れが強まっている。早期離職そのものは、キャリア形成上そう問題があるとは思いませんが、それが非正社員に移動し、キャリアの積み重ねにならないものだとしたら問題です。

JILPTの『大都市の若者の就業行動と移行過程』( 2006)によると、 2001年と 2006年を比較して、男性の高卒者、大卒者とも、正社員として定着する人と他の雇用形態から正社員に移った人が減り、非典型一貫が増えている(図12)。同調査の自由回答から、フリーターから正社員になろうとした際に悩んだことをみると、 (1) 学歴・資格・スキルがない(学歴が低いと、資格などを取得していても雇ってくれない(男性 22歳)、まともに学校に出ていればこんな苦労をしなくてもすんだのにと思った事がある(男性 27歳)、採用時期が限定されていて申込みづらい。実際業務に必要ないスキルや経歴を求めている理由が理解できない。正社員の門はかなり狭い(女性 28歳・派遣も経験))、 (2) 正社員は自由や時間が拘束されるのではないか(アルバイトの時よりも時間が束縛される。責任がかかる(男性 22歳)、正社員になった方が安定はするだろうけど、かなり労働時間が長いこと(男性 26歳))、 (3) 正社員の仕事をこなせるか ・ 何が向いているかわからない(正社員にはなりたいが、何をしていいのか分からなかった。自分には何ができるか分からなかった(男性 27歳)――といった記述がみられました。

図12 大都市の若者の職業キャリア(在学中を除く)

若者自立挑戦プランから底上げ戦略まで

次にここ数年間の若年向け政策の動向をフォローしておきます。 03年6月に、省庁横断的若年者雇用対策として文科相、厚労相、経産相、経済財政政策担当相が連名で、『若者自立・挑戦プラン』を取りまとめた。これが日本の若者支援政策の大きな転換点だと思います。若年者の働く意欲を喚起しつつ、全てのやる気のある若年者の職業的自立を促進し、若年失業者の増加傾向を転換させることを目的にうたっています。

それまで言われていた、若者が失業したり、フリーターになるのは若者の意識など若者側の問題だという認識ではなく、「若者はチャンスに恵まれていない」「労働力需要側の問題として需要不足と二極化がある」「労働力供給側の問題として目標が立てられない、実力不足の若者」「教育・雇用システムの問題として構造変化に対応できていない」との状況認識のもとまとめたものです。

ここで初めて、若者はチャンスに恵まれていないということで、若者の側ではなくて、労働力需要の側にも大きな要因があることを明確にし、政策を策定しようということになったわけです。

その後、若年自立・挑戦プランの施策は 04年度から動きだします(図13)。学校では就業体験や日本版デュアルシステムが始まる。労働市場の整備ということで、YESプログラムという新しく仕事に入る人向けにどういう能力が必要かを示し、教育プログラムを行うもの、あるいは、トライアル雇用という補助金付きの雇用によってチャンスのない若者たちにチャレンジの機会を提供するといった政策が進む。そしてジョブカフェの創設。ジョブカフェの一番の大事なところは、地域行政が主体となった若者政策ということだと思います。地域行政が主体となって若者政策に着手し、仕組みをつくった。今後、地域が担うという体制をどう継続的なものにしていくかが重要なポイントになるかと思います。また 2004年の段階では、「やる気のある若者の職業的自立促進」という表現が政策の柱にありました。

図13 若者自立・挑戦プランの施策:2004 年度

次の 05年度から始まった施策の特徴は、「やる気」に対するより深い認識の広がりだと思います(図14)。そこで出てきたのが、若者自立塾です。本来やる気を持っていた人たちがやる気を失ってしまうプロセスがあって、そこが問題なのではないかということです。そこまで入り込んで、若者の労働市場に入る以前の問題にまで取り組もうという動きが始まります。これは、中学生の職場体験といった、在学中からの対応もありますし、学校を離れてしまった後の社会参加をどう促していくかの仕組みなどが整備されていきます。

図14  若者の自立・挑戦のためのアクションプラン:2005 年度予算

そして次の 06年度、地域サポートステーションが新たに始まる(図15)。点としての自立塾ではなくて、地域が拠点となってネットワーク化する体制ができてきます。一方、学校教育の中でも、キャリア・スタート・ウィークというような形で、在学中のキャリア教育を中学生レベルから行い、文科省では小学校からのキャリア教育と言っていますが、低学年にまで及ぶキャリア教育が広がってくるわけです。そのほか、実践型人材養成システム、これは高校卒業後に入るプログラムとして、企業の中での能力形成と企業外での学びをつなぐ日本版デュアルの一つの進化型のような形で出されたものです。

図15  若者の自立・挑戦のためのアクションプランの改定:2006 年度予算

2007年度も(図16)、以前の政策は定着して残っているわけですが、それに加えて、新たなものと言えば、ジョブ・カードを挙げたいと思います。若者政策という枠の中ではありませんが、再チャレンジ支援策・成長力底上げ戦略という中から立ち上げられたものです。その中の人材戦略として、若い人だけではなくて、対象は、若者のほか、母子家庭の母等の就労機会に恵まれない人たちを対象にしていますが、そういう方たちに能力をきちんと形成してもらって、より高い水準の賃金が得られる、食べていける仕事につけるためのプログラムがジョブ・カード制度といえます。ジョブ・カード制度そのものは若者限定ではないですけど、その延長上にあるものとして、若者政策の一環として考えていった方がいいのではないかと思います(図17)

図16  再チャレンジ支援策・成長力底上げ戦略:2007 年度
図17 「ジョブカード制度」の創設
図18 フリーター25 万人常用雇用化プラン

そのほか、若者に関係ある政策としては、改正雇用対策法の中で青少年の能力を正当に評価することが募集の努力義務になっています。これは、例えば、年長フリーター対策であるわけです。学卒者だけを対象にするのではなく、数年前に学校を卒業した人たちも正当に評価すべきだという政策です。またパート労働法の改正。これは、短時間雇用の人たちが正社員と同じ仕事をしているのに、パートであるか正社員であるかによって賃金が違うのでは、不公正である、公正に処遇すべきだという政策です。こうした政策が既に始まっています。

図19 日本版デュアルシステムの推進 図20 若年無業者の自立支援

これらの政策の実績をみると、フリーター常用雇用化プラン、日本版デュアルシステムなどの図のような実績をあげてきています(図18,19)。さらに若者自立塾や地域若者サポートステーションもそれぞれきちんとした成果を上げてきており、評価されています(図20,21(PDF:126KB)22(PDF:102KB)

ひとつ具体的にご紹介したいのは、地域サポートステーションにおける家庭訪問事業の事例です(図23)。地域サポートステーションの中では、アウトリーチという方策がとられています。つまり、ステーションに来る人たちだけに支援するのではなくて、外に出て行って、サポートが必要な対象者にサービスを提供する仕組みです。その一つが、生活保護世帯に対する家庭訪問で、実績として、その家庭の若い人たちを就労に導いた事例です。これまでにない、地域にある行政支援だからこそできる施策が徐々に広がっている。この辺のノウハウや蓄積を、ここ数年の雇用の改善によって失ってはいけない。まさにこれが大事な宝だと思います。

図23  ある地域若者サポートステーションにおける家庭訪問事業

支援の課題

最後になりますが、支援の課題として4点あげたいと思います。第一には対象者への接近です。学校からの移行プロセス、家庭との協同、アウトリーチといった点を重視した支援が必要になります。第二に、個人への働きかけのレベルとして、 (1) 意識(自己概念:自己肯定感・自己効力感、価値観) (2) 能力・コンピテンシー(態度・行動様式・基礎力)、 (3) 職業能力・スキル――といった面に注目すべきでしょう。第三に、採用側への働きかけとして、採用前訓練機会の提供、採用後の訓練、採用後の処遇、キャリアの視点を持った人材戦略などを求めていくべきでしょう。第四として、支援の構造化、言い換えれば・専門家集団の形成が必要になるでしょう。

図24は、今行っている働きかけが、どこのだれに対して、どの程度のレベルになっているのかを整理するための概念図です。かつての能力開発では、専門知識・技術は上の方に位置づけられていたわけです。しかし、今、若者に対して始まっていることは、「基礎力」やコンピテンシーというような言い方をされますが、基本的な能力としてだんだん降りてきている。自立塾などで行われているのは、むしろ「自己概念」。自己肯定感、効力感、価値観などを高めるといったレベルまで降りてきている。働きかけのレベルといってもこうした幅広い概念まで考えて、個人に対する働きかけを考えなければならない。この意味するところは、すべて同じところがやるのではなく、それぞれの役割・立場があって、働きかけるレベルが違っているということです。このレベルの違いをきちんと整理する。個人への働きかけのレベルと、採用側への働きかけのレベルとでは対象が違う。さまざまな立場で行われている蓄積をきちんとまとめていく、また一つの方向を持ってまとめていくことが必要だと思います。

図24 個人への働きかけのレベル

景気循環上この5年で若者をめぐる環境が良くなってきたからといって、経費を削減する方向にだけは絶対向かってはならない。今までの蓄積をしっかり形にし、いろんなレベルできちんと整理する必要があります。

<プロフィール>

こすぎ・れいこ/労働政策研究・研修機構(JILPT)人材育成部門 統括研究員

東京大学文学部卒業。専門分野は教育社会学、進路指導論。1978年、JILPTの前身である雇用職業研究所に入所。 2006年3月より現職。同機構で、「学校から職業への移行」、「若年者のキャリア形成・職業能力開発」に関する調査研究を担当。主な研究成果は、労働政策研究報告書 No.6 『移行の危機にある若者の実像.無業・フリーターの若者へのインタビュー調査』、同No.35 『若年就業支援の現状と課題.イギリスにおける支援の展開と日本の若者の実態分析から.』など多数(いずれも共著)。主な編著書に 『自由の代償/フリーター』(JILPT,2002)、『キャリア教育と就業支援』(剄草書房,2006)、『フリーターとニート』(剄草書房,2005)、『フリーターという生き方』(剄草書房,2003)、『大学生の就職とキャリア―「普通」の就活・個別の支援』(剄草書房,2007)。

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