事例報告 :企業における外国人労働者の活用事例
外国人労働者の雇用ルールと企業における活用のあり方
第28回労働政策フォーラム(2008年 1月25日)

目次

基調報告 「日本における外国人労働者雇用の現状と課題」
渡邊 博顕  JILPT主任研究員
解説 「改正雇用対策法の趣旨―新外国人指針を中心にー」
尾形 強嗣  厚生労働省 職業安定局外国人雇用対策課長
事例報告
ローソンにおける外国人従業員の採用・雇用の取り組み

曽我野 麻理 株式会社ローソン ヒューマンリソースステーションHR改革リーダー

システム開発・IT企業における外国人従業員の活用の取り組み

小野田 祐子 TIS株式会社 企画本部人事部長


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事例報告
「企業における外国人労働者の活用事例」/株式会社ローソン/TIS株式会社

外国人の採用と雇用

ローソン ヒューマンリソースステーションHR改革リーダー 曽我野麻里

当社は今年度初めて、外国人留学生の採用を本格的にスタートさせ、この 2008年4月1日に 10人が入社予定である。当社における外国人雇用には、 【1】 ローソンの店舗におけるアルバイト社員としての雇用と、 【2】 本部の国際化という観点での正社員雇用の2種類があるが、今日は後者を中心に報告する。

当社の概要だが、設立から 33年目になるところで、社員数は約 3,300人。国内店舗は、全都道府県に計約 8,600店を展開し、そのほとんどがフランチャイズである。海外では、中国の上海市に約 300店展開している。

コンビニエンス業界は、過去 30年間、 “近くにあり、いつでも開いていて、何でもある” という利便性の提供と、フランチャイズ展開というビジネスモデルを武器に急速に成長した。しかし、店舗数が飽和状態になるとともに、業界各社が 20代~ 30代の男性をメインターゲットとして同じパイを取り合ってきたという状況が、人口減少、少子高齢化の進展、業種・業態を越えた競争激化とともに既存店売り上げを圧迫することとなっている。

業界各社がそれぞれの生き残り策を模索する中、当社では、『地域密着戦略』を掲げ、地域(マチ)のお客様に合わせた特徴ある店作りにチャレンジしている。女性をターゲットに “美と健康” をコンセプトにした「ナチュラルローソン」、少人数家族のための生鮮食品も取り扱う「ストア 100」など、新フォーマットの展開をはじめ、郵政など業種・業態を越えた連携によるさまざまな商品・サービスの提供も進めている。

しかし、こうしたローソンのチャレンジの担い手はというと、実は社員の9割が日本人男性であり、女性社員は約1割、外国人も過去実績二人のみという状況である。さまざまな価値観をもった人材と意見を交わし合い、新しいローソンのあり方を模索して欲しいという思いから、ダイバーシティ(多様性の尊重)の一環として外国人留学生の採用を本格的に行うこととなった。ちなみに、外国人採用の過去二人の実績というのは、定期採用の際、たまたま日本人学生に交じって優秀な外国人留学生がいたからであるが、この二人は入社から 10年近く経った現在も当社で活躍中である。

採用ではヒアリング力重視

今回の留学生採用は、初年度ということで、4月1日に 10人が入社予定である。来年度以降は 20人、 30人とその数を拡大させていきたいと考えている。

採用プロセスを紹介すると、昨年6月に、ハローワークの主催で東京と大阪で行われた外国人留学生のための合同説明会に参加するところからスタートした。そこで思いがけず大変熱心な留学生にたくさん会うことができた。東京と大阪合わせて約 200人の留学生が応募し、説明会には約 100人が参加。書類審査と筆記試験(GAT)を実施した上で、 50人と面接を行い、最終的に 10人に内定を出した。 10人の国籍の内訳は、中国人が9人、ベトナム人が一人。特に国籍の枠を設けたわけではない。東京と大阪でそれぞれ男性2人、女性3人となったが、こちらも結果としての内訳である。日本人の採用者数が 110人であるため、 2008年度入社者の約1割が外国人ということになる。

採用基準は、日本人と全く同様だが、いくつか留意した点はある。まず、日本語でのコミュニケーション力。こちらからの質問を理解して的確な受け答えができたかどうか。また、自分の意見・考えなどを明快に表現できたかどうか。日本人にも外国人にも同じ仕事をしてもらう上で、また当社の仕事の性格からしても会話力は必要で、ヒアリング力をとくに重視した。二つ目は、一定以上の基礎学力ということでGATを実施したが、こちらは我々の予想を超えて優秀な成績の人が多かった。

三つ目は、文化適応力。とくにグループワークを行ったりしたわけではないが、日本人とうまくディスカッションできるかどうかなどを視点に入れた。四つ目は、ローソンへの共感度。日本人学生にもよくあることだが、ローソンというと、どうしても店舗で働くイメージが強く、ともすればアルバイトと同じような仕事をしていると思われがちだ。実際にローソン本部でやっている仕事は、フランチャイズに加盟されているオーナーさん向けの経営指導をはじめ、商品の企画や店舗開発といったお店を支える仕事が中心である。入社後、最初に経験する店舗での勤務は、あくまでフランチャイズビジネスの基礎を学ぶ研修としての位置づけであり、ここは誤解のないように十分に説明した。最後に、店舗勤務を行う上で最低限の身だしなみやマナーといったことも加味して選考を行った。

基本はすべて同じ、必要に応じて配慮・サポート

実際に選考した留学生についての感想だが、日本語は同じ検定1級をもっていても会話レベルには個人差があった。日本に何年滞在しているかというだけでなく、学内やアルバイト先などでどれだけ日本人と話す機会を積極的に持っていたかによるものと思われる。しかし、実際に入社する1年先までにはさらに上達するはずであり、日本でどのような過ごし方をしているのか、日本語上達に向けて何をしているのかなどを確かめた。文化適応力では、日本での就職に際しての目的意識がはっきりしている人が多く、日本人学生を上回る自己責任感、向上心をもっている人が少なからずいた。

留学生からの質問では、「なぜ留学生の採用を始めたのか」「将来のキャリアパスはどうなっているか」「将来の海外出店戦略は?」――といったものが多く、ローソンは自分たちに何を期待しているのか、自分たちはローソンで何を学べるのか、そしてそれが自分たちの将来にどう生かせるのか、にほぼ集中していた。

処遇と育成方針は、雇用形態、処遇、評価など、すべて日本人と同じである。しかし、日本での住居確保など生活面でのサポートは適宜行うこととし、また教育研修時には言葉の問題などで理解が不十分と思われる場合には補講を行うなど、必要に応じてフォローする予定である。

キャリアパスも原則として日本人と同様であり、店舗勤務を経てスーパーバイザーを目指すのが標準モデルだ。しかし、個々人の能力・適性・希望などによっては、スーパーバイザー以外でのキャリアもあり得る。ここはあまり厳格に定めることはせず、あくまで個々人の状況を見ながら対応していくつもりだ。今後の海外展開における担い手になる可能性もあるが、今回はダイバーシティが主目的であり、すぐに海外に行くという可能性はなく、それについてもしっかり説明を行った。

今後の課題と取り組みについて述べると、社内のPR・教育が最も重要だと考えている。ダイバーシティについては、昨今さまざまな企業で進められているが、いざ自社でとなると、人事部のメンバーでさえ頭の中では理解できても、実際にどうしたらいいのかという迷いもある。留学生の配属先店舗のマネジャー等にも事前に趣旨を説明し、理解共有を図っているところだ。

この1年間、留学生採用を実際にやってみて、意外なほど奥が深いと感じている。初年度わずか 10人の採用ではあるが、きちんとした言語による意思疎通の重要性、その前提となる相手への理解と尊重の気持ち、異なる価値観を持つ人に学ぶ謙虚な姿勢や、共に成長しようとするチームワークと向上心など、実は国籍に関わらず、人材のマネジメントを行う上で大変重要なものばかりであるということに改めて気づかされた。現在、ローソンではコンビニエンス業界の枠を越えた新たな価値創造を目指し、社内の意識・風土改革にも取り組んでいるが、外国人留学生の採用が一つの起爆剤になるかもしれないと、実は密かに期待している。

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システム開発・IT企業における活用

TIS 企画本部人事部長 小野田祐子

当社について簡単に説明すると、設立は 1971年で、東証、大証一部に上場している。従業員は 3,000人で、TISグループの連結( 20社程度)では約 9,000人である( 2008年4月1日に株式会社インテックホールディングスとの経営統合による共同持ち株会社「 ITホールディングス」を設立し、TISは上場廃止にした。現在、約1万 5,000人の企業グループとなっている)。

俗にいうシステム・インテグレータという業態で、業務の内容は、基本的には法人企業向けのコンピュータ・情報システムをつくるとともに、そのシステムの運用を行っている。

どの会社にも、経理、受発注、在庫管理など様々な基幹業務のシステムがあると思うが、会場のみなさんが自分の会社に戻って情報システム担当の方にそのシステムをだれがつくったかを聞いてみたら、「これは TISがつくった」という会社の方が何人かはいるかもしれない。

当社の従業員はシステム・エンジニアの軍団で、従業員 3,000人のうち 90%がエンジニアである。仕事は基本的にはプロジェクトの形で進める。プロジェクトは、仕事の内容に応じて少ないものであれば5人くらいだが、多いと 1,000人、 2,000人というプロジェクトもある。

プロジェクトが、情報システムが必要だという顧客とどんなシステムが要るかを話し合いながら、設計していく。プロジェクトにはプロジェクトマネジャーがおり、その下に複数の分割された担当リーダーがいて、その下にメンバーがいる構造となっている。

特徴的なのは、「パートナー(二次請)」という、いわゆる請負契約で TIS以外の会社にも仕事をしてもらっている点で、これが IT業界特有の業務の進め方である。良いか悪いかは別として、場合によっては二重請け、三重請けの構図を持つこともよくある。パートナーの中には独自に外国人を雇っている会社もあることから、当社は外国人社員を請負型で間接雇用していることにもなる。

海外事業では中国やベトナムのソフトハウスとも直接に取引をしている。上海には現地法人を持っており、日本から数人、現地に人を派遣しているが、2~30人は現地で直接採用している。

また、日本の大学・大学院に留学して勉強しているベトナムの学生に、数人だが奨学金を提供する TIS奨学金制度も運営している。

現在、社内には外国人従業員が 2008年入社の内定者も含めて 50人程度おり、その内訳は大半が中国、その他韓国、ベトナムなどである。

外国人の正社員を雇い始めたのは、たしか 15~ 20年前から。20年ほど前からポロポロと雇い入れを始めて、15年くらい前から中国をターゲットに据え、ほぼ5~8人ぐらいずっと採用を続けてきた。そのまま残っていれば、本来なら今でも 100人ぐらいいる計算になる。残念ながらそうはなっていないのは、辞めていく人も割にいるからである。

強い「自国のため」意識

外国人従業員の特長について述べると、当社はそれなりに長い期間をかけて外国人たちを正社員に迎え入れてきたので、当社なりのノウハウは持っていると思っている。当社においては、外国人も日本人と全く変わらない評価をしており、採用時の入社の合否はもちろん、入社後の昇格、配置、管理職登用も全く日本人と区別なく行っている。現在、3人程度が管理職として頑張ってくれている。

第一の特長は優秀だということ。日本人でも外国人でもやはり優秀な人を求めたいので、優秀な人を一生懸命探して、採用している。なお、 08年入社予定では 13人の留学生内定者がいるが、日本人も含めた新入社員全体の採用予定者数は 210人である。

第二は「自国のために」という意識が強い。苦労しながら日本の大学に留学し、日本の企業に就職しようと思う人は、自分で何かしら技術なり能力なりを身につける場所としては日本が一番よいと考え、その身につけた能力・技術をいつか母国のために使いたいと考えている。この傾向は中国人もベトナム人も変わらない。

だから入社後3年、5年で、「自国に帰って自分でビジネスをやるから辞めます」と言われても、致し方ないと思っている。そういう人は入社するときからそうしたキャリアプランを描き、自分のプランどおりに事が進んだわけで、「よく頑張ったね」と背中を叩き、「また会おうね。うちも中国でビジネスしているから、そのときは一緒に仕事をしよう」と言って送り出すのがよいと思っている。

また、キャリアプランに悩む人が多い。「SEとしてああいう仕事がしたいが、TISにはないから他社に行く」と言って日本国内で同じIT業界の会社に転職していく人もいる。「何が来ても驚かない」心構えで接するのが人事担当者としてはよいのかなと思っている。

採用においても、入社後の人事管理においても、日本人と全く変わらないことをするのがよいと思ってやっているが、外国人社員が力を発揮しやすい環境をどうつくるかというのは当社にとっても課題と言える。どの程度まで会社側が手を差し伸べていけばいいのか、まだ明確に判断できていないが、やはり日本人と違う特質を持っているということを考えれば、もう少し手を差し伸べてフォローするということも今後は必要かなと今、思っている。

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