開催報告:第28回労働政策フォーラム
外国人労働者の雇用ルールと企業における活用のあり方
(2008年 1月25日)

目次

基調報告 「日本における外国人労働者雇用の現状と課題」

渡邊 博顕
JILPT主任研究員

解説 「改正雇用対策法の趣旨―新外国人指針を中心にー」

尾形 強
厚生労働省 職業安定局外国人雇用対策課長

事例報告

ローソンにおける外国人従業員の採用・雇用の取り組み

曽我野 麻理 株式会社ローソン ヒューマンリソースステーションHR改革リーダー

システム開発・IT企業における外国人従業員の活用の取り組み

小野田 祐子
TIS株式会社 企画本部人事部長

基調報告 「日本における外国人労働者雇用の現状と課題」

JILPT主任研究員 渡邊 博顕

(1)わが国の外国人労働者政策の変遷

わが国における外国人政策は 60年近くさかのぼることができる。 1950年、外務省に入国管理庁が設置され、翌年、出入国管理令の公布、 1952年には外国人登録法が公布・施行された。当時の外国人政策は、在日韓国人・朝鮮人、在日中国人への対応が中心になっていた。 1960年代半ば、産業界から「単純労働者」の受け入れが要請された。受け入れの目的は人手不足対策であった。これに対して、「第一次雇用対策基本計画」( 1967年)の閣議決定の場において外国人労働者を受け入れないことが口頭了解された。この方針が「第二次雇用対策基本計画」( 1973年)、「第三次雇用対策基本計画」( 1976年)においても踏襲された。

1970年代後半から、インドシナ難民、東南アジアからの女性外国人労働者、中国帰国の二世・三世、欧米から商用目的での来日が増加した。 1985年のプラザ合意以降、円高が進行し、東南アジアを中心として日本企業が海外進出することによって「産業の空洞化」が話題となった。ちょうどそのころ、身分に基づく受け入れであるが実質的には就労目的で南米から来た日系人や、アジア諸国からの外国人労働者が増加した。

このような外国人労働者の増加を背景に、「第六次雇用対策基本計画」( 1988年)では外国人労働者を「専門的・技術的労働者」と「単純労働者」とに分け、専門的・技術的労働者は可能な限り受け入れるが、いわゆる単純労働者については、慎重に対応するとの方針が示された。この方針に沿って 1989年に「出入国管理及び難民認定法」が改正され、 1990年に施行された。同じ年には「研修」の在留資格制度が認められている。第三次臨時行政改革推進審議会第二次答申を受け、 1993年には「外国人技能実習制度」が設けられ、現在に至るわが国の外国人の在留資格制度が整備された。

バブルが崩壊した 1990年代後半以降、デフレが進む一方、国内の生産拠点の海外移転が続いた。海外では中国経済の台頭がめざましく、国際競争が激化している。その間、非正規雇用として就労する外国人(その多くは日系人である)が増加した。 1998年に永住許可の要件が緩和されたこともあり、一時的なデカセギとして来日していた外国人労働者の定住化が進んだ。外国人の定住化が進んだことで外国人子弟も増加し、地域社会における教育問題など、外国人労働者問題は新たな局面を迎えている。

(2)わが国における外国人の現状

上記のような変遷を経て作られたわが国の在留資格制度の枠組みは、活動に伴う在留資格と身分または地位に基づく在留資格とからなっている。前者には外交、公用、教授、芸術、宗教、報道、投資・経営、法律・会計業務、医療、研究、教育、技術、人文知識・国際業務、企業内転勤、興業、技能、文化活動、短期滞在、留学・就学、研修、家族滞在、特定活動が含まれている。このうち、教授から技能までの在留資格が労働に該当すると考えられる。また、後者には永住者、日本人配偶者、永住者の配偶者、定住者などが含まれ、就労に制約はない。

法務省入国管理局によれば、わが国の外国人登録者数は 2005年に 200万人を超え、 2006年末現在 208万 4,919人となっている(第1図)。これは、わが国の総人口の 1.63%を占める。同じく 2006年現在、わが国には約 76万人の合法的外国人労働者(特別永住者を除く)がいると推計される。内訳を見ると、就労を目的とする在留資格を有する者は約 18万人、技能実習生等が約 10万人、資格外活動が約 11万人、日系人等の身分に基づき在留する者が約 37万人となっている。これに不法残留者の約 17万人を加えると、92万人以上の外国人労働者がわが国で就労していると考えられる。

第1図

第2図は、外国人の在留資格別人数の推移である。「永住者」(「特別永住者」と「一般永住者」の合計)が約 84万人で、外国人登録者総数の4割を占める。これに「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」をあわせた身分または地位に基づく在留資格を持つ外国人登録者は、全体の約3分の2となっている。特別永住者は減少傾向で推移しており、外国人登録者数の約 21%であるのに対して、一般永住者は増加傾向で推移しており、外国人登録者数に占める割合は約 19%となっている。さらに、日本が積極的に受け入れている専門的・技術的分野の外国人労働者は、外国人登録者数のおよそ1割となっている。

第2図

外国人登録者の国籍(出身地)別人数の推移をみると、韓国・朝鮮が 59万 8,219人、中国が 56万 741人、ブラジルが 31万 2,979人等となっている(第3図)。韓国・朝鮮は減少傾向にあるが、中国、ブラジル等は増加傾向にあり、とりわけ中国出身者は 2005年末に比べ4万人以上増加している。

第3図

(3)外国人の地域分布

以上、日本全体でみた外国人の人数の推移を見てきたが、外国人は全国に一様に居住しているわけではない。第4図は 2005年国勢調査の結果から外国人人数の統計地図(コロプレス法)を作製したもので、色の濃い都道府県ほど外国人が多く居住していることを表している。明らかに外国人の人数に地域差があることがわかる。こうした地域差は就学生・留学生数であれば大学などの学校数など、就労を目的とした外国人であれば産業構造や雇用・失業情勢などさまざまな要因によって規定されると考えられる。同じく国勢調査から外国人労働者の職業別構成を都道府県別に整理したのが第5図である。たとえば、東京都では外国人労働者の人数は多いが生産工程・労務作業者の構成比は相対的に低く、静岡県や愛知県では生産工程・労務作業者の構成比が相対的に高い。従って、東京都では非製造業で就労する外国人の数が多く、東海地域では製造業で就労する外国人の数が多いと考えられる。

第4図
第5図

(1)企業の方針

では、外国人労働者を雇用する企業は外国人労働者の雇用についてどのような考え方を持っているのであろうか。企業の外国人雇用についての方針をアンケート調査結果でみると、「以前も今後も外国人労働者の採用はない」という回答がおよそ4割と最も多い(注1)。しかし、従業員規模間で外国人の雇用方針に違いがあることがわかる(第6図)。従業員規模が小さいところでは外国人の雇用に消極的で、従業員規模が大きいところでは、何らかの形で外国人を活用していくと考えているようである。とくに、従業員規模が大きいほど内外国人を区別なく扱うという方針を採っているところが多く、とくに、 1,000人以上規模とそれ以下の規模とで差がある。また、従業員規模が大きいところほど職種や分野を限定して活用するという方針や非正規社員として活用するという方針のところが多い。さらに、日本語能力を採用の条件とするという方針については規模間でそれほど差はない。

第6図

この結果を類型化すると、外国人労働者の採用・活用には限定的活用型とダイバーシティ型活用型に分かれる。さらに、限定的活用型は外国人労働者が持っている能力(たとえば言語能力を活かす通訳や海外関連部門など)を積極的に活用する専門性活用と、非正規社員で活用する場合とに分けることができる(注2)

では、実際に外国人を雇用している理由は何なのか。第7図は、実際に外国人労働者を雇用している企業が外国人を雇用している理由を製造業と非製造業に分けて見たものである。製造業と非製造業とでは回答傾向が異なっている。製造業では海外ビジネス展開、賃金コストの安さ、日本人の代替という点で差があり、非製造業では専門的能力、過去のキャリア、たまたま外国人であったという点で差がある。企業の経営戦略との関連を考えると、ダイバーシティ型活用では採用した人がたまたま外国人であったという理由が挙げられており、専門性活用型では特殊な技能・能力、高度な技術があった、海外ビジネスの展開をにらんでという回答が多い。一方、日本人を雇うことができなかったから、外国人の賃金などの費用が安いからという回答は、製造現場で外国人を活用しているケースに多い(注3)

第7図

ここで、実際に企業が外国人労働者を雇用する場合、どのような雇用形態をとるのか、雇用の類型を整理しておくのが有益である。後で述べるように、この類型が外国人の雇用管理と関係しているからである。第1表は、日系人労働者の雇用形態の類型を整理したものである。この表の「日系人」という記述を「外国人」と読み替えることもできる(もちろん、日本人にもほぼあてはまる)。この表に示されたように、(1) 企業に直接雇用され、日本人正社員と同じ仕事に就き、日本人と区別なく処遇されるケース、(2)日本人のアルバイト、パートタイマー、嘱託社員などのように非正社員として企業に雇用されるケース、(3) 請負会社に雇用され、他の製造業企業でライン作業を行うケース、(4)派遣会社から派遣され、派遣先から指揮命令を受けて仕事をするケース、という4つのケースが考えられる。

第1表

先ほどの外国人労働者の採用・活用方針をあわせて考えると、 (1) は多様な人材を活用するダイバーシティ型外国人の活用や外国人労働者の能力を積極的に活用する場合に多い。また、企業の海外進出や海外取引への対応のために外国人労働者を雇用する場合もそうである。(3) の非正規活用型は製造業における日系人に典型的に見られる雇用類型である。

それぞれがどれだけの人数なのか、この類型にあうような統計はないので、厚生労働省『外国人雇用状況報告(平成18( 2006)年6月1日現在)』の事業所における外国人の職種の構成比をみると、生産工程の仕事で全体のおよそ6割程度であるが、減少傾向にある。これに対して、専門・技術、管理の仕事は増加傾向で推移しているが全体の2割程度、販売、調理、給仕、接客の仕事も増加傾向で推移しており、全体の 10数%となっている。先ほどの雇用類型に当てはめ、大雑把なイメージを言えば、(1) に該当するのが2割、(1) または(2)に該当するのが2割弱、(2)または(3)が6割ということになろう。

このように、日本における外国人雇用は積極的に受け入れている専門的・技術的分野の外国人活用よりも製造現場での外国人活用が多い。

外国人を雇用している事業所数、外国人労働者数は増加傾向で推移している。一事業所あたりの人数を計算すると 10人強の外国人が働いていることになる。やや実感と異なるが、この数値には製造業の間接雇用が含まれているので、多めの数値になっている。そこで、企業が外国人労働者を直接雇用している場合と人材派遣会社や請負会社を通して間接雇用している場合とに分けてみと、第8図(左)のように、外国人労働者を直接雇用している事業所では一事業所あたり7~8人の外国人労働者を雇用している。この人数は実感よりも多いと感じられるかもしれないが、外国人を 100人、1,000人単位で直接雇用している人材派遣会社や請負会社が含まれているからである。第8図(右)は外国人を間接雇用している事業所の状況である。一事業所あたりの外国人の人数の増加幅がより大きいことがわかる。

第8図

(2)専門的・技術的分野の外国人労働者の雇用管理

企業の外国人採用方針や雇用類型を見てきたが、それらによって外国人の人的資源管理のあり方もほぼ決まる。日本人と区別なく採用するという場合、採用後の配置、教育訓練・能力開発、評価、処遇なども日本人社員と変わりない。語学力など外国人の能力を活用するという場合、海外関係部門に配属されたり、海外派遣要員として育成されたりすることが多い。これらの場合、外国人労働者を雇用する上で特別な配慮を行っている企業は意外と少ない。配慮するとしても、社内で孤立しないようにする、メンターを付ける、直属の上司に配慮を要請したりするといった程度で、社内文書を複数の言語で作成するというようなことを行っているケースもどちらかといえば少数派である。

とはいえ、外国人労働者の雇用管理上、外国人労働者特有の属性や就業行動に配慮しなければならないこともある。たとえば、日本の大学・大学院に留学し、そのまま日本の企業に就職する場合を取り上げてみる。日本への留学生を採用するという場合、留学前に就業経験を有することがあり、その分年齢が高かったり既婚あるいは子供がいるということも珍しくない。留学生を採用する企業はこうした事情を考慮する必要がある。

また、外国人の場合、生涯にわたる明確なキャリアイメージを持っている場合が多い。企業としてそういった外国人個人の要請に対してどれだけ応えることができるのか、募集・採用の段階で明確に示すことが求められる。採用後も仕事上の指揮命令、残業や仕事の分担、仕事の進め方についても(日本流に)曖昧なまますませるのではなく、明確にするべきである。外国人は短期間で転職したり、いずれは出身国に帰国するというイメージがある。しかし、外国人を定着させる誘因を与えることができる企業になるにはどうすればいいかも考える必要があろう。

そのほか、外国人の場合、住宅の問題がつきまとうが、会社借り上げや社宅の保有、会社が保証人となるといった対処が求められることがある(注4)

(3)製造業現場の外国人労働者の雇用管理

【1】 日系人労働者

一方、非正社員として外国人労働者を活用するというとき、直接雇用の形態をとる場合と間接雇用の形態をとる場合がある。生産工程に就く外国人労働者には日系人労働者が多くおり、間接雇用の形態をとる。

日系人は就業の制限がない。近年、製造現場では何かと派遣や請負が話題になることが多いが、日系人労働者の雇用・就業もこうした流れと関連づけてとらえていく必要があるのではなかろうか。つまり、企業は外国人労働者としての日系人に対して需要があるというよりも間接雇用増加の一形態として日系人労働者を活用しているという見方をするべきだろう(注5)。専門的・技術的分野の外国人労働者の雇用では専門性や能力がポイントとなっているが、ここではコスト、(賃金)や雇用調整のしやすさが評価のポイントとなる。

日系人労働者は請負会社に直接雇用される形で増加してきた。送出国からブローカーや旅行会社経由で採用されていたが、近年は請負会社が日本国内にいる日系人を募集・採用することが多くなっている。日系人労働者の国際労働力移動はデカセギ型が多かったが、(意図したものであろうと、意図せざるものであろうと)定住化が進み、女性労働者も増加している。請負会社の顧客企業は自動車関連、電子部品関連の二次下請け、三次下請け、さらには食品などが多い。高度な技術を必要としないので、教育訓練・能力開発の機会が乏しく、顧客企業も日系人労働者に高い技術を求めていない。かつて、日系人労働者は長時間の残業も厭わないといわれていた。しかし、家族呼び寄せが進んだ結果、残業についての考え方にも変化が見られる。日系人労働者は、賃金が 10円でも高ければすぐに移動するといわれていたが、定住化が進み、住宅を購入する者もわずかながらおり、定着層と流動層に分化している。

しかし、日系人労働者の多くが依然として業務請負業などで比較的短期の契約で雇用されていることに変わりはない。技能や日本語能力の向上も見込めない。さらに、現行社会保険制度の下で、その加入率が極めて低い。単純労働を反復していても、技能の向上につながらず、日本人労働者が忌避する深夜労働や長時間労働への対応が企業の採用理由となっていることも多い。夫婦子弟帯同で来日している場合には、家庭生活が不安定になったり、教育を受けない子弟がいるといった問題が起きている。

【2】 技能実習生

日系人労働者とともに日本の製造現場では研修生・技能実習生を受け入れている企業が多い。1年間の研修後、技能実習生となる制度であるが、第9図に示されるように、研修生の人数は増加傾向で推移している。また、研修生の送り出し国は中国が圧倒的に多く、これを反映して、研修終了後技能実習への移行者数も中国が急増している。

第9図

研修・技能実習制度ができてから 20年近く経過したが、これまで指摘された問題点を整理すると、(1)海外への技能移転という本来の制度の趣旨と実態の乖離、(2)二重契約、研修や実習が計画通り実行されていない、本来認められていない研修生の残業、賃金不払い、人権侵害などといった不正行為の発生、(3)常勤職員数別に研修生受入人数の制約があるにもかかわらず、技能実習生を常勤職員に含めてカウントする事例の発生、(4)ブローカーの介在や研修生・実習生の失踪――などが指摘されている。

このため、制度の適正な運用と今後の方向について関係省庁で検討されている(注6)

企業が外国人労働者(ここでは日系人を念頭に置く)を雇用する背景とそこで生じうるさまざまな雇用管理上の問題は、第10 図のように整理できる。近年、偽装請負問題を背景に、外国人労働者を間接雇用から直接雇用に切り替える企業が徐々に増えているが、依然として日系人労働者の雇用では間接雇用が多数派であることに変わりはない(注7)。なお、この図にかいたすべてについて言及できないので、いくつかの点に限定して論じる。

第10図

この図にもとづいて、(1) 募集・採用→(2) 安全衛生→(3) 社会保険→ (4) 人的資源管理(配置、教育訓練、評価・処遇)→ (5) 離職という就業の局面でどのような問題が生じているかをみる。まず、外国人の募集・採用という局面では、ブローカーの介在や採用差別、さらに在留資格の確認がきちんと行われているかどうかといった課題がある。研修生・技能実習生が失踪後、不法就労するといった事例の報告があるが、ここでもブローカーが関与していることがある。労働者の就労においてブローカーが介在する場合、在留資格のない外国人を斡旋することによって、不法就労に結びつく可能性がある。送り出し国のブローカーについては対応が難しいが、国内のブローカーの介在については十分留意し、入管法の在留資格制度に照らして、不法就労を防ぐためにも在留資格の確認が必要である。

また、採用後は、外国人労働者に対しても労働基準法が適用されるので、賃金や労働時間などの労働条件で差別してはならないし(注8)、安全衛生面では、安全教育が外国人労働者に理解できるよう行われているかどうか、留意する必要がある。外国人労働者であろうと日本人労働者であろうと、就労時に労働災害の発生に遭遇する可能性がある。たとえば、外国人労働者が製造業で就労する場合、機械の操作に習熟していない時に労働災害が発生する事がある(注9)。これを防ぐために安全教育をする必要がある。ところが、外国人労働者で日本語能力が不足している場合、安全教育を理解できない場合もある。そのため、外国人労働者が理解できるよう、具体的な説明、指導を行う必要がある。また、外国人労働者は残業や深夜勤長時間労働も厭わないといわれてきた。確かにデカセギのように短期間に出来るだけ多くの収入を得ようとする外国人労働者の行動が長時間労働につながったことも事実である。しかし、過度の長時間労働によって健康を害した事例もあり、場合によっては労働災害につながる危険もある。

そして、業務請負業に雇用される外国人労働者の場合、能力開発の機会が乏しいことが指摘されている(注10)。聞き取り調査によれば、「資格取得に役立つように能力開発のための設備は用意したものの、日々の仕事をこなすだけでほとんど利用されていないし、その余力もない」、また、「顧客は日系人労働者に高度な作業をこなすことを求めていない」とコメントしている請負会社もある。こうしてみると、外国人労働者の労働力の質の向上が図られないのは、請負会社だけの問題ではなく、それを活用する側の問題でもある。

さらに、従前から外国人労働者の健康保険・年金の加入率の低さが問題にされてきた。日系人労働者についてこれまで実施されたさまざまな調査結果をみると、日系ブラジル人の健康保険の未加入者の比率は、調査によって 15%~60%と大きな差がある。また、年金の未加入者の比率は 65%~ 90%と、これも調査により大きな差がある(注11)。健康保険未加入であるために、医療費は全額自費負担となるので、外国人労働者が健康を害した場合でも適切な治療を受けない場合が少なくない(注12)。治療を受けたとしても医療費が未払いとなることもある。 1998年に永住権取得に関する規制緩和が行われ、永住権を取得する外国人が増加している(既出第2図参照)(注13)が、このことは、日本で高齢期を迎える外国人が増加する可能性があることを意味する。もし送り出し国の年金にも日本の年金にも加入していないのならば、将来の生活にも影響を及ぼしかねない(注14)

このようにみると、外国人労働者の雇用上の課題の多くは、使用者が守るべきルールとして対応することが出来る。そのために、企業は募集・採用から離職までの就業の局面に応じて適切な雇用管理を行うことが求められる。

外国人労働者に関する議論の中には、受け入れの是非にとどまっているものもある。しかし、既に日本で就労している外国人労働者への対応という点にも目を向けていく必要があろう。ともすれば、(技能実習生を含む)外国人労働者は、賃金コストが安い、残業も進んで行う、日本人労働者の代替、フレキシブルな労働力ということから「活用」されがちであるが、外国人労働者をそのように位置づけることに問題が多いことは明らかである。外国人、日本人の区別なく、その持てる能力を高め、発揮できるよう対応することが企業に期待される。


〔注〕

1.アンケート調査の概要については労働政策研究・研修機構( 2004)『外国人労働者問題の現状把握と今後の対応』労働政策研究報告書No.14を参照。

2.アンケート調査結果を因子分析した結果による。

3.外国人を雇用しないのはなぜなのだろうか。同じアンケート調査結果を見ると、日本人だけで人材を確保できているという回答が7割以上で最も多い。この回答には留学生を含めて外国人を雇用することを考えたことがないということも含まれている。以下、日本語が通じないと何かと不便だから、雇用管理が大変だからと続く。

4.留学生の就職については、ビジネス・レーバー・トレンド 2007年8月号を参照。

5.たとえば、丹野清人(2007)『越境する雇用システムと外国人労働者』東京大学出版会を参照。

6.厚生労働省および経済産業省の中間報告の概要については、季刊労働法第219号を参照。

7.直接雇用するにあたり、企業によっては日本語能力、永住権取得などいくつかの条件がつけられている場合もある。

8.労基法三条。

9.外国人労働者の労働災害に関する適切な統計の有無を寡聞にして知らない。そこで、技能実習生の労働災害の発生分布をJITCO白書( 2006)で確認すると、 2004年度に発生した技能実習生の労働災害件数全体( 100%)のうち、実習生移行後1カ月未満で 9.0%、1カ月以上6カ月未満で 36.4%、6カ月以上1年未満で 28.3%、1年以上 1.5年未満で 13.1%、1.5年以上で 13.1%――となっている。

10 .例外的に能力開発に力を注いでいる請負会社も存在する。

11 .外国人労働者が公的医療保険、公的年金保険に加入しない要因とその影響については、岩村正彦( 2007)「外国人労働者と公的医療・公的年金」『季刊労働法』第 219号を参照。また、丹野前掲書も参照のこと。

12 .筆者がこれまで実施した請負会社からの聞き取り調査においても、日系人労働者が健康保険未加入であるため体調不良であるにもかかわらず、重篤な状態になるまで我慢したという事例を何度か聞いた。

13 .日系ブラジル人の場合、ブラジルで年金に加入している場合もある。

14 .請負会社からの聞き取り調査によれば、年齢の高い労働者を派遣しないよう要望する顧客企業が少なくないとのことであった。そのような場合、この請負会社では年齢の高い外国人労働者を総菜・弁当などのデリカ関係の企業に送り出すとのことであった(こうした仕事は深夜勤が多く、また相対的に賃金が低いので労働者からはあまり好まれない)。

プロフィール

わたなべ・ひろあき/JILPT労働経済分析部門主任研究員。失業の地域構造分析に関する研究を担当する傍ら、外国人労働者問題の調査研究も手がける。主な研究成果は、プロジェクト研究シリーズNo.1 『地域雇用創出の新潮流』(共著、JILPT 2007)、労働政策研究報告書No.65 『地域雇用創出の現状に関する研究』(同 2006)、同No.14『外国人労働者問題の現状把握と今後の対応に関する研究』(同 2004)など。