事例報告 クレディセゾンの人事制度改革

講演者
松本 憲太郎
株式会社クレディセゾン戦略人事部長
フォーラム名
第96回労働政策フォーラム「改正労働契約法と処遇改善」(2018年3月15日)

クレディセゾンは、セゾングループのファイナンスカンパニーです。セゾンカード、UCカードなどのカードビジネスのほかに、ソリューションビジネスやコンテンツビジネス、資産運用ビジネスなど多岐にわたる事業を展開しています。

カードビジネスについては、キャッシュレスが進み、クレジットカード以外の競合する決済ツールが出てきたことや、多額のシステム投資負担と近年の法改正により、非常に利益を生み出しにくい構造になってきています。したがって、特定商品に依存しないソリューション型への転換や、外部リソースも組み合わせた価値提供など、ビジネスモデルの変革に挑戦するため、2016年から3カ年の中期経営計画を実施しているところです。

各事業部門には、この3カ年で6~7%の経常利益を目標に掲げ、カードビジネス以外の事業をどう育てていくかという課題が課せられています。このような厳しい局面を乗り越えるためには、人事を含めた間接部門としても何ができるのかを考えてきました。

事業ポートフォリオに合わせて社員の役割も変化

中期経営計画が意味するものとは、まず、事業のポートフォリオ(構成要素)が変わっていく、つまりカードビジネス以外の事業が増えていくので、社員の役割が変わり、それを前提とした人事制度が求められるという点です。2番目に、外部リソースの取り扱いや協業が増えていくということ──。テクノロジーが進化して、競合商品も変わっていきます。自社と他社を組み合わせた商品などをデザイン、提案していくためには、自社のリソースの知見に安住しない、目利きやコーディネートする能力が求められます。3番目は、テクノロジーの積極活用による「高収益化」です。当社のカードビジネスのモデルは、一部機械化・自動化されましたが、営業・審査・回収プロセスはあまり変わっておらず、高コストの要因にもなっていました。ですので、業務プロセス自体を見直すことを前提とした人事制度も必要になってきます。つまり、人が付加価値を生み出すべき仕事は何かを再定義し、それに給与と処遇を連動させていく必要があると考えています。

挑戦する風土づくりや人材の可視化を

人事戦略の構築に当たって考慮したポイントを何点かに絞りました(図表1)。何のために人事制度を変えるのか──。時流に乗るとか法律が変わるからではなく、あるいは離職防止や人材確保のためでもない。最終的には、競争に勝ってこそ社会に認められ、価値を提供できるので、全員が挑戦して会社を成長させていける雇用制度にしなければなりません。そのためには、挑戦する風土や活躍できる人を抜擢しやすい仕組みをつくったり、どこにどのような能力・経験を持った人がいるのかということを、総合職以外にも対象を広げて可視化する必要があります。また当社の従業員は女性が8割を占め、制約を抱えた人が多いため、そうした人たちでも成果が出せるような環境を整え、柔軟な働き方を追求していく。その結果として、ダイバーシティな陣容を整えることもできると考えています。

雇用形態の区分を一本化

具体的な人事制度の改革は、大きく分けて、①雇用形態の統一、②役割等級制度の導入、③行動評価の導入、の三つです。図表2は、雇用形態の新旧制度を比較したものです。現制度の「専門職社員」は、全国のセゾンカウンターなどのセールスの仕事で、ほとんどが女性です。「メイト社員」は有期の契約社員で、事務サービス職とコールセンター職があり、こちらもほぼ女性が占めています。一方、総合職の男女比はおよそ4対6となっています。

社員登用制度については、かなり以前から導入していましたが、所属長から活躍が目立つ人には個別に声をかけて試験を受けてもらうケースが多かったため、道はつくったものの、本当の意味で全ての人材を活用し切れていなかった。そこで今後は、全員をきちんとフォローしていこうという議論になりました。

全ての社員が柔軟に働ける仕組みに

今回、図表3のとおり役割等級制度に変更しました。「G1」「G2」が従来のメイト社員の仕事ですが、将来的に、人口知能(AI)や業務自動化(RPA)へ代替可能なものは移行して、「G3」以上に付加価値をつけるよう支援していこうと考えています。

従来のメイト社員のなかには、労働時間が短い人や休日が総合職より多い人が含まれています。今回、雇用形態を統一しましたので、短時間勤務制度と短日勤務制度を組み込み、上司の決裁があれば誰でも無条件で利用できる形に変えました。つまり、今までは雇用形態の区分によって、時間や休日の差異をコントロールしていましたが、区分を取り払い、全ての人が柔軟に働けるような仕組みに変えました。このほか、全国転勤型とエリア勤務という「勤務地コース」も運用していますが、基本給与には差をつけず、手当でコントロールしています。

各部門への権限移譲を人事がサポート

これらの新制度については、昨年の秋に暫定移行し、この春から本格的に運用しますので、まだ課題は多く残っています。これから運用していく際の重要なポイントは、全ての社員が同じ土俵に乗るので、人材タイプ、強み、実績などを可視化して共有することです。また、どういう人材であって欲しいかという全社共通の土台となるコンピテンシーと、部門ごとに定める役割やスキルの定義に基づき、ポジションを決定する。今までのように人事部門が等級と給与を決めるのではなく、部門の裁量で役割と給与も決めるように、権限を移譲していきます。現場での運用がカギとなりますので、人事部門がサポートしながら形を整えていくというのが今後の課題です。

人が少なくなっていくなかで、付加価値を高めていくために組織として何ができるのかを考え、これからも挑戦し続けていきたいと思います。

プロフィール

松本 憲太郎(まつもと・けんたろう)

株式会社クレディセゾン戦略人事部長

1993年関西学院大学法学部卒業、クレディセゾン入社。主力のクレジットカード事業において、支店営業、支店統括部門、商品企画部門等に従事。2010年、営業企画部長。2014年、戦略人事部長に就任し人事制度改革を主導、現在に至る。

GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。