事例報告 正社員登用の取り組みとその効果

講演者
山本 覚
株式会社竹内製作所総務部人事課課長
フォーラム名
第96回労働政策フォーラム「改正労働契約法と処遇改善」(2018年3月15日)

高品質なハイエンドモデルを国内で生産

当社は、長野県に本社を置く小型建設機械のメーカーです。従業員数は連結で約720人。ミニショベルの開発に続き、不整地作業用のクローラーローダーを世界で初めて開発するなど、常に新しい機能や性能を装備した新製品を世界市場に提供し続けています。海外の安価な労働力に頼って価格競争をするのではなく、日本のモノづくりにこだわり、高品質なハイエンドモデルを国内で製造し、欧米に販売するのが当社の戦略です。

大学進学で8割以上が県外流出

私どもの業界は、今後もますます拡大していく産業と言われ、当社も売上・利益ともに伸びていますが、業容拡大に伴う人材確保が一段と厳しい状況に直面しています。今後も収益性のある高品質な製品を生産していくためには、高い技術力や技能が求められますが、長野県では、大学進学時に県内に残る割合が15%程度で、大部分は首都圏や中京圏に流出してしまいます。したがって、人口減少社会が世の中で話題になる以前から、当社を含めた県内企業においては、労働力の確保を重要な課題と認識しておりました。

正社員登用試験を導入──厳しい合格水準、何度でもチャレンジを

こうした状況のなか、当社では非正規社員にも長く働いてもらい、高度な技術を身に付けて欲しいと考え、正社員登用試験を実施することにしました。対象者は1年以上の在籍者で、試験内容は書類選考や筆記テスト、小論文、面接などオーソドックスなものになっています。

この4年ほどで延べ109人が受験し、16人が合格しました。合格率は、他社の正社員登用と比べるとかなり低い水準かと思いますが、何度でも挑戦できるような制度設計にしている点が肝になっています。なかには、少し時間はかかるけれど、何年かかけて着実に技術を習得するという遅咲きの人もいますので、なるべく長く働いて技術を高めてもらい、合格水準に達したら登用するという対応をしています。ですので、前述の109人には同じ人が含まれており、60~70人程度が実際の受験者数になります。

登用試験を受けるための入社が増加

この取り組みの成果として、非正規社員の定着率が大幅に向上したことが挙げられます。私どもの製品は鉄でできており、厚みも重量も相当あります。冬場は長野の山奥の雪のなかで、冷たい鉄を持ち運ぶといった仕事もある。労働環境は決して良いとは言えず、以前は非正規社員の短期離職に悩まされていました。ところが登用制度を導入したところ、登用試験を受けることを目的に入社する人が非常に増え、離職率が目に見えて低くなりました。

また、何度でも登用試験を受けられるため、不合格者には、どういう部分が足りなかったのかをフィードバックしています。多くの場合、職人芸的にモノをつくることに関しては、体がある程度覚えてできるようになっていくのですが、その背景にある技術的な知識やロジックの部分が少し不足している人が比較的多い。そこで、各種検定試験を受けて技能資格を取得し、裏付けのある技術の向上という領域にまで上がってきたところです。

その他にも、日々目の前の仕事をこなしている現場のなかで、業務の改善提案が出されるようになり、工場の安全性が高まったり、品質の向上や作業速度のアップ、つまり生産性が向上したり、場合によってコストダウンの改善提案なども出てくるなど、多くの職場で波及効果が出ています。

自己研鑽で職場の信頼を獲得

非正規社員個人の視点で考えると、「まずは1年間がんばって正社員登用試験を受けてみよう。できれば合格しよう」という目標ができます。そのような気持ちになると、自然と出勤率も高くなり、急な欠勤などが少なくなります。以前は勤怠が決して良い状況ではありませんでしたが、その後次第に改善され、正社員と同じような姿勢で勤務に励む人が増えていきました。その結果、職場から信頼されるようになり、「この人は長く働いてくれるのではないか。であれば、もう少し難しい仕事も教えてみよう」という期待が生まれます。そうしていくうちに、従来の非正規社員よりもレベルの高い仕事をこなせる人が、徐々に増えていったという効果が見られました。

品質と生産性向上の好循環へ

次の段階として、非正規社員が自己研鑽を重ねて技能習熟度が上がっていくと、「この人は本当にがんばっている。良い人材が入ってきた」と、職場の信頼がさらに大きくなります。晴れて登用試験に合格して正社員に転換すると、社内の処遇も上がっていく──。

これはあくまでも成功事例ですが、一つのモデルとして同様のケースが発生しており、当社では、多くの非正規社員が正社員を目指すという大きな流れが起きています。

このように、多くの非正規社員の取り組み姿勢が変わると、職場に良い影響が還元されます。いわゆる「ちゃんとした良い製品」がたくさんできることで、実際、不良率も低くなり、品質が徐々に向上していく効果も見られています。そして正社員に登用された後は、役割が広がり、職場の改善推進や、より高度な技能を伝承していく立場となっていきます。

当然、不合格になる人もいます。ただしセーフティネットとして、何回でもチャンレジできる仕組みを整えていますので、器用ではないけれどコツコツ取り組むようなタイプの人に対しても、ちゃんとチャンスを残しておきたいという思いで、この制度を運用しています。先月、5回目となる登用試験を実施しましたが、なかには受験3回目、4回目という人もいました。過去に私が面接官をした受験者もいましたが、不合格当時との変化を感じることが多くあります。やはりこの数年間で着実に成長していると感じました。このように、非正規社員を戦力化して経営を安定させる取り組みを今後も進めていきたいと考えています。

プロフィール

山本 覚(やまもと・さとる)

株式会社竹内製作所総務部人事課課長

2007年株式会社竹内製作所入社。総務部配属。総務業務の他に、新卒採用、中途採用、労務全般、就業規則管理等の人事業務を担当。2014年より現職。人事専任となり従来から担当している人事業務のほかに、人事制度、人事給与勤怠システム、福利厚生等を含む社内人事全般を統括し現在に至る。

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