事例報告 千葉興業銀行における「多様な働き方」と「無期転換ルール」の導入

講演者
井上 宏人
株式会社千葉興業銀行人事部人事企画担当部長代理
フォーラム名
第96回労働政策フォーラム「改正労働契約法と処遇改善」(2018年3月15日)

当行は1952年に設立され、「戦後派地銀」と言われる、銀行業界のなかでは比較的新しい銀行です。正社員が約1,400人、パート社員が約900人と、パート社員が約4割を占めています。したがって、今回の労働契約法の改正は、パート社員の戦力強化のために何をすべきかを考える契機となりました。

当行は戦後の復興に伴い、業績が順調に伸びていきましたが、バブル崩壊後に不良債権問題が銀行業界を大きく襲い、当行でも2000年に大幅な赤字決算を経験しました。その後、社内の様々な体制や仕組みを一旦ゼロベースにし、聖域なきリストラを断行しました。例えば既存の仕事に難易度をつけて、「〇〇は正社員の仕事」「〇〇はパート社員の仕事」というように仕分けをし、人材のポートフォリオを見直した結果、徐々に正社員が減り、パート社員が増えていく人員構成となりました。

2000年以降の人事施策の見直しのなかで、性別や年齢、雇用形態にかかわらず、誰もが活躍して会社に貢献してもらうため、当行では女性やパート社員、若手の活躍推進にも積極的に取り組んできました。こうした取り組みをご評価いただき、女性、パートタイム労働者の活躍推進や、従業員の自律的なキャリア形成支援の取り組みに関する企業表彰においても、様々な賞を受賞いたしました。

働き方に応じた多様な雇用区分を用意

図表1は当行の従業員区分の内訳と人数を示したもので、「アソシエイト行員」は、今回の労働契約法改正に伴い新設した、準社員のような位置づけです。「レギュラースタッフ」とは、例えば「ロビースタッフ」であれば受付案内、「テラースタッフ」は窓口業務というように、「単機能」の仕事範囲が決まっていて、勤務時間の長短により「ロング(フルタイム)」と「ショート」に分かれています。一方の「リーダースタッフ」は、事務も窓口業務も担うような複数業務の多機能型で、全員がフルタイムです。仕事の習得度合いもレギュラースタッフとは違いますし、時給のテーブルや評価制度も異なります。

当行のパート社員(レギュラースタッフ)のほとんどが、近所の主婦層で、「子どもが小学生になり、多少空く時間ができたので働きたい」というような、「M字カーブ」で戻ってきた人たちです。金融機関の出身者は2割程度で、採用後は全員が銀行業務の研修を受けて仕事を覚えていきます。その後、「子どもが高学年になったので少し長く働ける/働きたい」などとなれば、同じ仕事内容で時間数だけ増やす「レギュラー(ロング)」に移行する人もいますし、あるいは、仕事の領域を拡げて複数の業務をこなす「リーダースタッフ」に進む人もいます。

今働いている社員の戦力化を

図表2にあるとおり、今後は、レギュラー(ショート/ロング)から「リーダースタッフ」を経て、アソシエイト行員に転換する<キャリアコースB>が増えていくと見込んでいます。

当行は従来より、学卒者を新規採用して社内で育成するというオーソドックスな会社ですが、人手不足や少子化の影響もあり、優秀な人材を集めることが難しくなってきています。それならば、今働いている900人のパート社員をもっと戦力化し、役割や処遇も上げていこうと考えました。ただ大多数が家庭責任を負う主婦層なので、契約が単に有期から無期になる選択肢も残しつつ、家庭の事情が許せば会社に貢献して欲しいという話もしています。

現場の声で「アソシエイト行員」を新設

労働契約法改正への対応に伴い、人事部でリーダースタッフを中心にヒアリングをしたところ、「残業のある正行員は希望しないが、もう少し働き方を強めて会社に貢献し、賃金も上がれば嬉しい」という要望が一定数ありました。会社としても、既存従業員の戦力化に取り組んでいこうと考えていたので、それならば従業員区分を一つ作ればよいのではないか、ということで「アソシエイト行員」を2017年4月に新設しました。法対応という側面もありますが、現場の声を人事部が吸い上げた、ボトムアップ型の制度と言えると思います。

「リーダースタッフ」は、もともとレギュラースタッフとして入った都市銀行出身者が、子どもが大きくなったのでもっと責任のある仕事をしたいと申し出たことを受けてつくった制度です。2003年から運用し始め、現在は90人くらいに増えました。

行員への転換制度は2006年につくりましたが、実はあまり運用されませんでした。レギュラーからリーダーに昇進した人はいましたが、行員転換の希望者が少なかった。実際に転換した人はいましたが、意欲や能力も極めて卓越した人ばかりで、その後、ほぼ全員が課長職以上になっています。大部分の人には行員転換のハードルは高く、あまり活用されてこなかったため、中間的な雇用区分として「アソシエイト行員」を新設したというのが経緯になります。

二項対立でなく、その間に「階段」をつくる

今後の雇用管理については、従来のような正社員とパート社員という二項対立的な考え方ではなく、その間に段階的な区分を設け、個々人の能力や働ける環境に応じて処遇していくことが課題だと考えています。当行の場合は、一足飛びで正行員に転換することよりも、その間に「階段をつくる」ことが多くの人にとっての正解だと改めて分かったのです。その際の重要なポイントは、アソシエイト行員と正行員との違いを明確に示したことです。当然それは処遇差にも関係してきます。一例を挙げると、アソシエイト行員は課長にはなりません。課長は人事評価や組織編成にかかわる組織的な管理を担いますが、そうした業務は、アソシエイト行員から完全に取り除いています。あくまでも担当業務の管理者としての責任は負いますが、人事上の責任は持たないという違いがあります。

人手不足の時代のなか、当行としては、新規採用だけではなく、今いる従業員がもっと活躍できるためには何が必要かということを今後も考えていきたいと思います。

プロフィール

井上 宏人(いのうえ・ひろと)

株式会社千葉興業銀行人事部人事企画担当部長代理

1993年千葉興業銀行入行。営業店勤務を経て、2000年から2008年までと2013年から現在までの2度にわたり人事部に在籍。2015年から現職。企画ラインの責任者として人事制度企画、人事戦略の立案を主幹している。

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