事例報告 都立高校における不登校・中途退学の未然防止に向けた取り組み──都立学校『自立支援チーム』派遣事業

本日は教育行政の立場から、中途退学問題にどのようにアプローチをしているか、その取り組みをご紹介したいと思います。

中退者の追跡調査から見えてきたもの

東京都では平成24(2012)年度に、都立高校の中途退学者と進路未決定卒業者を対象とした初の追跡調査を実施しました(図表1)。高校在学時の生活状況や退学(卒業)後の生活や意識を把握し、中途退学者の現状について、①学習層(学校層、学習意欲層)、②仕事層(正社員層、フリーター層)③その他(家事・育児層、ニート層)に類型化しました。それぞれの割合は図表2のとおりです。

中途退学の理由については、多くは学校に反発して去っていくのではないかと思われていましたが、調査結果を分析すると、「遅刻や欠席が多い」、「通学が面倒」がその理由に挙げられており、基本的な生活習慣の確立がなされていないことが分かりました。そのほかに、フリーター層とニート層は中学時代の出席状況や成績が悪く、中学からのつまずきがあること、学習層とニート層では「精神的不安定」、「友人とうまく関われなかった」が多く、メンタル面での課題があること、そして全体的に、中途退学後の支援機関の利用が著しく低く、既存の就労や就学に関するサービスが当事者に届いていないことも、調査結果から浮かび上がってきました。

一般的に、従来の中退者のイメージとは、ちょっとやんちゃで、どちらかというと就労志向にある生徒が多かったように思います。それに対し、中途退学後も何らかの形で学習を志向している若者は、社会に出ることに恐怖を感じていたり、人と関わるのが苦手だという面が強く、積極的に学習をしたいというよりも、何となく学生生活を続けていきたいという状況にあることも、結果から見えてきた特徴の一つです。

中退後に「インターバル(探索期)」が

ただし、中途退学者を類型化して固定的に物事を見ていくだけでは問題を把握することはできません。従来型のタイプ別の施策対応の発想では、解決するのが難しいということが、今回、調査の分析を通じて課題として見えてきました。

つまり、現象として中途退学が起きるわけですが、その同一線上に、進路未決定のまま卒業する生徒や、進路多様校における中途退学予備軍の課題もあるのではないか──。中途退学をしたのは、たまたま対人関係や学校の指導方法のあり方などによる理由からであって、進路多様校の生徒にも同様に起こり得る問題だという捉え方で、施策のアプローチを検討してきました。

もう一つ、この調査で分かったことは、中途退学をした後、何らかの就学行動や就労してみようとする行動が現れてくるまでのインターバル期間(探索期)が、平均5.6カ月ということでした。中途退学を決めた時点では、今後の進路を考えることができなくても、しばらくインターバルを置いてみると、何かやってみようかという気持ちになる、ということを発見できたのは大きな収穫でした。

「自立支援チーム」派遣事業の施策化へ

こうした調査研究の結果を踏まえ、平成28年度に「都立学校『自立支援チーム』派遣事業」を施策化しました。実はその前の3年間に、中途退学者やその予備軍に就労支援のアプローチをするというモデル事業をNPOに委託したところ、外部支援機関のアプローチは、中途退学の未然防止に特に有効なものではなかったことが判りました。高校3年生になって「就職してみようか」という気持ちにさせて、就労に導くことには一定の効果は見えたものの、中途退学を決めた生徒やすでに退学した者に、もう一度やり直しをさせる支援までは結びつかなかったのです。その原因は何なのかということを踏まえ、事業の枠組みを変えたのが、この「自立支援チーム」派遣事業(図表3)です。

基本的に、中途退学の未然防止には、もっと学校の組織の中に入り込みながらアプローチをしていかなければ上手くいかないだろうと考えていました。そこで、「ユースソーシャルワーカー(YSW)」という専門職を東京都教育委員会の非常勤職員として雇用し、学校に派遣することにしました。

ユースソーシャルワーカー(YSW)とは

YSWとは、学校から社会への円滑な移行をサポートする就労支援と福祉支援を行う専門スタッフです。福祉や生活面を支援する、いわゆるスクールソーシャルワーカーと区別するため、「ユースソーシャルワーカー」という名称を使い、中途退学の未然防止への取り組みを始めました。

支援は大きく分けて、「継続派遣校」への支援と「要請派遣校」への支援の二つがあります。前者は、不登校や中途退学問題などの課題を抱える都立高校(34校)を「継続派遣校」に指定し、そこへ定期的に週1~3回、YSWを派遣します。学校側では、窓口となる「自立支援担当教員」を配置して校内体制を整備するとともに、YSWとチームを組んで連携しながら問題解決に当っていきます。後者は、その他の都立学校から要請があった場合、一般的なスクールソーシャルワーカーの派遣に似た形で行うものであり、前者とは分けて取り組みを進めています。

「ユースソーシャルワーカー(YSW)」にはどんな人がいるかと言うと、キャリアコンサルティング技能士等の資格を持った人を中心に、就労支援系のYSWとして採用し、福祉支援系のYSWには、いわゆるソーシャルワーカーや精神保健福祉士の資格を持った人を中心に雇用しています。全体で48人のYSWに加え、スーパーバイザー的な役割を果たす「ユースアドバイザー(YA)」の6人を合わせた54人体制で、全都立高校の支援に当たっています。

具体的なYSWの役割は図表4に書かれているようなものですが、当然、生徒が置かれた様々な環境への働きかけ──いわゆるソーシャルワークの場面とキャリア支援の場面に対応し、関係機関とのスムーズな連携を図るため、YSWが学校と関係機関の間に立って進めるという仕組みになっています。

連絡協議会の設置でネットワークの構築を

また、「インターバル期間がある」という調査結果を参考に、中途退学後の2年間は、本人および保護者の希望があれば、YSWが直接支援していくという取り組みも進めています。そして生徒の様々な進路支援の問題を考えていくためには、学校単独では対応し切れないことも出てきますので、福祉関係機関やサポステ、職能開発センターや職業訓練機関、ハローワークなどの関係機関と、都立高校をつなぐネットワークとして、東部、中部、西部の地区ごとに「都立高校生進路支援連絡協議会」を設置しました。そこでは、関係機関の職員と継続派遣の34校の自立支援担当教員が協議する場を、年に2回程度、設けています。

昨年度の実績をご紹介しますと、2016年度に実際に支援したのは2,282人で、このうち2,000人以上は34校の継続派遣校の生徒です。また中途退学者への直接支援も60人ほど含まれています。「終結」という、不登校状態の解消や中途退学の未然防止、また進路決定等の一定の成果に結びついたケース(在校生)は1,331人、一方、YSWが現在も継続的に支援を続けているケース(在校生)は891人でした。

個の支援から人間関係構築の支援へ

YSWの具体的な職務については、図表5のとおり、いくつかのパターンがあります。継続派遣の34校のYSWは、要支援生徒に直接アプローチをする(パターンⅡ)仕事を主にしていますが、最近では、若者自身のエンパワーメントを高めるために、生徒同士の関係性をつくることで様々な力を付けていくという「校内ユースワーク」の取り組みを試みている学校も出てきました。個の支援でなく、個と個が人間関係を構築できるような支援をしていこうということです。そしてさらに、学校を離れたところで、様々な社会参加の活動ができるような支援も視野に入れています。単に学び直しをして高卒資格を取得するだけではなく、居場所や体験学習、交流の機会を提供し、他人との関係性をつくり、力を付けていきながら高卒資格の取得を目指すという取り組みを、東京都では始めています。

学校の関係者もこうした発想を徐々に理解して、YSW等の外部専門人材を活用しながら学校運営に当たっています。

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