事例報告③ ダイバーシティの推進と多様なキャリアの実現に向けて

当社は今年で創業119年を迎えます。創業当時は「鳥井商店」という社名でしたが、日本にワインを楽しむ文化をつくり出し、「ジャパニーズウイスキー」を誕生させました。1963年に「サントリー株式会社」に社名変更した後も、烏龍茶を発売して「お茶を買う」文化を創造したり、不可能と言われてきた「青いバラ」の開発に成功するなど、常に新しいものや文化を生み出すことに挑戦してきたと自負しております。現在は積極的に海外に進出し、食品メーカーでは国内売上高1位となっています。

このような当社を特徴づけるものが、創業者の鳥井信治郎の起業家精神です。彼は、ワインで成功した財を投げ打って、ウイスキーの蒸溜所をつくることにチャレンジしました。『わしがウイスキーをつくるのは、日本の事業家が誰一人手を出そうとせんからや』――そうした彼の精神は「やってみなはれ」精神として受け継がれています。人事部門では、新しいことに挑戦し、行動に移す社員を育成する・支援することが最大のミッションだと考えております。

異動・転勤は「人材育成につながる」

本日のテーマである「転勤」について、私たちは常にその課題と向き合い、運用を工夫しながら取り組んできました。異動や転勤が果たして人材育成につながっているのかという指摘がありますが、当社では「人材育成につながる」と明確に考えております。

当社には、「グループを経営する」「商品を創る」「市場を拓く」「事業を推進する」のように様々な仕事のフィールドがあります。一人ひとりの社員にその全てをチャレンジのフィールドと認めるのが当社のやり方であり、他のグローバル企業と闘って勝つための人材育成の戦略であります。例えば、営業を経験した人が広報宣伝部門に異動したり、マーケティング部門や人事部門にも行く――。一人ひとりが幅広い仕事をすることが、当社の人材育成の基本になっています(図1)。

図1 多彩なキャリアパス

図1 グラフ画像

参照:配布資料8ページ(PDF:1.17MB)

中長期の視点でキャリアを考える

それを実現するための武器が「キャリアビジョン制度」です。今の仕事の満足度や、次にやってみたい仕事などについて本人にヒアリングをします。以前は「自己申告制度」と呼んでいましたが、敢えて「キャリアビジョン」と名称を改め、5~10年という中長期的視点で、自分がどのようなキャリアを築いていきたいのか、年に1回、棚卸しをして上司とじっくり話し合う場を設けています。イントラネットには、100人以上の先輩社員の事例が掲載され、自身のキャリアに対する考え方やターニングポイントが具体的に綴られています。そうしたものも参考にしながら、社員には自分の中長期ビジョンを真剣に考える機会を提供しています。

勤務地に関わる制度の変遷

当社には1990年まで勤務地に関する制度はなく、全員が全国異動の対象である「勤務地非限定」でした。以前から「総合職」「一般職」といった区分や概念もありません。その後、1990年に「勤務地限定制度」を取り入れました。転居はありませんが、通勤可能な範囲での異動はあり、200名弱が同制度の対象になっています。そして2000年に「エリア限定制度」を導入しました。いろいろな仕事を経験するため転居を伴う異動はありますが、特定エリア外への異動はない、というものです。なお、事業のグローバル化を推進していくこととの整合性を踏まえ、2011年以降は適用していません。この制度が適用された社員のうち、約半数が現在「非限定」に転換し、100人強となっています。なお当社では、「限定」から「非限定」の転換だけを認めています。

女性比率・共働き比率が上昇

社員全体の女性比率は明らかに上昇しており、現在23.2%となっています。女性のマネジャー比率は、2003年は僅か2.3%でしたが、2016年にようやく8.5%になりました。現在は、2025年に20%という目標を掲げています(図2)。

また共働き比率も上昇しています。社員の女性比率が上がっただけではなく、男性社員の共働き比率も上がってきていますので、育児・介護などによる転居の難しさは、女性だけでなく男性の問題にもなりつつあります。その裏付けとして、単身赴任の比率も着実に高まっており、そうした状況で当社がどう対応しているのかについてご説明します。

単身赴任の支援を手厚く

単身赴任に対しては、その支援を手厚くしていこうというのがわれわれの考え方であり、現在進んでいる方向です。まず2003年に「配偶者の就職を理由に単身赴任する者」を帰省旅費の支給対象に追加しました。そして2013年に「転勤に起因する別居ではないが、配偶者の疾病・親族の介護で別居する者」を単身赴任の支援対象に追加しました。特に介護という問題は、いつ起こるか予測できません。介護があって単身赴任しなければならない場合は手厚く支援する、と一歩踏み込んだ形です。さらに2014年には、65歳定年制度を導入した後の社員へのヒアリングのなかで、やはりシニア期の基盤形成は大切だという認識に立ち、「満60歳以上の単身赴任者」の帰省旅費の支給回数を従来の2回から3回に増やし、シニア社員への支援も充実させました。

「ダッシュキャリア」と「スローキャリア」

単身赴任を含む転勤や異動配置に関する、もう一つの考え方に「ダッシュキャリア」と「スローキャリア」というものがあります。これは制度というよりも運用の考え方ですが、当社では、男女の異動配置は同じスタンスでフェアに実施していくのが基本です。ただし女性の場合は、現実問題として出産や育児というライフイベントの関係で、通常、仕事を通じて一番成長する30代に「キャリアロス」を起こす可能性がある。

そこで意図的に、20代のうちから遠隔地を含む異動、派遣、研修などの経験を積んでもらうようにしています。

一例を挙げると、首都圏・近畿圏以外のエリアの地方の営業拠点に配属となった新卒女性社員の割合は、2013年の約3割から現在は約45%と、半分近くにまで上がっています。このように、20代で「ダッシュ」して、子育てからフル復職後の30代は「スロー」、40代になる時には男女同じところに立っているというのがわれわれのキャリアの考え方です。

このほか、配偶者の海外赴任に伴い退職した社員の再雇用制度など、社員の多様なキャリア実現を目指した取り組みを行っています。

プロフィール

竹舛 啓介(たけます・けいすけ)

サントリーホールディングス株式会社人事部課長

2002年4月、サントリー株式会社入社、中・四国支社配属。2005年3月、人事部へ異動。技術系採用・労使交渉・人事制度改定・各種人事部門プロジェクト等を担当。2016年4月、人事部企画・労務グループ課長、人事部門戦略立案・プロジェクト推進、人件費マネジメント・労使交渉・人事制度改定・働き方改革等を担当、現在に至る。

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