研究報告 早期離職の背景と離職後のキャリア

若者の離職率──業種や職種によっても違いが

若年者の早期離職については、よく「7・5・3」という言葉を耳にします。就職3年目までに中卒の7割が仕事を辞め、高卒は5割、大卒は3割が離職するという意味です。図表1からも、大卒より高卒のほうが、また男性より女性のほうが辞めやすい傾向が見てとれます。この他の要因として、景気の影響も挙げられます。グラフを見ると、2004年から2008年にかけて、特に高卒男性の離職率が急激に下がっています。一般的に、景気の良い時期に就職した人は、自分の希望に近い会社に就職できるので離職しません。つまり、リーマン・ショックが起きた2008年以前の比較的景気が良かった時期は、就職しても離職せず、定着しやすかったということが言えるでしょう。

図表1 性・学歴別卒業後3年以内離職率の推移

図表1 グラフ画像

資料出所:厚生労働省「新規学卒者の離職状況」雇用保険の加入届から学歴を推計して離職率を算出

参照:配布資料3ページ(PDF:979KB)

また、業種や職種によっても離職率に違いがあることが判っています。例えば、宿泊サービスや生活関連サービス、娯楽業といった業種は離職率が比較的高いですし、事業所規模が小さいほうが離職率は高い。なお、職種については、サービス職や販売職は離職しやすく、事務職は一番離職しにくいという結果が、当機構の最近の調査結果から得られています。

離職の要因は「長時間労働」「労働条件の食い違い」「職場トラブル」

今般、JILPTが実施したモニター調査「若年者の能力開発と職場への定着に関する調査」についてご紹介します。この調査の対象は、学校を卒業あるいは中退して3年以上経った(9年までの)人で、かつ正社員の経験がある人です。回答者のうち、今も勤続している人と離職した人を比較して、どのような人が離職しやすいのか、離職にはどのような要因があるのかを分析しました。その結果、「初めての正社員勤務先」において、多くの離職者が経験したことの特徴として、①長時間労働、②聞いていた労働条件と現実が異なる、③職場トラブル、という3点が明らかになりました。例えば、離職した人の週労働時間は、勤続者より平均約5時間長くなっています。また、入社前に聞いていた内容と異なる労働条件だったと回答した人は、男女とも離職者のほうが多く、なかでも「労働時間の長さ」が顕著でした(図表2)。さらに職場のトラブルについては、「残業代が支払われなかったことがある」、「暴言、暴力、いじめ・嫌がらせを受けた」、「会社から一方的に労働条件を変更された」、「仕事が原因でけがや病気をした」といったものが、離職者の経験率が勤続者より高く、離職につながりやすいトラブルになっていることが分かりました。

図表2 入社前に聞いていた内容と異なっていた労働条件

図表2 グラフ画像

参照:配布資料5ページ(PDF:979KB)

新人に必要なことは「承認」

もう一つのポイントとして、教育訓練や職場のコミュニケーションに対する離職者と勤続者の回答(経験率)を比較してみます。教育訓練については、「指示が曖昧なまま放置され、何をしたらよいのか分からない時期があった」、「先輩社員と同等の業務を初めから任せられた」という経験をした人は、離職率が高いことが分かりました。職場が非常に忙しいと、「これやっておいて」みたいな形でいきなり仕事を任されたものの、うまくできず自信をなくしてしまうという状況もあろうかと思います。職場のコミュニケーションについては、自分のための「歓迎会」をしてくれた職場や、他部署に自分を紹介してくれたという経験がある人は辞めにくいという傾向が見られました。このほか、女性には、「分からないことがあった時に自分から相談した」「自分から希望の仕事内容や働き方を伝えた」「自分の働きぶりについて意見・感想を求めた」という経験がある人のほうが離職しやすいことが分かりました。これは女性のほうが積極的だということではなく、そうした働きかけを自分からしなければ周囲は何もしてくれないということを示しています。このように、新人に必要なことは、まず、職場の仲間から受け入れられること(=承認)だと言えます。今の若い人は、自分の立ち位置や自分が他人にどう受け止められているのかということを気にする傾向があるように思います。ですので、職場のほうから働きかけて、「自分の居場所はここだ」という感覚が得られるような経験を初期にすることがポイントでしょう。

早期離職は安定雇用につながりにくい可能性も

「初めての正社員勤務先」を辞めた直後の1年間の状況を見ると、男性は6割弱が正社員になっており、正社員以外の雇用形態で働いている人が約3割、働いていない人が約1割となっています。女性の場合は、正社員が3割程度で、正社員以外の雇用形態が4~5割、それ以外は非労働力化する人も結構います。調査時点での状況を学歴別に見たものが図表3です。男性の場合、現職で正社員になっている人は、大卒が約6割に対して高卒は約4割と少ない。このように、高卒の人が再就職しようする際、正社員の職が見つかりにくい可能性があると言えます。

図表3 学歴別 現在の状況

図表3 グラフ画像

注1:高校卒には、高校、専門、短大、高専、大学中退を含む。
注2:大卒・大学院卒には大学院中退を含む。
注3:「正社員以外の雇用」は、契約社員、派遣社員、アルバイト・パート・非常勤の合計、「その他就業」は「役員・自営・内職・家族従業員」、「非労働力、他」は「もっぱら家族の世話」「もっぱら勉強」及び「いずれもあてはまらない」の合計である。

参照:配布資料9ページ(PDF:979KB)

次に、「初めての正社員勤務先」勤続期間別に、離職後の状況を見てみます(図表4)。こちらも男性のほうが女性より傾向が明確になっており、1年以内に辞めた人のほうが正社員比率は低くなっています。採用側が「またすぐ辞めるのではないか」と危惧したり、本人も当面は「トライアンドエラー」でいろいろなことに挑戦してみようと思っているのかもしれませんが、1、2年という短期で離職すると安定した雇用につながりにくく、その後のキャリア形成が難しくなる可能性があります。

さらに、「初めての正社員」での勤続期間によって、転職後の現在の生活全般に対する満足度も異なりました。男性のデータになりますが、勤続期間が「1年超~2年以内」や「2年超~3年以内」の人たちは、半数以上が現在の生活全般に「満足」「やや満足」と答えた一方、「1年以内」では4割に届いていません。これは、雇用の安定性や賃金、仕事のやりがいや職場の人間関係といった職業生活に対する満足感についても同じ傾向が見られます。

図表4 離職までの勤続期間別 現在の状況

図表4 グラフ画像

参照:配布資料10ページ(PDF:979KB)

早期離職は「職場に不満」など後ろ向きの理由多い

ここで、離職理由と初職(正社員)継続期間について“多重応答分析”した結果をご紹介したいと思います。厚生労働省が行った大規模な調査を二次分析したものになりますが、図表5は、離職理由をグルーピングして、それらを継続期間別に分析したものです。離職理由について、大きく三つのグループがあります。図の左側の丸で囲まれたものは、「人間関係がよくない」「ノルマ・責任が重すぎる」といった職場への直接的な不満です。右側のグループは、「責任ある仕事がしたい」「結婚・子育て(=結婚したのでより給料が高い仕事をしたいという意味)」など、どちらかと言うとキャリアを伸ばしたい前向きな理由です。一方、上のグループは、「倒産」「雇い止め」など、本人の意思に関わらず離職せざるを得ないといった理由群です。この理由群と何年目に辞めたかという関係を見たものが、図の矢印で表されています。つまり、1年未満という早期に離職した人たちは、職場に不満があったり仕事が辛いといった後ろ向きの理由で辞めており、3年以上経ってから辞める人たちは、キャリアアップで転職するなどの前向きな理由で辞めていることが分かります。ですので、1年未満で辞めるごく早期の離職が一番の課題だと言えるでしょう。

図表5 離職理由と初職継続期間についての多重応答分析(初職正社員の男性)

図表5 グラフ画像

資料出所:JILPT資料シリーズNo.171『若年者のキャリアと企業による雇用管理の現状:「平成25年若年者雇用実態調査」より』(2016)

参照:配布資料12ページ(PDF:979KB)

再就職後は労働時間が大幅に改善

先ほど、離職の最大の要因は長時間労働問題だと指摘しましたが、再就職後の労働時間について見てみます。図表6は、「初めての正社員勤務先」を離職して再就職した人について、辞める直前と現在の週労働時間を比べたものです。男性の場合、週60時間以上の人が33.6%いましたが、現在は「40~45時間」が一番多く、再就職することで短い労働時間にシフトしていることが分かりました。

つまり、長時間労働を強いられるような過酷な職場を辞めた人たちが、もっと普通の労働時間の仕事を見つけて働いていると推測されます。離職・転職は、キャリア探索として、マイナスの面もあればプラスの面もあるということを強調したいと思います。

図表6 正社員で再就職者の「辞める直前」と「現在」の週労働時間

図表5 グラフ画像

参照:配布資料14ページ(PDF:979KB)

多様な生き方に触れるキャリア教育を

最後に、企業や学校関係者に対して以下の五つをインプリケーションとして提示させていただきます。前述のとおり、新人に必要なことは、まず「承認」されることです。二つ目は、長時間労働は会社を挙げて取り組むべき課題だということ。三つ目は、労働条件の理解に齟齬が起こらないために、正確な情報を発信すること。四つ目は、学校段階でワークルールの学習は必須であり、さらにそれを自分の問題として理解できるような工夫が期待されること。そして最後に、転職型のキャリアもあるという現実を伝えることです。つまり、エリート型だけでなく、社会には紆余曲折したキャリアを送っている人も多くいるわけですから、そうした多様な生き方や選択肢に触れるキャリア教育の実践を期待したいと思います。

プロフィール

小杉 礼子(こすぎ・れいこ)

JILPT特任フェロー

民間企業勤務を経て、雇用促進事業団職業研究所(現独立行政法人労働政策研究・研修機構)入所。「学校から職業への移行」、「若年者のキャリア形成・職業能力開発」などをテーマに社会学的視点からの実証研究に携わる。著書に『若者と初期キャリア―「非典型」からの出発のために』(勁草書房、2010、第33回労働関係図書優秀賞)他。

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