パネルディスカッション
介護離職ゼロをめざして─仕事と介護の両立─

パネリスト
源河 真規子、座間 美都子、高橋 真弓、太田 差惠子、池田 心豪
コーディネーター
佐藤 博樹
フォーラム名
第87回労働政策フォーラム「介護離職ゼロをめざして─仕事と介護の両立─」(2016年10月12日)

会社は社員の「自助努力」を支援する

佐藤 まず、企業として社員の仕事と介護の両立をどう支援するか、座間さんに伺いたいと思います。ご報告では、「会社がやることは、社員の自助努力を支援する。社員の自助努力が基本」というお話がありました。そのような考え方についてもう少しご説明いただけますか。

座間 介護の場合は、出産や育児と異なり、本人の申し出があって、初動が始まります。ただ日本人というのは自ら手を挙げる習慣があまりないのではないかという問題意識があったため、あえて「自助努力の支援」という文言を入れました。支援の内容については、先ほども申し上げたように、必要と思われる情報の提供と、相談窓口も設けています。窓口は社内だけでなく、社外の窓口も設置しており、利用できる様々な資源があることを社員に伝えていく啓発活動も行っています。

佐藤 「自助努力を支援する」と聞いて、やや冷たいと思われる人もいるかもしれません。しかし会社としてできることは限られており、難しい問題もあります。育児の場合は子どもの年齢を聞けばおおよその見当はつきますが、介護の場合、例えば親が「要介護2」と言われても、どのような状態に置かれているのかよく分かりません。ですので、介護という問題は、会社が社員に手取り足取り教えるのは難しいということが基本にあります。

家族の介護の役割はだんだん小さく

佐藤 太田さんの報告にもありましたが、介護の初期は緊急的な対応も発生しますので、自分が直接介護を担う役割は大きいのですが、次第にその役割を小さくしていき、サービスの利用を増やしてマネジメントしていくと言っておられます。その辺りのポイントをもう少し教えていただけますか。

太田 マネジメントをしていくためには、やはり自分から動かないといけません。親が倒れても会社としては何もできません。また倒れた時の状態も個別に違いますし、今の高齢世代にはサービスを使うことに抵抗を感じる人も多くいます。ある企業の人事担当者の話ですが、頻繁に遅刻や早退を繰り返す社員がいるので状況を聞いてみると、「親が倒れたけれど、サービスを使いたくないと言うので自分で介護をしている」と言われたそうです。会社として何か支援したいが何をしてよいか分からないと言っておられましたが、会社ができることには限度があります。やはり、親を説得し、少しでも気持ちよくサービスを使いながら自立した生活ができるようにしていくことが非常に大切だと思います。

佐藤 サービスを使いたくないという場合、認定を受けているけれど、ヘルパーのサービスを受けたくないというケースと、認定を受けたくないというケースもあるかと思います。そうした時は、認定を受ける前でも、地域包括支援センターで相談できるのでしょうか。

太田 もちろん地域包括支援センターで相談を受け付けてもらえます。先方はプロですから、そうした高齢者を数多く見てきて、対応した経験も沢山あると思います。また、代行申請という手続きの方法もあります。わざわざ会社を休んで行かなくても、「親の介護保険の申請をしたい」と電話をすれば、職員が親のところに――入院先でも自宅でも行ってくれます。会社を休まなければならないのは、次の段階である認定調査の時です。立ち会っていないと、本当はできないことを「それくらいできる」などと親が答えてしまい、結果が低く出る可能性があるからです。会社を休めなければ、調査の日程を変えてもらってでも立ち会う必要があります。

ハードルが高い社内への相談

佐藤 花王では外部にも相談窓口があるそうですが、人事部門の対応では難しいような相談も寄せられるのでしょうか。

座間 難しいというよりも、社員が会社に相談する場合は高いハードルがあると思います。例えば、自分はもっと仕事がしたいのに、介護を抱えていると第一線で働けないと会社に思われるのではないかと、心配したり、やはりプライベートなことを会社に言いたくないという社員もいると思われます。このため、外部に相談窓口を持つということは意味があると考えています。

また、そうした職場の悩み以外に、すでに社内の講習会などを通じて提供してきた基礎的なことを質問するケースもあるようなので、情報提供の難しさを感じています。

佐藤 外部に相談窓口を持てない企業も多いかと思いますが、社員から介護の相談が寄せられたら、地域包括支援センターに行って、必要な場合は認定手続きをするよう勧めるだけでも社員にとっては有益なことだと思います。

家族は情緒的・精神的な支援を

佐藤 次に、「介護の社会化」を考えるとき、家族は何をするべきなのでしょうか。施設に入っても家族がやることは沢山あると言われますが、家族の役割を明確にすることも大事なことだと思います。

池田 実は、育児・介護休業法の改正に向けた議論の中で、家族の役割という問題は大きな論点でした。介護保険制度の枠組みにも家族の介護役割は明確に定められていません。直接的な介護・介助に関しては、専門的なサービスを利用する方向にありますので、例えば、一緒に過ごす時間を持つという情緒的なサポートや、医療・介護の判断に関わるような部分のサポートが、家族に求められる役割なのではないでしょうか。

佐藤 要介護状態に置かれた時、親が自分で認定手続きを行うことは難しいので、家族がやらなければなりませんし、精神的な支援も必要になります。また、マネジメントをしていく上で、きちんとサービスが提供されているかをチェックすることも大切です。例えば、デイサービスの施設が急に変更になることで、入浴サービスがあると思って着替えを持たせたらお風呂に入れてもらえなかった、食事が付いていると思ったら昼食が提供されなかった、ということなどがあります。そうしたことに気づいたら、ケアマネージャーに相談し、希望するサービスが受けられる施設を探してもらいます。あまり親身に相談に乗ってもらえなかったら、ケアマネージャーを代えることも考えたほうがいいでしょう。こうしたことは家族にしかできない重要な役割なのです。

太田 ご指摘のとおり、情緒的な支援は家族にしかできないものだと思います。身体介護はプロに任せて、子供は顔を見せたり愚痴を聞いたりする。あるいは、ニュースでもあるように虐待という可能性も念頭に置き、どこか体が痛いと言われたら、きちんと服の下まで見て確認するとか、親が言えないことを子供が代わりに伝えるなど、そうした家族の支えも、「介護」だと考えています。

数値目標の進捗管理で有休取得率がアップ

佐藤 ホシザキ東北では体系的に働き方改革の取り組みを進めてこられました。なぜ会社は変わることができたのか、何がキッカケとなったのか、その辺りをお話しいただけますか。

高橋 弊社で「くるみんマーク」の取得を目標にしようと検討していた頃、ちょうど私が第一子を出産して育児休業を取ろうと思っていた時期でした。当時まで育児休業を取得する社員がおらず、ここで私も取らなかったら後に続く後輩たちも取れないだろうと思い、1年間の育児休業を取得しました。復帰後は、「くるみんマーク」取得の実現に向け、まずは有給休暇の取得率向上から取り組みを始めました。ただし販売会社ですから、休みを取ると売り上げが下がるのではないかという懸念も周囲にありましたが、トップが後押ししてくれたことが非常に大きかったと思います。トップが掛け声をかけたので、役員や幹部も腰を上げて、徐々にではありますが社内の状況が変わってまいりました。

佐藤 実際に有休取得率は年々上昇していますが、具体的にどのように達成してきたのでしょうか。

高橋 10年前は取得率が10%台でしたが、「くるみんマーク」を取得するために50%という目標を掲げました。販売会社ですので数字に非常に細かいということもあり、例えば50%が目標であれば、ひと月で何%進捗しなければ達成できないと逆算していきました。現在の目標は70%なので、1カ月当たり5.8%ずつ進捗しないと達成できないというように計算して取り組んでいます。つまり年度当初に、今月は○%、次月は○%というように目標値を全社員に周知して、さらに個別の進捗率も算出します。弊社は33カ所の営業所がありますので、そうした数字を見える化し、他の営業所と競わせるという取り組みを続けています。

介護と仕事の間を頻繁に行き来できる制度を

佐藤 今回の法改正は、かなり大きな変更を伴っています。つまり、介護休業は介護をするためのものではなく、仕事を続けられるようにするための手段だということです。そのためには、働き方の改革や柔軟な働き方が必要になってきますが、特に留意すべき点や強調したい点を池田さんからお話しいただけますか。

池田 介護と仕事を両立させるためには、なるべく通常どおり出勤することがポイントで、その観点から介護と仕事との間を頻繁に行き来できるような制度利用が望ましいですね。介護休業は分割で取得できるようにして、残業免除についても、キャリアの蓄積や収入面への影響を考えて残業できる日はするようにしつつ、必要な日には免除を受ける。そうして、仕事ができるときはなるべく仕事をしながらこまめに介護に対応していくという発想が必要だと思います。

前提として、介護は育児と違うという点を改めて強調したいと思います。育児では、残業があるからといって乳幼児に留守番をさせることはできませんし、熱が出たときに一人家で寝かせておくわけにもいかない。しかし介護の場合は、ケアが必要だといっても、ある程度は一人で自宅で過ごすことができる。また、要介護者と適度な距離をとることが長く介護を続けていく上で大切だということも言われます。ですので、同じ家族に対するケアでも、育児と介護では性質が異なります。

佐藤 そうですね。介護が必要となる期間中ずっと残業免除でよいという趣旨ではなく、必要に応じて利用するという点を皆さんにご留意いただければと思います。また介護休業については、大企業を中心に、例えば1年などに延長しているところも多いかと思いますが、従業員がその使い方を正しく理解しているかどうかが問題です。私は常々、社内では「介護休業」という名前を「介護休業・介護準備休業」というように変えたらどうかと考えており、かれこれ3年くらい同じ主張を続けていたところ、ある大手の電機メーカーが就業規則上の名称に採り入れてくれました。名称が違うだけでも、社員の受け止め方は違うと思います。

介護は男性や管理職も直面する課題

佐藤 厚生労働省には今回の改正に関していろいろ問い合わせがあるかと思いますので、さらに情報提供されたいことなどがありましたらお話しいただけますか。

源河 先ほども申し上げましたが、法律は最低限のところを担保するものであって、介護休業の分割取得の回数も、3回を上回って設定していただいても勿論構いません。それぞれの会社の事情に応じて工夫していただければと思います。一方で、いろいろな制度を設けたものの、労働者の方に全て使ってくださいという趣旨ではありません。所定外労働の免除も、佐藤先生が言われたように、本当に必要な時期だけ利用するなど、継続就業のために何が必要かをよく考えて使っていただければと思います。

また、先ほど来、育児との違いについて幾つかの観点が示されました。育児の担い手はどちらかと言うと女性に偏りがちですが、介護については男性も離職する人が多くいますし、管理職の人が直面する課題でもあるかと思いますので、これを契機にぜひ働き方を見直す取り組みを進めていただきたい、佐藤先生の著書の言葉をお借りすれば、「お互いさまと言われる職場環境をつくるキッカケ」にしていただきたいと思っております。

会社の経済的支援は必要か

佐藤 次に、会社の経済的支援について考えてみたいと思います。子育てについては、例えば、第三子が生まれたら一時金を出すとか、配偶者手当を廃止して子ども手当を創設するといった例もあり、子育てに対する会社の経済的支援は拡充の動きを見せています。では、介護への支援はどうでしょうか。例えば、遠距離介護には交通費がかかるとか、子どものオムツと違って大人用は高いなど、いろいろなことが言われています。会社は介護への経済的支援をした方がいいのでしょうか。その点について太田さんからご意見を伺いたいと思います。

太田 介護を経験していない方のなかには、もしかしたら自分が親の介護費用を負担するようになるのではないかと不安に感じている方もおられると思います。介護という行為は子供がすることも多いのですが、親の自立を応援するためにすることですから、原則としては親のお金を充てたらよいと考えています。そのためには、親の経済力を把握しておく必要があります。実際、遠距離介護をしている人で、交通費を親からもらっている人はかなり多いです。何も悪いことではなく、親からもらったお金で1回でも多く帰れるのであれば、いつか相続で受け取るよりもずっと生きたお金の使い方だと思っており、そのような使い方を提案しています。

座間 経済的支援については、実は社内で議論したことがあります。遠距離介護の場合は、時間だけでなく交通費の負担が重くなるだろうという話もありましたが、現在のところ経済的支援は行っておりません。会社は「自助努力を支援する」ということで、経済的支援ならば会社ではなく、共済会で対応したほうが適切だろうと考えています。

佐藤 実際問題として、経済的支援の制度設計はかなり難しいと思われます。育児であれば、子供が「○歳になるまで」と支給期間を予め決めることができますが、親の年齢で決めることは難しい。また例えば兄弟が3人いて、全員が会社から同じ親への介護支援金が支給されるというのも、考えるとおかしな話です。育児支援の場合は、親と子どもが1対1の関係です。社員が親で、社員が子育てをする。しかし介護は、親の子供が何人もいたりしますので、実は介護支援の制度をつくることは結構難しいのです。

したがって、親には年金もあるわけですから、原則は親のお金を使う。子ども(社員)は、精神的支援やマネジメントをするのが基本だろうと思います。そして、親のお金を使うにあたっては、どの程度のサービスを受けたいのか、親の希望と経済力を把握しておく必要があります。

遠距離介護と「呼び寄せ」の難しさ

佐藤 遠距離介護をして親を呼び寄せるケースは多くあります。その支援をしている会社も中にはあると聞いています。呼び寄せることに関して、太田さんから何かご意見などありますか。

太田 呼び寄せに関しては相当慎重にした方がよいというのが、今まで数多くのケースを見てきた私の意見です。親と子ども、配偶者や子の兄弟など皆がそれを望むのであればいいのですが、大抵の場合はそうはいかないのです。誰かが反対します。

また、親としては本当は住み慣れた家で暮らしたいけれど、子どもとも一緒の方が安心だということで呼び寄せられても、結局、日中は皆仕事で出払って独居になってしまう。以前なら近所で時々話す相手もいたけれど、こちらでは新しい仲間もつくれず、余計に孤独になってしまうなど、難しい面があります。ですので、呼び寄せても「帰りたい」と言って戻ってしまう親御さんは非常に多いです。

自分の家にいれば、家事援助サービスも含め様々なサービスを受けられたのに、呼び寄せられると利用できないということもありますし、特別養護老人ホームの入居に関しても、地元ではそれほど待たずに入れたのに、都心に呼び寄せられると一気に順番待ちの列が長くなるといったこともありますので、呼び寄せは慎重に検討した方が良いと思います。

佐藤 遠距離介護は、そこだけを取り上げると確かに大変な面があります。だから呼び寄せたほうがいいと思いがちになり、費用を援助する会社もあるのですが、ただ気を付けなければいけない点は、会社がそうした制度をつくると、社員としては呼び寄せた方が望ましいのではないかと思ってしまうことです。ある福祉の専門家の話では、呼び寄せたら認知症が進んでしまったという事例も聞きます。ですから、太田さんも言われたように、呼び寄せには慎重を期すべきだということを踏まえて、既に導入された会社では、使い方を丁寧に社員に伝えていくことが大切でしょう。

フロアとの質疑応答

「常時介護」の判断基準とは

質問1 「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」は、誰が判断するのでしょうか。人によっては判断基準が変わってくるのではないでしょうか。また社員が自己申告した場合、それをそのまま受け取ってよいのでしょうか。客観的に判断するような第三者に証明してもらう手段や方針はありますか。

源河 判断基準については、基本的に労働者が自分で判断できるようにという観点から設けています。また、介護休業あるいは介護休暇の申し出については、施行規則第23条や第41条に申し出の方法というのがありまして、申し出の際に要介護状態にある事実等を申し出ていただくことになっております。それで、事業主は、その事実を証明することができる書類の提出を求めることができるという条文の構成にしています。あくまでも「求めることができる」ということなので、強制ではなく、基本的に労働者から申し出があったら取得できることになっています。

質問2 テレワークも介護との両立に当たって有効な働き方ではないでしょうか。

源河 選択的措置義務にテレワークは入っていませんが、実際に選択的措置義務のメニューに加えて介護理由のテレワークを認めている企業もあると承知しています。

海外赴任社員への支援、相談窓口の利用

質問3 花王では海外赴任の社員に介護の対応が必要になった場合、何らかの支援をしているのでしょうか。また、弊社は国内に幾つもの営業所・工場等がありますが、メールや電話では相談しづらいので、対面の相談窓口が欲しいというような意見もあります。花王ではどのような相談窓口があるのでしょうか。地域包括支援センターに行ってもなかなか難しい面もあると感じています。

座間 弊社では社内外に相談窓口を設けており、社外には二つの窓口があります。一つは、有料になりますが、介護の手続きを代行するようなサービスを提供しており、遠距離介護や海外赴任の場合にも使われます。こちらは共済会が契約しています。もう一つは、共済会に福利厚生のパックになっているようなサービスがあり、そのなかの介護相談の窓口です。実際に窓口の現場を見て、きちんと対応していると確認しておりますので、そちらの窓口の利用も社員に勧めています。

対面での相談については、介護休暇を取っている社員にアンケートをとってみたところ、予想以上に、地域包括支援センターや病院での相談窓口の対応で満足している社員が非常に多かったです。個別に見ればそうでないケースもありますが、やはり国内に3万弱の社員がいる中で、社員専用の対面窓口を設けるとなるとハードルが高く、残念ながらそこまでの対応は現在考えていないというところです。

佐藤 地域包括支援センターについては、基本的には要介護者が住んでいるところのセンターに相談することになります。このため、親が遠方にいる場合は、有休を取って親の住んでいる地域包括支援センターに手続きに行ったりしなければならない。自分の住んでいるセンターではないという点を念のためご留意いただきたいと思います。

管理職への啓蒙とセミナーの変遷

質問4 管理職の理解がカギになると思いますが、効果的な啓蒙方法などがありましたら教えてください。

座間 非常に悩ましい問題ですが、二つ申し上げたいと思います。一つは、人事を統括する者の発言が非常に大きかったということが言えるかと思います。社会は変わり社員も変わっているので、ぜひ気持ちを切り替えて対応して欲しいというメッセージは、職場のキーマンを大きく動かしたと思います。ただ現場では、休業中の人の手当はどうするのか、というような声も上がりました。いろいろな意見や不満もありましたが、働き方の工夫や改革に向けてたゆまず努力していき、どうしてもやむを得ない場合には、人の補充も検討しましょうというような形で理解を得ながら進めているところです。

もう一つは、今回の改正にもありますように、妊娠・育児、介護の制度利用に関して、就労の妨げとなるような場合がハラスメントの対象になり、その防止が企業に義務化されましたので、まだ具体的な形はありませんが、コンプライアンスの一環として取り組んでいきたいと考えています。

質問5 花王では、これまでセミナーを30回近く開催されてきたそうですが、テーマの変遷などについて教えてください。

座間 何年かすると対象者も変わるので、同じテーマを何回か繰り返すということもあります。まさに先生方が言われたように、介護休業は介護の準備をする期間で、全部自分でやらなくてもよいとか、いざという時にはどこに行けばよいのかといった基礎的な内容が多くなっています。また、希望に合わせて行うものもあり、例えば、一番要望が多いテーマが認知症です。あるいは、遠距離介護という問題や、医療と介護というテーマを取り上げたこともあります。

有休取得率向上の効果的な対策とは

質問6 ホシザキ東北では、特に有休取得率の向上に目覚ましい改善が見られます。有休を取ると残業が増えてしまうのではないかという懸念がありますが、その辺りはいかがでしょうか。また、有休取得の数値目標を各社に徹底して周知していく方法以外に、効果的な取り組みがあればお聞かせいただきたいと思います。

高橋 取り組みを始めた当初は、社員の抵抗もあり、休んだかわりに残業が増えるという営業所や部署がありました。しかし年々、取り組みが定着し、残業時間も数値化して管理した結果、現在残業は減っています。以前は、営業所でだらだらと残っていたり、上司が帰れないから帰りづらいといったケースが見られたため、会社では、夜7時以降は上司から社員に電話を入れない、8時にはパソコンがシャットダウンするといった措置を講じ、そうした対策を取り入れてきた結果、残業時間は減ってきています。

また、数値目標以外の有休取得の対策として、「バースデー休暇・メモリアル休暇」を利用した取り組みがあります。毎月、その月の誕生日の社員の名前を一覧にして、お祝いのメッセージを社長などから書いてもらい、それを全社員にメールで配信するというものです。かれこれ7、8年前から続けており、当初は社長や役員、幹部メンバーからメッセージを書いてもらっていましたが、この3年くらいは、有休取得率の低い営業所の所長からもらうことにしました。そしてメッセージには、自分の休日の過ごし方なども書いてもらうようにしています。つまり、取得率が低い営業所では所長も有休を取っていない場合が多いので、そうしたメッセージを全社員に送るということは、一種の踏み絵にもなります。こうした試みを続けることで、所長や現場の労務管理者の意識改革に取り組んでいます。

奨励金と育休レポートで男性の育休取得者増へ

質問7 ホシザキ東北では、男性の育児休業取得率が相当上昇していますが、どのような工夫をされたのでしょうか。

高橋 弊社では、2010年から男性の育児休業取得が出てきました。当初は、営業の目標数値に支障が出るなどという話がありましたが、よく確認すると、家計の収入に響くという経済的な問題が大きいことが判りましたので、育児休業を取得した社員には奨励金を出す制度を設け、2週間の育児休業中は無給ですが、取得後に10万円の一時金を支給することを始めました。その際、育児休業中の写真とレポートの提出を要件とし、レポートには上司の応援メッセージをつけて社内に周知することにしました。現在、取得者全員がレポートを提出しています。そうした会社の姿勢が社員に伝わると、育児休業を取ってもいいんだという意識が次第に浸透し、子どもが生まれる社員に対して、周囲から育児休業の取得を勧める声がけも増えていきました。

なかには、「責任上休めない」と固辞していた管理職に、社長から「今回は業務命令だと思って休みなさい」と言われ、育児休業を取得した人もいましたが、その後、同じ営業所から10人もの男性の育児休業取得者が出てきましたので、やはり上司や管理職の影響というのは非常に大きいと改めて感じました。

今では、男性が育児休業を取ることはごく自然で当たり前な風土になっています。育児休業取得者は20~30代に多く、そうした人たちの上司や管理職が介護で休業するとなった時は、「お互いさま」の意識も醸成されてきたのではないかと感じています。

仕事とキャリアを継続できる職場づくりに向けて

太田 特に遠距離介護の場合は、なかなか会社を休めず、地域包括支援センターに行けないという人もいらっしゃると思います。介護が始まると何かと忙しくなりますので、介護が始まる前にぜひ一度、行ってみることをお勧めします。まだ元気だと思っていても、実際は具合があまり良くなくて、地域包括支援センターに電話してみたら親の様子を見にいってくれて対応してもらえたという事例もありました。そして最近、「地域包括支援センター土日開所へ」というニュースも見ましたので、週末もオープンしていく方向で進んでいるようです。そうしたことも念頭に入れ、ぜひ活用していただきたいと思います。

池田 今回の大幅な法改正の基本にあるものは、離職防止という考え方です。介護に時間を割いたほうが幸せだという従業員もいると思いますが、より良い介護をするためというより、本人の仕事とキャリアの継続、企業にとっては人材の流出防止のために、法律として必要なメニューを揃えたというのが狙いです。先ほどテレワークというお話がありましたが、今回の改正法で両立支援のメニューが全て出揃ったわけではないと思っていますので、労使でコミュニケーションを重ねていくなかで新しいニーズの掘り起こしをしていただきたいと思います。調査を通じていろいろな方からお話を伺いましたが、仕事と介護を両立させるためには、仕事も生活もなるべく今までどおりを維持しながら、離職の危機をどう乗り切っていくかという考えが必要だと思います。

佐藤 今回の法改正を契機に社内の制度や社員への情報提供のあり方を見直すと同時に、働き方の改革を進め、社員に介護の課題があっても、仕事やキャリアを継続できる、そうした職場をつくっていただきたいと願っております。