事例報告② 社会と社員から選ばれる会社になる為に

講演者
高橋 真弓
ホシザキ東北株式会社管理部総務課係長
フォーラム名
第87回労働政策フォーラム「介護離職ゼロをめざして─仕事と介護の両立─」(2016年10月12日)

ホシザキ東北株式会社は、宮城県仙台市に本社があり、従業員数500人弱の会社です。事業内容は、業務用厨房機器、飲食店にある冷蔵庫や製氷機、ティーサーバーなどの販売とアフターメンテナンスをしています。

東北6県内に33カ所の営業所があり、そこで働く従業員の約8割弱が男性です。仕事内容が営業またはメンテナンスですので、お客様の現場に出向いて仕事をするということで、なかなか労務管理や働き方に課題がある会社でした。

長時間労働の改善とWLB実現の取り組み

数年前から、ワーク・ライフ・バランス実現の取り組みを進めています。長時間労働を改善して従業員の健康を守り、私生活を充実させて、生き生きと働ける会社をつくることが目標です。

外回りの営業、サービスマンが多いなか、弊社の2015年の有休取得率の実績は75.5%で、この3年間ほどは70%を超えています。また育児休業については、女性は100%の取得で、男性でも2015年度では40%が取得しています。

また、早帰りの促進のため、週に1回の定時退社を奨めています。毎週水曜日が定時退社日で、本日も会社の携帯に「水曜日なので早く帰りましょう」というメッセージが送られてきました。2016年9月の実績では、全社員の99.3%が毎週1回、定時退社しているという実績を誇っています。こうした職場環境・労務環境改善の取り組みを進めてきたことで、2015年厚生労働省より、最上級の子育て支援企業として「プラチナくるみん」の認定を全国で初めて受けました。また、今年は女性活躍推進ということで、「えるぼし」の認定を宮城県の企業で初めていただきました。

しかし、10年以上前のホシザキ東北は、今とは別の会社のような、職場環境がとても良いとは言えない状況でした。2004年のデータを見ると、有休取得率は10%台。当時は400人ほどの会社でしたが、2004年の1年間の退職者は80人弱で、5人に1人が退職しており、帰りも遅く休みも取れない、いわゆる「ブラック企業」と言われてもおかしくない会社でした。

「くるみんマーク」取得に向けて

このような状況でしたが、2007年ごろから、「くるみんマーク」の取得を目標に取り組みを始め、障がい者雇用や、2014年からは仕事と介護の両立に向けた取り組みを進め、徐々にではありますけれども、会社の職場環境が変わってきているところです。

有休取得率は年々上がっており、男性も2週間以上の育児休業を取得しています。また、残業削減の取り組みもしていますので、1人当たりの働く時間はかなり減ってきています。

そうした中でも、売り上げは毎年右肩上がりに上昇しており、退職者数も現在では、定年退職や家庭の事情による退職で、年間10人弱ぐらいになり、昔と比べると随分変わりました。

最も嬉しいことは、ホシザキグループ全体で実施する社員満足度調査(ES調査)で、昔は日本全国18ある販売会社、グループ会社の中でも最下位に近い会社でしたが、ここ数年は上位の結果も出しています。働き方の改革に取り組んできたことで、社員の満足度も上がり、しっかり休んでも売り上げも上がるというWin-Winの関係を実証できたと思っています。

厚労省の介護離職予防のモデル事業へ参加

2014年に厚生労働省の「介護離職を予防する為の職場環境モデル」事業に参加しました。自社ではなかなか介護の実態がつかめないという課題を皆さんもお持ちだと思いますが、この支援事業を利用すると、お金をかけずに自社の実態調査ができるメリットがあります。

まずは社内の実態調査を行いました。「あなたは介護をした経験かありますか」という質問に対して、13.7%が介護をした経験があり、そのうちの約半数(45.5%)が今も介護を続けていることがわかりました。また、介護にかかわっていることを会社に伝えていない社員が半数いるという実態もわかりました。

このほかに、アンケートの中では、「自社に介護休業制度がありますか」という質問に、半分が「ない」または「わからない」と答えており、会社の介護休業制度の存在が従業員に伝わっていないということを知り、改めて人事担当者として反省させられる結果となりました。

研修後に介護に関する相談が増加

アンケートの結果を踏まえて、その後、仕事と介護の両立セミナーを社内で実施しました。毎年1回、全社員が受けるコンプライアンス研修の一環として、1時間程度の介護と仕事の両立セミナーを開催しました。介護休業は、自らが介護に専念する休業ではないと、きちんと社員に伝えることや、自社の介護休業制度の中身を社員全員に伝えることを意識して研修を行いました。また、月に1回発行する社内報でも、介護休業の情報や、介護保険に関する情報を提供しています。

私は社会保険労務士でもありますので、相談窓口を担当しています。この研修を行った後に、介護に関する相談が非常に多くなりました。以前は「こんな質問をしたらNGなのでは」と不安に思って言い出せなかった社員が、会社の方針が社員に伝わり、安心して相談に来るようになったのです。

法改正に先駆けて介護休業規程の改定へ

介護休業規程の改定については、グループ会社であるために、ホシザキ東北単体では規程を変えることができないという課題がありました。そこで、グループ会社などに働きかけ、2015年5月からは法改正に先駆けて、通算で93日の介護休業を分割取得できるようになりました。

研修を受けた後に「両立できる」が上昇

社内の研修は、厚生労働省のホームページにあるセミナーのデータを自社で少しアレンジして、1時間ほどの研修を行っています。また、介護に直面する前に備えておくべきことや自社の介護休業制度の内容をまとめた4ページのリーフレットも作成しました。これも厚生労働省のホームページにひな形があり、お金をかけなくても利用できるものがこの他にも沢山あります。

また、研修の前と後にアンケートを実施しました。その結果、「介護と仕事を続けられると思うか」という質問に、研修を受ける前は「わからない」が過半数(61.1%)、「続けられると思う」が僅か16.7%だったのに対し、研修を受けた後では「続けられると思う」が4割に上がっていました。

このほか、リーフレットをしっかり読んだ人は、「仕事と介護を両立することができる」という感想を持つ割合が高いこともわかりました。こうしたことから、介護と仕事の両立に関する情報の提供が非常に大事だということを強く感じました。

アンケートによると、仕事と介護の両立を「続けられると思う」と回答した人は、有休取得が希望どおり取得できた、または大体希望どおり取得した割合が高くなっています。また、残業との関連を見ると、「続けられない」と回答した人では、恒常的に残業がある、または週の半分以上は残業があるという割合が高く出ています。したがって、仕事と介護の両立のためには、働き方の改革が必要だと改めて認識することができました。

多様性の実現が経営戦略の重要な柱に

今後の目標と課題については、介護に関する問い合わせは多種多様なので、担当者が知識を身に付けることが非常に大事だと思っています。介護休業や介護保険の知識の習得についても継続して力をつけていきたいと思っています。

それから、介護休業から復帰した社員のケアという問題もあります。休業期間が終わっても介護は続くケースが多いと思いますので、復帰が介護の終了ではないことをきちんと理解して、社員とコミュニケーションをとることが大切だということも学びました。

仕事と生活の良いバランスが、会社と社員のこれからを輝かせると考えています。ワーク・ライフ・バランスや多様性の実現が会社にとっての経営戦略の重要な柱になると信じ、今後も介護と仕事の両立に向けてチャレンジしていきたいと思っています。

プロフィール

高橋 真弓(たかはし・まゆみ)

ホシザキ東北株式会社管理部総務課係長

1998年4月ホシザキ東北株式会社に入社。3度の育児休業を取得し、現在3人の子どもを育てながら短時間勤務で総務課の責任者を務める。3度目の育児休業中に社会保険労務士の資格を取り、現在勤務社会保険労務士として業務に従事している。同社は、2015年4月には全国で初めて、子育て最上級企業として厚生労働省より「プラチナくるみん」の認定を受けた企業であり、2年程前から介護と仕事の両立にも取り組み始めている。

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