報告 育児・介護休業法の改正について

講演者
源河 真規子
厚生労働省雇用均等・児童家庭局職業家庭両立課長
フォーラム名
第87回労働政策フォーラム「介護離職ゼロをめざして─仕事と介護の両立─」(2016年10月12日)

先の通常国会で成立した改正育児・介護休業法のうち、介護関係についてご説明します。2017年1月1日の施行まで3カ月を切っていますので、企業では、就業規則の改定や労使協定の締結等の準備をしていただいているかと思います。

年10万人の介護離職者の2割が男性

まず、介護を理由とする離転職者の人数の推移を見ると、年間10万人ぐらいが介護を理由に離職しており、男性が約2割となっています。

介護をしている雇用者に占める介護休業取得者の割合は3.2%。年代で見ると、40代半ばから50代半ばが多いことがわかります(40代後半4.5%、50代前半3.9%、50代後半3.1%)。

要介護者と介護者の続柄を見ると、自分の両親を介護している方が非常に多い(63.8%)のですが、現在の育児・介護休業法上の対象家族にはなっていない、同居や扶養要件を満たしていない自分の祖父母や兄弟姉妹等を介護されている方も一定の割合(16.9%)いることがわかります。

この改正育児・介護休業法に基づく、省令・指針や施行に当たっての通達を2016年の8月2日付で公布しています。厚生労働省のホームページに掲載していますので、ご覧いただければと思います。

介護休業の分割取得が可能に

改正法の概要についてご説明します。改正の一つ目は、介護休業の分割取得です。現行の介護休業は原則1回・93日まで、要介護状態から介護の終了まで、端的に言えば、対象家族の死亡までの期間の間に1回だけ93日取得できることになっています。この介護休業制度については、急性期だけではなく、例えば看取りの時期や介護施設間の移動、あるいは病院への入退院など、介護休業をとらなければいけないニーズがいろいろあるのではないかという指摘が前々からありました。

このため、現在の取得回数の実績も踏まえ、介護休業を分割して3回まで取得できるように改正を行いました。介護休業の期間については変えておらず、93日では短いという指摘が今でもありますが、自分で介護するための休業ではなく、体制構築のための休業、あるいは両立の準備のための休業と考えていただきたいと思います。現行の介護休業は、介護休業と選択的措置義務を合わせて93日という構成になっています。

93日までの間に3回まで取得するというのは、法律上の最低限の義務になりますので、法を上回る措置、例えば介護休業の通算期間を100日にするとか、分割回数を4回にする、あるいは無制限にするなど、労働者が介護しながら継続就業できるように、企業のなかでいろいろ工夫していただきたいと思います。

改正後の介護休業の日数は?

介護休業の経過措置についての問い合わせが大変多いのですが、今改正では、特に経過措置規定は設けていません。改正後に介護休業を取得できるかどうかは、取得した日数と回数の二つの要件で判断します。

パターンを四つ挙げて見てみましょう。パターン1は、施行日の2017年1月1日以前に介護休業を取得し、それが例えば20日だった場合です。既に20日取得しているので、施行日以降は、93日から20日を差し引いて、残りの73日を2回まで分割して取得することができます。パターン2は、施行日よりも前に介護休業を93日取得してしまった場合です。全ての日数を取得しているので、法律上の最低限の日数(93日)で制度を設けている企業では、追加の介護休業を取得することはできません。パターン3は、施行日をまたいでいる場合です。これもパターン1と同じような内容で、施行日までの取得日数が例えば20日であれば、施行日以降は、残りの73日を2回まで分割して取得することができます。パターン4は、施行日より前に介護休業を2回取得した場合です。この場合は、施行日以降、残りの1回を残りの日数まで取得することができます。ただし、これらはあくまでも法律上の最低限の義務であり、企業によっては4回以上や、日数を長くするなど、法を上回る制度を設けているところもあると思いますので、その点をご留意いただきたいと思います。

給付率の引き上げや休暇取得単位の柔軟化を

改正内容の2点目は、介護休業給付の給付率を現行の賃金の40%から67%に引き上げるものです。これは育児・介護休業法ではなく、雇用保険法の改正によるもので、既に8月1日から施行されています。

三つ目は、介護休暇の取得単位の柔軟化です。現行法上、介護休暇は1日単位の取得としておりますが、それを半日単位の取得も可能にする改正です。介護保険の手続きや、ケアマネージャーとの打ち合わせに1日も必要ない、半日あれば足りるという声がありました。そこで、より柔軟な休暇の取得という観点から、半日単位で取得できるように改正しました。

半日単位とは、1日の所定労働時間の2分の1という意味です。1日の所定労働時間が8時間の場合は、4時間と4時間に分けられます。他方、それが7時間45分の事業所では、午前9時から12時まで、午後13時から17時45分までというように午前と午後に分け、純粋に2分の1になっていない場合もあると思います。こうした場合は、労使協定を締結することで、午前の3時間、午後の4時間45分をそれぞれ半日の単位として認めて休暇を取得することができます。

労使協定では、①対象となる労働者の範囲、②取得の単位となる時間数、③休暇1日あたりの時間数――の三つの事項を定める必要があります。仮に、午前の3時間を2回取得しても7時間45分にはなりませんが、1日分としてカウントすることになるので注意が必要です。

半日の取得が困難な業務についても労使協定を結んでいただきます。半日単位の取得が困難な業務については、具体的に、①仕事の途中から取得することが困難な国際線のパイロットやフライトアテンダントのような業務、②長時間の移動を要する遠隔地で行う業務、③流れ作業方式や交替制勤務による業務であって、半日で抜けてしまうと要員管理が困難になるような業務――の三つの業務を例示しています。

これらはあくまでも例示であり、これに限定されるわけでも、該当すれば必ず半日休暇が取得できないというわけではありません。各企業でよく話し合い、労使協定を締結していただければと思います。

事業所においては、既に半日単位や時間単位での介護休暇の取得を認めているところもあると思います。時間単位は半日単位より柔軟な取得方法で、法を上回る措置として可能であり、この場合は省令に基づく労使協定も不要です。

改正法の施行期日が1月1日ですので、4月1日から介護休暇を与えている企業の場合は、1月1日の時点では、例えば4月1日に5日与えた休暇を労働者が既に3日消化していれば、残りの2日分について半日単位での取得ができるようにしていただきたいと思います。

残業免除の新設と選択的措置義務の期間拡大

四つ目の改正が、所定労働時間の短縮のための選択的措置義務の部分です。選択的措置義務として認められているのは、現行法でも変わりなく、①短時間勤務、②フレックスタイム制度、③始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ、④介護サービス費用の助成制度――の四つ。今回の改正は、この選択的義務措置を、日常的な介護のニーズに対応するものとして位置づけました。今まで、この選択的措置義務は、介護休業と合わせて93日としていたのを、介護休業とは別に開始から3年間で少なくとも2回以上の利用が可能なものとして設定しました。その意味で介護と両立しながら働き続けるための大きな制度改正となっています。

五つ目の改正は、所定外労働の免除です。要介護状態から介護終了まで、つまり対象家族の死亡までの期間、所定外労働の免除を請求することができる制度となっています(図表1)。

図表1 仕事と介護の両立支援制度の見直し

改正の趣旨

  • 介護が必要な家族を抱える労働者が介護サービス等を十分に活用できるようにするため、介護休業や柔軟な働き方の制度を様々に組み合わせて対応できるような制度の構築が必要。

改正内容【介護離職を防止し、仕事と介護の両立を可能とするための制度の整備】

  改正内容 現行 改正後
1 介護休業(93日:介護の体制構築のための休業)の分割取得 原則1回に限り、93日まで取得可能 取得回数の実績を踏まえ、介護の始期、終期、その間の期間にそれぞれ対応するという観点から、対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として、介護休業の分割取得を可能とする。
2 介護休業給付の給付率の引上げ 賃金の40% 67%に引上げを行う。
3 介護休暇(年5日)の取得単位の柔軟化 1日単位での取得 半日(所定労働時間の二分の一)単位の取得を可能とする。
<日常的な介護ニーズに対応>
子の看護休暇と同様の制度
4 介護のための所定労働時間の短縮措置等(選択的措置義務) 介護休業と通算して93日の範囲内で取得可能 介護休業とは別に、利用開始から3年の間で2回以上の利用を可能とする。
<日常的な介護ニーズに対応>
事業主は以下のうちいずれかの措置を選択して講じなければならない。(措置内容は現行と同じ)①所定労働時間の短縮措置(短時間勤務)②フレックスタイム制度③始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ④労働者が利用する介護サービス費用の助成その他これに準じる制度
5 介護のための所定外労働の免除(新設) なし 介護終了までの期間について請求することのできる権利として新設する。
<日常的な介護ニーズに対応>
  • 当該事業主に引き続き雇用された期間が1年未満の労働者等は、労使協定により除外できる。
  • 1回の請求につき1月以上1年以内の期間で請求でき、事業の正常な運営を妨げる場合には事業主は請求を拒否できる。

介護休業等の対象家族の範囲の拡大【省令事項】
同居・扶養していない祖父母、兄弟姉妹及び孫も追加。
(現行:配偶者、父母、子、配偶者の父母、同居かつ扶養している祖父母、兄弟姉妹及び孫)

参照:配布資料4ページ(PDF:1.3MB)

対象家族の範囲を拡大

それから、今回の改正で、介護休業の対象家族の範囲を拡大しています。これは法律改正ではなく、省令事項です。今まで介護休業の対象となる家族については、配偶者、父母及び子並びに配偶者の父母であれば無条件、祖父母、兄弟姉妹、孫については同居かつ扶養していることを条件としていました。

JILPTの「介護者の就業と離職に関する調査」結果のデータからもわかるように、扶養かつ同居していなくても家族を介護している人は増えており、3世代同居も減っていますので、今後は、祖父母、兄弟姉妹及び孫についても、同居、扶養という要件を撤廃することとしました。ただし、配偶者の祖父母、兄弟姉妹、孫は含まれていません。あくまでも労働者自身の祖父母、兄弟姉妹、孫を想定しています。

要介護基準の見直しも

今回、通達で「常時介護を必要とする状態」に関する判断基準である要介護基準も見直しています。介護休業の対象となる「常時介護を必要とする状態」について、不明確であり、時代を経てニーズが変わっているのではないか、という意見があり、基準を見直しました。「常時介護を必要とする状態」については、「介護保険制度の要介護状態区分において要介護2以上である」こと、もしくは、「座位保持」や「歩行」「排泄」「衣類の着脱」など12項目のうち、2が二つ以上あるか、3が一つ以上ある状態で、その状態が継続すると認められることを判断基準としました(図表2)。これは今までの要介護基準に比べて、労使ともに自分で該当するかどうかを判断できるわかりやすい基準になったと思っています。

最後に、厚生労働省は介護離職を予防するための両立支援に向け、人事担当者向けや従業員向けに、いろいろな役立つツールを作成しています。いずれも厚生労働省のホームページでダウンロードできますので、ぜひご活用いただければと思います。

図表2 常時介護を必要とする状態に関する判断基準

※介護休業は2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態にある対象家族を介護するための休業で、常時介護を必要とする状態については、以下の表を参照しつつ、判断することとなる。

「常時介護を必要とする状態」とは、以下の(1)または(2)のいずれかに該当する場合であること。
(1)介護保険制度の要介護状態区分において要介護2以上であること。
(2)状態①~⑫のうち、2が2つ以上または3が1つ以上該当し、かつ、その状態が継続すると認められること。

項目 状態1
(注1)
状態2
(注2)
状態3
①座位保持(10分間一人で座っていることができる) 自分で可 支えてもらえればできる(注3) できない
②歩行(立ち止まらず、座り込まずに5m程度歩くことができる) つかまらないでできる 何かにつかまればできる できない
③移乗(ベッドと車いす、車いすと便座の間を移るなどの乗り移りの動作) 自分で可 一部介助、見守り等が必要 全面的介助が必要
④水分・食事摂取(注4) 自分で可 一部介助、見守り等が必要 全面的介助が必要
⑤排泄 自分で可 一部介助、見守り等が必要 全面的介助が必要
⑥衣類の着脱 自分で可 一部介助、見守り等が必要 全面的介助が必要
⑦意思の伝達 できる ときどきできない できない
⑧外出すると戻れない ない ときどきある ほとんど毎回ある
⑨物を壊したり衣類を破くことがある ない ときどきある ほとんど毎日ある(注5)
⑩周囲の者が何らかの対応をとらなければならないほどの物忘れがある ない ときどきある ほとんど毎日ある
⑪薬の内服 自分で可 一部介助、見守り等が必要 全面的介助が必要
⑫日常の意思決定(注6) できる 本人に関する重要な意思決定はできない(注7) ほとんどできない

(注1)各項目の1の状態中、「自分で可」には、福祉用具を使ったり、自分の手で支えて自分でできる場合も含む。

(注2)各項目の2の状態中、「見守り等」とは、常時の付き添いの必要がある「見守り」や、認知症高齢者等の場合に必要な行為の「確認」、「指示」、「声かけ」等のことである。

(注3)「①座位保持」の「支えてもらえればできる」には背もたれがあれば一人で座っていることができる場合も含む。

(注4)「④水分・食事摂取」の「見守り等」には動作を見守ることや、摂取する量の過小・過多の判断を支援する声かけを含む。

(注5)⑨3の状態(「物を壊したり衣類を破くことがほとんど毎日ある」)には「自分や他人を傷つけることがときどきある」状態を含む。

(注6)「⑫日常の意思決定」とは毎日の暮らしにおける活動に関して意思決定ができる能力をいう。

(注7)慣れ親しんだ日常生活に関する事項(見たいテレビ番組やその日の献立等)に関する意思決定はできるが、本人に関する重要な決定への合意等(ケアプランの作成への参加、治療方針への合意等)には、指示や支援を必要とすることをいう。

参照:配布資料9ページ(PDF:1.3MB)

プロフィール

源河 真規子(げんか・まきこ)

厚生労働省雇用均等・児童家庭局職業家庭両立課長

京都府出身。平成5年労働省(現厚生労働省)入省。EU代表部一等書記官、大臣官房国際課課長補佐、雇用均等・児童家庭局総務課調査官等を歴任。これまで、男女雇用機会均等法の改正や女性活躍新法の制定に携わる。平成28年6月より現職。

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