各国報告3 スウェーデンにおける職場のいじめ・嫌がらせ
—いじめに立ち向かう結束 
第65回労働政策フォーラム

欧州諸国における職場のいじめ・嫌がらせの現状と取り組み
(2013年2月28日)

マルガレータ・ストランドマーク  カールスタッド大学教授

写真:マルガレータ・ストランドマーク氏

スウェーデンにおける職場のいじめの状況

スウェーデンは福祉国家であり、非常に近代的な住居と医療制度があります。男女が平等な社会で、より健全なライフスタイルを推進する傾向があります。

しかし、その一方で、福祉国家であるがゆえの別の側面も存在しています。近年は精神疾患が増加しています。また、病気休暇の国の費用負担をみると、精神疾患の費用がもっとも高い状況です。スウェーデンは非常に住みやすい国ですが、それでもやはり職場のいじめは存在しています。研究結果によると、いじめの発生率は、過去20年間では3.5%から11%の間となっています。

病院と自治体の労働者に対して行ったヒアリングから、次の事実が明らかになりました。過去6カ月にいじめを1週間に1回受けている人の割合は18.5%となっています。1週間に2回は6.8%です。4%はセルフラベリング(自己判断)により、いじめを受けたと報告しています。22%はいじめを目撃したと報告しています。また、38%の人がこれまでに、たとえば若いときに職場のいじめを受けたことがあると回答しています。全体の8.5%は職務関連のいじめを受けたことがあり、2.3%は深刻ないじめにさらされたことがあると答えています。

また、スウェーデン雇用環境局の統計では、医療・福祉の従事者、ホテル・レストランの従業員、清掃関係者などがいじめ、嫌がらせを受けるリスクが高いという結果が出ています。

図表1 職場のいじめの健康上の影響

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(Hallberg & Strandmark 2006)

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職場のいじめの健康への影響

職場のいじめは健康に非常に深刻な影響を及ぼします。図表1は職場のいじめが健康に及ぼす影響を示しています。上部は健康が悪化する過程、下部は健康が回復する過程です。中央の部分は、心の傷跡、トラウマを表しています。

職場のいじめを受けた被害者の中には、非常に深刻な心理的な傷を負い、それが一生残る非常に大きな出来事であったと回答する人もいます。

回復の過程では、いじめを受けたことに対する精神的適応、苦情の申し立て、最終的には救済の獲得という形になります。しかし、いじめを受ける期間が長くなればなるほど、状況を変える可能性が限定的となります。それが、図表の中の「限られた選択肢」です。たとえば、職場を変えることが困難になっていきます。もちろん普通の生活に戻ることは可能です。しかし、その前提として、ずっといじめに耐えながら、その中で適応していかなければならず、このプロセスは往々にして非常に苦痛を伴います。

最終的に被害者は、何らかの救済、例えば金銭的な賠償や職務の確認を求めます。しかし、それが叶ったとしても、心の傷が完全に癒えることはありません。一生の心の傷跡、トラウマとして残ります。

職場のいじめへの対応

スウェーデンでは、いじめの問題が単純化され、メディアで表面的に扱われることがあります。それでもメディアはいじめの問題を時々取り上げています。しかし、責任者は、いじめの問題に対して見て見ぬふりをし、隠ぺいしようとする傾向があります。その背景には恥ずかしいと思う気持ちや職場で悪評が立つことへの恐れがあるのかもしれません。

予防的な取り組みに関しては、いじめに特化したものは存在しません。さまざまな就労環境に関する教育やポリシーが実施されていますが、こうした計画やポリシーは存在しているだけで、実際に企業の最前線で適用・実用化されていないのが現状です。企業のトップは、こうした危機が現実のものにならないと、深刻に取り扱わない傾向があります。

いじめの過程

図表2 いじめの過程

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(Strandmark & Hallberg 2007)

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いじめの過程は、中傷、欺瞞、侮辱、不公平または特別扱いにより、進行します(図表2)。その目的は、最終的には職場からいじめを受けた人を排除することにあります。このようなことは他の形で持続的に発生し、いじめを受けた人が排除された後には、また他の人がこの問題に巻き込まれます。ただ、いじめを受けた人は裏切りや嫌がらせを受け続けるだけでなく、時には周りの人のサポートにより、一時的に心理的緊張が和らぐこともあります。しかし、このサポートでは、継続するいじめの過程を防ぐことはできません。

国の対策

国レベルの法規制について、私は現状では不十分だと感じています。規制は3つ存在しています。1つ目がスウェーデン雇用環境法です。この法律は物理的な点を強調していますが、心理的な要因も取り上げています。2つ目が雇用環境規則(AFS1993:17)です。スウェーデンは、この規則により、おそらく西欧諸国で最初に法的規制を導入し、職場における虐待的な差別行為を禁止しました。この規則は1993年に制定されましたが、そろそろ補完する時期に来ていると思います。3つ目が差別禁止法(SFS2008:567)で、2008年に制定されています。

スウェーデン文化といじめの関係

スウェーデン文化の長所としては、交渉と平等を重んじる長きに渡る伝統が、労働組合と使用者の間にある点です。一方、短所としては、われわれは往々にしてその問題が存在していないふりをしがちであるという点です。これが、いじめがなくならない理由の一つです。また、もう一つの短所として、スウェーデン語ではJantelagen(ヤンテラーゲン)といいますが、「自分が他人より優れていると思うな」、つまり出るくいは打たれる、他の人よりも突出してはいけないという考え方があります。

いじめを防ぐために

いじめの問題に対して何をすべきかについては、まずいじめをきちんと認識することが重要です。次に、問題解決のために話し合いを行うことです。そして最後に、自分たちの態度を改め、他の人と違った方法で職場を改善しようとする人、出るくいを称賛する文化に変えていくことが大切です。そのために、トップダウン(国の対策)、ボトムアップ(労使の対策)の両方からこの問題に取り組む必要があります。

まずトップダウンのアプローチですが、いじめに関する法制度は補完すべき時期に来ています。予防措置を講じて、いじめの根絶を図るよう、使用者に対してより大きな責任を課すべきです。学校の生徒に対する差別を禁じる法案について、現在こうした意図を盛り込んだものが検討されています。名称も「差別によるいじめ」という文言が用いられています。

一方、ボトムアップのアプローチですが、これによって同僚の責任を明確にしていく必要があります。責任があるのは使用者だけではなく、同僚にもやはり責任があるのです。