非正規雇用をめぐる格差余話

アドバイザリー・リサーチャー 稲川 文夫

教育訓練機会の格差

厳しい経済競争のなかで優位性を確保しようとする企業の動きや、柔軟な働き方を求める労働者の希望など、複合的な要因によって就業形態の多様化が進展している。その結果、非正規雇用者が全雇用者の 1/3 を占めるまでになった。それに伴って、非正規雇用者と正規雇用者との間には、賃金格差だけでなくキャリア形成を進めるうえで重要な教育訓練の受講機会にも格差が広がっている。

労働政策研究・研修機構が実施した「ものづくり産業における人材の確保と育成に関する調査」(PDF) によると、技能者・技術者として働く正規社員に対して何らかの方法で教育訓練を実施している事業所の割合は、非正規社員に対して教育訓練を実施している割合の約 1.3 倍となっている。

一見、 1.3 という数値は比較的小さいと受け止める向きもあるが、その内容に問題を含んでいるようにみえる。

教育訓練方法及び仕事内容の格差

事業所が実施している教育訓練の方法についてみてみると、非正規社員に対しては、「必要に応じて OJT を実施」、「指導者を決めるなど計画的 OJT を実施」、「改善提案や小集団活動への参加」といった方法が主流で、「外部の教育訓練機関等が実施している研修を受講」、「事業所内での研修を受講」といった OFF-JT を実施する割合は非常に少ない。一方、正規社員に対しては、「計画的 OJT 」、「上司や先輩による OJT 」、「外部の教育訓練機関等が実施している研修を受講」、「事業所内での研修を受講」といった方法での実施が高い割合を占めている。とりわけ最近では、計画的 OJT や外部の教育訓練機関等の研修、事業所内での研修といった OFF-JT を重視する傾向にある。

このような両者の教育訓練方法の違いは、仕事の内容と深く関わっている。

技能者・技術者として働く者が担当する業務をみてみると、主に正規社員が担当する業務は、「工程の設定や切り替えの仕事」、「機械の故障や工程のトラブルなどへの対応を伴う仕事」、「生産設備や機械の保守・管理に関わる仕事」、「技能習得に3年以上の経験を要する仕事」、「 NC 機や MC のプログラミング」、「設計業務( CAD/CAM 含む)」である。一方、非正規社員が担当する業務は、「1週間程度の経験や訓練でこなせる仕事」、「加工・組み立て・充填の仕事」、「運搬の仕事」、「製品・部品の検査・試験」である。このように両者が担当する仕事には、その内容・難易度の面で大きな違いがある。非正規社員の仕事は、単純な仕事、正規社員の補助的な仕事が中心で、キャリアの積み上げを図ることが難しく、また、教育訓練もこれらの仕事がこなせる上で必要な最小限のものに限られている。

格差の定着を防ぐために

簡易な教育訓練、単純労働、蓄積されないキャリア、低い処遇といった負の連鎖を断ち切るために、非正規雇用者の人材育成と適切な活用のあり方を検討する必要がある。

キャリアの蓄積が実感できる働き方は、自身の向上意欲や仕事への意欲を高め、重要な人財となる。

そのためには、 (1) 訓練経歴、仕事の経験を含めた通用性のある職業能力評価制度と処遇制度を構築し、キャリアが積み上がっていく働き方の枠組み作りを進める。 (2) 企業の従業員教育の中に非正規雇用者も組み入れ、 OFF-JT の教育訓練機会を充実させ、長期的な視点で教育訓練と仕事の内容をリンクさせた計画的な人材育成を支援する方策を講じる等の方法が考えられる。

労働力人口の減少、若年労働者の採用難、そして、非正規雇用者が全雇用者の 1/3 を占める状況下にあっては、長期的な視点に立って非正規雇用者の能力開発と適切な活用のあり方を経営戦略に組み入れて検討する時期にきており、それを支援する施策が問われているといえる。

(2008年 2月 22日掲載)