調査余話

 統括研究員  小杉 礼子

これまでたくさんの調査にかかわってきた。

調査をするのは、実態を知りたいからだが、アンケートを集計してもそれが実態とは限らない。知りたいのは、調査に協力してくれた個人や企業の回答そのものではない。都内の 20 代の若者の意識だったり、全国の従業員規模 100 人以上の企業の採用動向だったり、ある研究課題に沿って絞り込まれた対象層の意識や動向である。ただし、その全数を調査するのは効率が悪いので、その一部を抽出して調査するのが普通だ。そこで、重要なのは、その抽出されたサンプルの代表性、すなわち、どれほどもとの対象層 ( =母集団 ) の傾向をそこから測れるかである。

明らかにしたいことは何なのか

こんなことをあえて書くのは、最近の信じられない経験からだ。現在、アンケート調査は、対象と手法を決め調査票を設計するまでは内部で行うが、郵送の事務などは、外部の専門の会社に委託することが多い。ある調査で、特定産業の従業員規模 30 人以上の事業所を全国で 1 万所無作為抽出して調査票を郵送するべく調査会社に依頼したという。調査を発送すると、その直後には、調査内容などについての問い合わせの電話が多く入るが、それがなぜか、東日本の企業からしかこない。不思議に思って調査会社に問い合わせ、発送名簿まで調べてみると、無作為抽出のはずが原簿の頭から順に 1 万社に発送していたという。この段階で気づいたので、やり直しをすることができたが、関係者の中には、 1 万件発送すれば問題ないのではないかと言う人もいたそうで、改めて、知りたいのは回答そのものではないことを確認しなければならない。

このほか、回収率が異常に低い場合は、やはり母集団を代表していないのではないかと疑われるし、また、インターネットによるモニター調査は、研究課題によっては有効だが特定の偏りがでる恐れもあり利用は慎重でありたい。時間や予算、あるいは個人情報など、多くの制約の中で行わざるを得ないのが私たちの調査だが、明らかにしたいことは何なのか、それにできるだけ迫れる工夫は欠かせない。

調査は共同作業

よく用いられるほかの方法として個別インタビューがある。探索段階や課題を深く分析する段階でよく行われ、アンケート調査と併用されることも多い。

ここでも対象者をどう選ぶかが重要だが、あわせて、協力していただける対象者にどうしたら接触できるかも重要なポイントだ。今、私がかかわっている高卒就職についての調査では、高校の進路指導担当教員、企業の採用担当者、ハローワークの学卒担当者の 3 者へのインタビューを各地で重ねている。ここでは、学校と企業をハローワークに仲介いただいた。問題意識を共有できる仲介者なしには、インタビュー調査はなかなか進まない。

調査は、対象者そして仲介者、あるいは、調査の一部を担ってくれる調査会社の方々との共同作業である。問題意識と調査方法への理解を促す発信が、調査研究を仕事とする私たちには常に求められているのではないだろうか。

( 2007年 9 月 28日掲載)