北国に春到来

調査・解析部 遠藤 彰

弘前さくらまつり

今年の大型連休は、好天にも恵まれ、各地の行楽地は賑わいをみせた。北日本でもっとも客足が伸びたのは、200万人近くが訪れた弘前さくらまつり(青森県弘前市)。50ヘクタールにも及ぶ広大な園内には、ソメイヨシノを中心に、シダレザクラや八重桜など、約 50種類 2,600本もの桜が咲き誇る。見頃が大型連休と重なることもあり毎年、全国から多くの観光客が足を運び、北国の春を満喫する。

企業誘致で雇用創出

桜の名所として知られる弘前市が、企業誘致に力をいれていることはあまり知られていない。市は農業を中心に発展を遂げてきたものの、地元に十分な働き口がなく、県外就職を余儀なくされる人もいた。高度成長期の 60年代には、大都市への若年者流出が加速し、地元に安定した雇用の場が必要となった。そこで市は 60年代中頃から、製造業の誘致に乗り出した。

市は誘致に向けた環境を整備するため、工業団地の造成をはじめた。最初に手がけたのは北和徳工業団地だ。市内中心部から北に 3キロほど離れた津軽平野の田園地帯に位置し、広さは約 30万平方メートル(東京ドーム約 7個分)。セールスポイントは、国道7号線沿いに立地する良好な立地と、安価な分譲価格だ。各種の優遇措置をテコに、大手製造業に誘致攻勢を展開。最初に進出したのは日本航空電子工業(本社東京)の子会社である弘前航空電子(従業員約 500人)。その後も、センチュリーテクノコア(約 250人)やキヤノンプレシジョン(約 2,500人)など大手製造業の誘致に相次いで成功。積極的な誘致策が奏功し、北和徳工業団地には7社が立地する。

地元企業の技術力も向上

市は、こうした外部企業の誘致を進めると同時に、地元企業の振興にも力を注いだ。誘致企業が、安定した事業を展開するには、地元企業の技術力向上が不可欠とみたからだ。

地元企業の振興策のひとつが、96年から分譲を開始した藤代工業団地だ。広さは先の北和徳工業団地の半分ほどの 15万平方メートル。最寄りの東北道IC(弘前大鰐)まで 13キロとアクセスは良好で、さらに豊富な地下水を利用でき、専用排水路も完備する。最大の特徴は、外部(誘致企業)だけでなく、内部(地元企業)に対しても「門戸開放」したこと。市は、地元製造業を中心に、積極的な働きかけを展開し、地元企業(27社)の「移転」と、外部企業(4社)の「誘致」に成功。進出企業をテコに、地元中小の技術力向上にもつなげた。

35社で 5,535人の雇用創出に成功

市の積極的な取り組みにより、北和徳工業団地は 91年に完売した。残る藤代工業団地も「分譲率は 96%で、残りあとわずか」(弘前市役所商工労政課)と好調な売れ行きだ。

06年末時点までに市が誘致に成功した企業は 50社にのぼる。そのうち北和徳工業団地(7社)、藤代工業団地(4社)、市内の工業地域(24社)に進出した 35社は現在でも操業しており、5,535人の雇用の場を提供している。

弘前市の誘致企業群は、雇用が厳しい青森県内に希望の灯りをともす。安定所別に有効求人倍率( 3月)をみると、弘前(0.67倍)はトップを走り、県庁所在地の青森(0.51倍)や、県南部最大の都市である八戸(0.50倍)を引き離す健闘ぶりをみせる(下図参照)。

青森県内の有効求人倍率

企業誘致は雇用創出と税収増の「即効薬」とも呼ばれる。各地の自治体は様々な優遇措置を講じ、誘致合戦を繰り広げる。誘致した自治体にとって最大の悩みは、進出企業の「撤退」だ。

弘前市はキヤノンプレシジョンを筆頭に、50社の誘致に成功した。そのうち 35社が現在でも操業中で、5,000人以上の雇用の場を提供する。誘致企業を「地元企業」に成長させるコツはなにか?

秘訣の一端は、自治体と進出企業とのコミュニケーションにあるという。何かあってからではなく、「何もないとき」に気軽に相談できるような関係が重要という。市が進める誘致策は、企業が立地したあとも見据えた息の長い取り組みとなっている。進出企業が地域に根付くには、「誘致後」のフォーローアップが重要であることを教えられた(詳細は当機構発行の『ビジネス・レーバー・トレンド(BLT)』 2月号30頁 ~ 34頁(PDF) をはじめ、同号特集記事『地域雇用創出の新潮流』もご一読ください。併せて、四半期毎に実施している「地域シンクタンクモニター調査」もご覧下さい)。

( 2007年 5月 11日掲載)