ミッド・キャリア層のためのガイダンス・システムの開発

主任研究員 室山 晴美

2007年 3月末に 35歳以上のミッド・キャリア層を対象としたコンピュータによるキャリア・ガイダンス・システム、「キャリア・インサイトMC」が完成した。これは若者向けのシステムである「キャリア・インサイト」と共通のコンセプトをもちながらも、35歳以上の層の再就職支援を目的として新たに開発したシステムである。

ミッドキャリア層にとってガイダンス・システムは有効か

システム開発は、3年前に当機構の総合プロジェクト「ホワイトカラーを中心とした中高年離職者の再就職支援のための研究」のサブテーマの一つとして計画された。実のところ、このテーマに関連して、年齢も高く職業経験のある利用者を想定したシステム開発の話が持ち上がった当初、この層にとってのガイダンス・システムの開発が有効であるとはあまり考えなかった。キャリア・ガイダンス・システムは、適性評価を中心として、自分の個性にあった職業選択を考えるというガイダンスの展開をねらいとしている。このようなガイダンスのプロセスは、職業経験が浅く、自己理解を深める必要がある若者には有効である。しかし、ミッド・キャリア層は、職業経験がある上に、家庭の事情、経済的な事情、健康上の問題など適性評価だけでは仕事を選べない様々な条件がある。適性の把握と理解を中心にガイダンスを進めても、今さら自己理解をしたところで何も役に立たないと受け止められるのではないかと考えたのである。

本人の気づかない意外な可能性も

しかし、システム開発に先立って、いくつかの職業相談の施設にヒアリングを行ったところ、このような考え方は必ずしもあたっていないことに気づいた。職業経験があるからこそ、過去の仕事にこだわりすぎて、本来自分がやりたいことやできることを見失っているケースも多いようである。そのような求職者に、再就職を前にしてもう一度自分自身の個性をいろいろな角度から見直し、かつ、考えてもらう機会を提供することは必ずしも無駄なことではない。実際に、再就職に行き詰まって動きがとれなくなっている求職者にキャリア・インサイト(若年版)を実施してもらったところ、本人も気づいていなかった意外な可能性が発見できたというカウンセラーの意見もあった。

新たな就職のチャレンジに向けて

そこで、これまでのシステム開発の経験と蓄積を土台にして、ミッド・キャリア層のシステムの開発に着手した。 2006年の秋には、ほぼ最終完成版となるβ版が完成し、それをハローワークなどの複数の相談機関で試行運用してもらった。また、ハローワーク主催の合同就職説明会の会場に適性診断コーナーを作ってもらい、来場者にβ版のシステムを使ってもらってアンケートへの回答をお願いした。このコーナーは意外に人気で、利用するために順番を待つ人もあらわれた。パソコンの傍らにいて、実際にシステムが使われている様子をみたり、利用後の感想を聞いたりすることは、開発者にとって非常に有意義な経験であった。ある求職者は、身体を動かすことや物作りなどの活動への興味が高いという結果が出た。これについてご本人は「今まで事務職しか考えていなかったけれど、よく考えたら本来はそういった作業が好きなので、これからは探す仕事を少し広げて考えてみます」と話してくれた。

今後、キャリア・インサイトMCがミッド・キャリア層の新たな就職へのチャレンジに向けて少しでも役立てていただければと思う。

( 2007年 4月 6日掲載)