"元気のある中小企業"と二世経営者

副主任研究員 横山 知子

"元気のある中小企業"

インターネットで"元気のある中小企業"と検索すると、毎日 10万件程度の情報が記載されており、多い日には数十万件に上ることもある。白書などからの引用や、地方公共団体の施策や出版物、年鑑等の書籍名、企業経営者のコメント、研修募集案内など多種多様である。個人的なサイトも多く、全てが信頼性のある情報とは言い難いが、関心の高い用語であることは確かなようだ。

それでは、この"元気のある中小企業"の定義は如何なるものであろうか。「継続的に利益を上げている企業」、「安定成長している企業」、「継続的に発展している企業」といったような定義を示しているサイトもある。しかしながら、"元気のある中小企業"と表される中小企業経営者自身は定義のしかたが異なるようである。人材育成に関するヒアリング調査で、"元気のある中小企業"と表される企業のうち、8社に訪問する機会を得た。その折、経営者に"元気のある中小企業"とは何か尋ねてみた。一番明快なのは「儲かっている企業」であった。経営状況の良好な近隣他社を「従業員を定期的に採用している企業」と称した経営者もいた。しかし、多くは「従業員に活気がある企業」「楽しく働ける企業」「朝仕事に来るのが楽しみな職場」であると力説していた。客観的な他者と現場の経営者とでは"元気のある中小企業"の捉えどころが異なるようだ。

経営者自身でない場合は、客観的に経営状況や生産性で捉えている。つまり、"元気のある中小企業"であれば生産力や技術力が高く、安定成長や継続的発展をしていると捉えている。

しかし、現場の経営者は結果ではなく原因で捉えている。生産力や技術力を向上させることは当然重要な課題であるが、まず企業の根幹をなす従業員に焦点を当てている。従業員にとって (1) 仕事に生きがいを感じ、(2) 生活も安定しており、(3) 将来のビジョンもあるといった、従業員一丸となって安心して働ける企業こそが"元気のある中小企業"であり、その結果儲かるのだということである。

また、人材育成のあり方について尋ねると、全ての企業から「人は宝」あるいは「社員優先」といった人(従業員)優先の回答を得た。訪問企業は 8社であったが、"元気のある中小企業"の企業戦略はまさに「人材育成」であるとの意気込みを、確かに感じる。

二世経営者の活躍

人材育成の現状について調査した"元気のある中小企業" 8社においては、企業の担い手の多くは 40歳代の二世経営者である。これらの二世経営者の場合、事業継承は数年前に終了し、技能継承も大方済んでおり、労働力の不足は否めないながらも、2007年問題に対する危機感はないとしている。二世経営者は年齢的には 50 ~ 60歳代のベテランと 20 ~ 30歳代の若手技術者の丁度中間に位置し、技術・技能者としても経営者としても双方のバランスを上手くとれる位置にいる。先代からのノウハウを受け継ぎ、ベテランからの信頼も厚く、若手技術者の文化や考え方も理解できる立場にいる現在は、安定した事業展開が可能であると二世経営者は考えている。

10年後は・・・・・

しかしながら、二世経営者は 10年後には自身がベテラン側にシフトすることになり、文化や環境も大きく異なる 20歳代の若手新入社員をどのように教育訓練していくかを懸念している。また、社会全体の傾向として「マニュアル化」や「視える化」が進むことにより、現場でも「視えるもの」しか残らなくなってしまう危険性を憂慮し、「伝える」ことばかりではなく「見落としていないか」に留意することも重要な課題であると考えている。

その対策も含め、新たなネットワークあるいは企業集団の構築や地域に根ざした協働作業などを通して、企業の行くべき方向を二世経営者は常に模索している。

このように、社会や文化が大きく変化し事業継承や技能継承が複雑に絡み合った場面で、中小企業の人材育成に対する公的機関の効果的な支援策等を調査研究するにあたり、まさに現場での現状把握が重要であることをあらためて痛感した。

( 2007年 3月 23日掲載)