次世代の目

副主任研究員 中村 良二

仕事も家庭も充実・・

職場では長時間労働にならないように効率よく働いて、成果を上げる。家に帰れば、家事、育児、介護に自ら積極的に参加する。休日には、自分が住む街にも何らかの貢献をする。趣味、生き甲斐も大切にして、すべての時間を充実させ、活き活きと暮らしてゆく――皆が働くだけではなく、生活全般を充実させようと考えること、これはすばらしい。しかし、ふと考えてしまう。やはり、夫婦ですべてをほぼ同等に分担するべきなのか?子育てや介護のために少し仕事を減らす人がいれば、その分を本来の業務の他に「応援、手助け」する人が必要となる。その人たちの「充実」は、いかに確保するのか?手始めに、いったい誰・どこから支援したらいいものか?即座には正解が見えてこない。

こうした問題の背後には、働くことが当たり前という前提がある。しかし、前提が異なる世代、働かないことが根本的に誤りとは思わない若者も少なくはない。そうした世代も徐々に企業社会に入り始める。その一方で、各企業は、さらなる効率化の徹底が求められる。我々の実施した経営戦略と人事処遇に関する調査結果からすると、成果主義を導入すると実は、仕事のできる一部の人たちにさらに仕事が集中する。どうも今企業内では、仕事にますます特化するベクトルとまったく反対のベクトルが同時に、しかも双方ともかなり強烈に作用しているように思われる。企業も従業員も、これからいったいどうなるのだろうか。

情報過多の情報不足

最近まで門戸を固く閉じていた企業が、急速に優秀な若年労働力確保に奔走しだした。学生たちは少し安堵しつつも、その豹変ぶりに若干の迷いと不安を感じている。大学での講義の際に、学生たちに接すると一つわかるのは、彼らの多くは、働くこと、企業、それを取り巻く仕組みについて、見事なくらい体系的知識がないということである。そうだからこそ、雇用流動化と聞けば、絶対安心?の公務員を目指し、ライバルと差異化を図るために、様々な資格取得に突っ走る。情報が溢れる一方で、肝心の情報が実に少ない。仕事世界のこれまでと現在、今後を、できるだけ正確に伝えることが必要である。

いったん企業に入っても、「思い描いた世界と違う」と感じれば、即座に脱出するかもしれない。今我慢しておけば将来はという安易な見込み論ではなく、具体的なキャリア像、その拡がりと可能性を伝えることのほうがはるかに重要である。前掲調査結果から見ると、成果主義の仕組みがうまく機能するか否かは、特定のではなく、従業員全体に対する育成をいかに充実させるかがキーとなってくる。仕事をさせられるだけではなく、「育ててくれる」希望がなければ、仕事には取り組めない。親世代のリストラの現実も見た上で、仕事をすることによって自らがどのように育ってゆけるだろうかと、今はまだ外側からではあるが、彼らは一生懸命考えている。

一瞬の光景から

身も蓋もないが、実際に働いてみないことにはわからないことが、多々あろう。それでも、案外真剣にと言えば失礼かもしれないが、彼らは大人たちの働きぶりにマジメに関心を持っている。企業訪問の際、採用担当者から聞いた話はすばらしいが、ちらりと垣間見たその企業の中年男性が疲れ果てているように見えたことに、相当なギャップを感じた学生がいた。この会社に入れば、こういうふうに「なれる」のではなくて、「なってしまう」のかと思ったという。中年男性の疲労困憊の理由は判然としないが、ラクなだけの仕事などない。そのようなことも含めて、仕事世界の話をする必要があろう。

「楽しいことだけ」と騙すことも、「暗黒の世界」と脅すこともない。大切なのは、企業とはどのような組織かということも含めて、きちんと現状を知らせること、この仕事をしていればきついこともあるが、こんな面白いこともたまにはあると、大人たちが自信をもって答えることなのではないだろうか。

ところで、あなたは今、仕事も家庭も充実した日々をお過ごしですか?

( 2007年 2月 23日掲載)