長時間労働と労働時間法制

統括研究員 伊藤 実

「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」とは何か

厚生労働省が導入を目指している「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度を盛り込んだ労働基準法改正案が、労使関係者のみならず、国民的関心を呼んでいるようだ。

「ホワイトカラー・エグゼンプション」は、裁量度の高い働き方をしているホワイトカラーに対して、企業による時間管理の枠を外して、自由に働いてもらおうという人事制度である。労働時間と仕事の成果が必ずしも比例していない職務の場合、突然アイデアが浮かび一気に仕事がはかどり、帰宅が遅くなってしまうといったことがしばしばある。こうした時、同制度の下では、次の日の出社は午後からといった働き方も可能である。

こうした働き方は裁量労働制と似ているが、深夜労働や休日労働に対する割増賃金が無い点が異なり、あくまで労働時間の適用除外の世界である。このことから、同制度の導入に反対する陣営が、残業代が支払われなくなるといった残業代ゼロ法案キャンペーンが張られた。これがマスコミなどで取り上げられ、「ホワイトカラー・エグゼンプション」が世間の注目を浴びることになった。

ところで、労働の専門家でない一般国民の何割が、「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度と裁量労働制の違いを認識していたのであろうか。ほとんどの国民は、通常の時間管理による働き方とこの2つの働き方について、それぞれの違いを理解していなかったのではなかろうか。

それゆえ、長時間労働やサービス残業が社会問題となり、過労死の報道がしばしば流れる最近のストレス社会の現状に身を置いていれば、残業代ゼロ法案キャンペーンを受け入れてしまうことになる。新しい制度を導入するためには、周到な普及キャンペーンが必要であることを示唆している。

なぜ長時間労働体質から抜け出せないのか

ところで、日本の企業社会は、どうして長時間労働体質から抜け出せないのであろうか。

それは日本の企業社会の働き方そのものが長時間労働を生みやすくしている上に、そのことが企業競争力と深く関わっているからである。仕事に対する役割分担や責任の所在を余り明確にしないまま、微調整を繰り返しながらチームワークで仕事の質を高めていく日本的仕事システムは、長時間労働に陥りやすい体質をはらんでいる。

長時間労働体質を改善するためには、仕事の役割分担や責任の所在を明確にするとともに、職場への入退室時間を機械的に把握する必要がある。さらに、限度を超えた長時間労働者や過労死でなくなる者が出た職場の管理責任者は、人事評価を大幅に下げるといった人事制度改革が必要である。

( 2007年 1月 26日掲載)