「戦略」と未来

主任研究員 千葉 登志雄

「戦略」とは?

今自分が携わっているのは、「雇用戦略」という仕事である。研究し始めてから1年近く経って、「戦略」とは何だろう、という思いは深まり、ときに混迷してしまう感がある。「戦略」に関しては、「経営戦略論」という分野において知見が蓄積されているが、「戦略」の意味するところは必ずしも統一されておらず、論者によって強調するポイントは異なる。

しかし、戦略は目先のことに関わるものではなく、より中長期の将来に関する事項である、という点においては、共通するところが多い。現在、当機構においてはプロジェクト研究の一環として、我が国の雇用戦略のあり方について最終報告を提出するべく研究しているが、その射程に置く期間も、概ね 10 ~ 20 年と長期を念頭に置いている。

未来を見通す難しさ

ここで、疑問が生ずる。どのようにすれば 10 ~ 20 年先を見通すことができるのか? 人口動態など、比較的中長期にわたって将来を見通すことができる項目も、確かにある。しかし、個人がどの程度自発的に学習するようになっているか、働き方における持続可能性がどうなっているかなど、「雇用戦略」の基盤に関わる将来の事実について、正確に語ることは難しい。

必ずや、過去や現在から将来を見る立場に立つと、こうした考え方になるのであろう。確実に見えるのは、過去と現在しかない。一方、どのような未来になるかを想定して現在はどうあるべきかを考え、新しい挑戦を繰り返し、成功させている経営者もいる。曖昧模糊とした未来より過去と現在をしっかり捉え、今起きている変化に即応していくのか、それとも、未来のビジョンを明確に示し、それに向けて現状を変えていくのか?

2つの未来に関する見方の融合

もやもやしたまま森に分け入っていたとき、たまたま読んでいた、カナダの世界的な経営学者であるミンツバーグらの 『戦略サファリ』 (注) の中に、興味深い一節を発見した。ミンツバーグらによると、我々はまず考えてから行動するが、逆に考えるために行動することもある、という。すなわち、幾つかトライした中で効果のあったものがパターンを形成し、それが戦略となっていく。でも、ちょっとやってみる、という考え方には、同時に注意を払う必要もある。「何について学ぶか」を考慮し、不必要な学習が生じないようにしなければならない。

雇用に関しては、未来の確からしさは事項によってまだら模様であることもあり、「雇用戦略」における未来の見通し方は、どちらであるべき、という二者択一にはなり難い。確かに、特に予測が困難である事項については、「走りながら考える」部分があってよい。ただし、闇雲に走ると意図せざる目的地に着くおそれがある。大まかな方向性を得るべく、判断や直感(ヤマカンではなく)を駆使し、ビジョンを得ようと努力を傾注していくことも重要になろう。

2つの考え方をどう有機的に融合させていくのか、最終報告に向けて、関門を乗り越えるための試行錯誤が続く。

( 2006年 8 月 2日掲載)


(注)ヘンリー・ミンツバーグ、ブルース・アルストランド、ジョセフ・ランベル 齋藤嘉則他訳( 1999 ) 『戦略サファリ』東洋経済新報社