企業の子育て支援策

統括研究員 今田 幸子

子育て支援へ向けての企業の積極的な取り組みに注目が集まっている。急激な出生率の低下、子育て環境の悪化を背景に、 2003 年7月、「次世代育成支援対策推進法」が公布された。同法は、国、地方公共団体、国民の義務を明確に示すとともに、企業に対して大きな役割を期待し、従業員 300 人を超える事業主に、「働き方の見直し」や「仕事と子育ての両立支援」などの具体的取り組みを盛り込んだ行動計画の策定を義務づけた。

順調だった行動計画策定

2005 年 4月に施行開始した当初、企業の対応には、地域的に相当なばらつきがみられ、特に、東京や神奈川など首都圏での策定の遅れが目立った。施行3ヶ月時点(6月末)の策定届出率は、全国では 59.5%と5割を越えたものの、東京 42.6%、神奈川 46.7%、埼玉 42.6%と、首都圏で軒並み低い水準であった。大企業比率が高い首都圏での遅れは、先行きに不安を抱かせ、課題の重さを示唆するものであった。

しかし、その後、状況は大きく改善され、 12月末には、届出率は、全国で 97.0%、東京においても 94.7%にまで上昇した。また、努力義務とされている 300 人以下の企業についても、地方自治体が中核になって中小企業に合った支援策が模索され始めている。例えば、企業の個々の事情や地域特性を組み込んだ支援策が不可欠との考えから、きめ細かなコンサルティングを継続的に実施するなど、ユニークな試みを行う自治体が現れている。

次のステップへ向けて検証を

現在、全国で、さまざまなプログラムが計画され、果敢な取り組みが始まっている。育児や送り迎えのための勤務時間の短縮、在宅勤務、子ども手当ての拡充、育児休業後の復帰を支援する制度、子育て環境を改善するための転居費用の補助など、労働時間、賃金、手当てなど多領域にわたり従来では実現し得なかった踏み込んだメニューが提示され、百花繚乱の観さえある。

留意すべきは、こうしたメニューの策定に当たって、企業と従業員の間で密な話し合いが行われていることである。制度を作っても利用者がいないのでは、絵に描いた餅でしかない。働く人達にとって働きやすい環境、それが職場の生産性を上げ、ひいては企業の利益に結びつく。そうした望ましい連鎖の中でこそ、支援策の整備、拡充が進む。それには、働く人達と企業とが十分なコミュニケーションを持ち、従業員のニーズと企業の利害の双方からのアイデアが醸成していくことが必要である。次世代法が期待する行動計画は、事業主が自社の取り組みを毎年少しずつ前進させることで、全体の水準を上げていく仕掛である。強制や罰則があるわけではなく、自社の現状を把握し、支援策の検討と実行を促すことに意義がある。

いま重要なことは、歩み始めた企業の支援策について成功例のみならず失敗例も含めて丹念に検証することである。そして、検証を通じて情報を蓄積し、さらなる発展のために企業が互いに情報を交換し共有しあえる環境を作ることである。それは、労働研究に携わるわれわれの課題でもある。

( 2006 年 2月 27日掲載)