高慢と偏見と天狗と鼻

統括研究員 本川 明

高慢之章

高慢のことを「天狗になる」と言い、また、「鼻が高い」と言う。天狗と鼻が高いこととの関連は、顔の特徴からきたものであろう。では、高慢との関係は、どちらが本来でどちらが派生なのか。

天狗とは、そもそも仏教の教えから来ているモンスターだそうだ。学問を修めた僧が高慢になることを戒め、「あまりいばると天狗になるぞ」と脅かすために考え出されたものらしい。そうすると、高慢と天狗との関係が本来のものであり、鼻との関係は後から派生したものと考えられる。ちなみに、天狗は、古くはカラス天狗であり、鼻が高い天狗は後世のものだそうである。

この話は、統計分析においても別の意味で戒めである。相関が高い2つの現象があったとき、何らかの因果関係を想定したくなるのは、分析者の人情だ。しかし、直接の因果関係があるのか、第3要因の介在による派生にすぎないのか、因果関係があったとしてどちらが因でどちらが果なのか、といったことは単純な相関分析から出てこない。社会実態に対する適切な理解が不可欠なのである(天狗の由来を知るように)。

単純な回帰分析で、例えば満足度が高い企業ほど業績が良い、という結果が仮に得られても、その結果をもって因果関係を結論付ける愚を犯してはならない。

偏見之章

一般に、同時点の現象から相関や共分散関係をどのようにいじっても、データで因果関係を導くのは難しい。ただ、時間の概念を取り入れると状況が改善する。

一例を挙げよう。下の図は、スペクトル分析の手法を使って、(A)生産と雇用に何か月の時間差があるか(遅れ:生産の変動から雇用の変動までの時間)、(B)生産の波動がどの程度雇用と関係があるか(ゲイン:生産の100%の変動が雇用の何%の変動に対応するか)をみたものである。

鉱工業生産と製造業雇用のスペクトル分析

(1) と (3)は、7年程度の周期(7年=1/0.15(サイクル/年))及び1年程度の周期(1年=1/1(サイクル/年))の変動を表しており、いずれも雇用が生産に遅れていることから、生産⇒雇用の因果を示唆する。 (2) は、遅れがマイナスで、雇用が生産に先行していることから、雇用増⇒生産能力増⇒生産増という流れを示唆する。様々な因果関係の波動が混在することが、この図から読みとれる。

データから因果関係を見いだすのは難しい問題だが、スペクトル分析の手法は、ひとつの発展性を秘めているように思う。

( 2006 年 1 月 13日掲載)