ものづくり現場における女性の活用

本コラムは、当機構の研究員等が普段の調査研究業務の中で考えていることを自由に書いたものです。
コラムの内容は執筆者個人の意見を表すものであり、当機構の見解を示すものではありません。

調査・解析部次長 郡司 正人

少子高齢化が急速に進む中、厚労省の試算によると、2030年の就業者数は、現在のまま何も対策がされない場合、2012年(6,270万人)より821万人減少の5,449万人となるのに対して、女性などの労働市場への参入と経済成長が適切に進めば、就業者数は6,103万人と162万人の減少にとどまるという。製造業の就業者数でみると、現在のままでは2012年(1,032万人)から162万人減の870万人となるが、適切な対策がとられた場合は、994万人となり大きな減少を免れることができる計算だ。

つまり、ものづくり産業が活力を維持するためには、労働の量の担保が必用不可欠で、生産人口の減少を補うため、女性をはじめとした幅広い人たちの労働市場への参入による「全員参加型社会」の実現が重要課題となる。

ものづくり産業における女性技能者の活用について、筆者が実施した「『全員参加型社会』の実現に向けた技能者の確保と育成に関する調査」(2012年)からみると、女性技能者の活用をすでに「進めている」とする企業は35.6%で、「今後進めたいと考えている」企業(16.6%)を合わせてやっと過半数(52.2%)となり、「進める予定はない」企業の45.1%を若干上回る。すでに「進めている」割合は企業規模が大きくなるほど高いが、「今後進めたいと考えている」企業の割合は規模による差があまりみられず、中小企業が実行には移せないものの、活用について意識はしていることがうかがわれる。一歩の踏み込みのハードルが高いことは、想像に難くないが、まずは意識を変えてトライしなければ、活用のネックになっているであろう受け入れのための環境整備も進まない。活用の意識があれば、行政の支援等で活用が大きく進む可能性も高いだろう。

「短時間勤務」や「子供の看護休暇」など、家庭と仕事の両立支援策についても規模間格差が大きい。「300人未満」の中小では支援策に「とくに取り組んでいない」とする企業が4社に1社(26.4%)と少なくないのが大きな課題だ。いまや両立支援策は人材確保策にとどまらず、社会的要請の強い施策として、企業の最優先事項と言える。

女性技能者の「活用を進める予定はない」企業に、その理由を聞いたところ、「女性技能者に向いている仕事が少ない」が約4割(43.9%)と2番手以下を大きく引き離してもっとも高い回答割合となっている。同じ機械金属関連のものづくり産業であっても、業種によって仕事の構成が異なり、思いはあっても、仕事の内容そのものが現実の活用に踏み込めない高いハードルとなっている場合もあるようだ。

実際に女性技能者の担当業務をみると、「製品の検査・点検作業」と「組立・調製の作業」に集中しており、女性の活用を進めるためには、職域の拡大が重要となる。そのためには、女性は軽作業という思い込みを変える意識改革とともに、従来、体力的な理由などで女性には不向きとされていた作業であっても、作業工程の見直しや、作業補助器具の導入などによって、作業を可能にするための工夫が必用不可欠だろう。

また、女性の活用を進めるためには、女性の活用について、人口減少を補うという量的側面だけに注目して、従来の男性中心に行われていた仕事に女性を当てはめるという発想ではなく、多様性を仕事の中に取り込むことと捉える視点が重要だ。女性を中心とした新しい仕事・役割とともに新たな付加価値を創造することが出来れば、企業のパフォーマンスによい刺激となることは間違いないだろう。

(2016年2月22日掲載)