職業のエキスパートたちの特徴とは

副主任研究員 礒 みず穂

私は、当機構で職業研究の担当になって1年程になります。職業研究では、インタビュー、Web調査、ハローワークインターネットサービスの公開データ分析、文献調査などの手法を用いて、様々な職種について研究を行っています。その中で、個別の職業団体や実際の従事者、有識者など数十人にインタビューを行う機会がありました。インタビューの目的は各職業の仕事内容ややりがい、必要なスキル、資格、労働条件、就業者の特徴、最近の動向などを伺うことでした。多くの職種を取り上げているので、インタビューが集中した時期は、昨日はITで今日は福祉、明日は医療といった具合で、頭を切り替えるのも大変だったのですが、様々な分野のお話を伺えたのは興味深いことでした。本コラムでは、インタビューの中で感じたことを書きたいと思います。

今回インタビューさせていただいた方々は、IT、医療・福祉、再生可能エネルギーといった分野の中の職業の先導者、エキスパートでした。そのような立場になる職業人には、どのような行動面・心理面の特徴があるのでしょうか。インタビューの目的とは異なるので、直接インタビュイーの方の個人的な職歴や仕事への考え方などを伺うことはなかったのですが、話の端々から、仕事に対する真摯な姿勢などを伺えた方もいて、感銘を受けました。以下は私の主観ですが、職業の先導者、エキスパートたる彼(彼女)たちの行動面・心理面の特徴を書き出してみたいと思います。

チャレンジャー精神・先見性がある

インタビュイーは「その職業の黎明期に職業に就いた」という方が多く、これが、「職業の先導者」を最も特徴づける点だったと思います。本調査は新しい職業や変化の激しい職業に注目しているので自然なことかもしれませんが、まだその職業の従事者が少なく、その後、人数や社会的認知が拡大する前にその職業に就き、まさにその職業の発展を牽引してきた、という方が多くいらっしゃいました。新しい職業に挑戦するチャレンジャー精神や、その後の職業の発展を見込む先見性があるのだと思います。

もちろん、伝統的な職業の先導者も多くいますが、何かしらの変化が起きている最前線を引っ張っているのは同様だと感じました。

人的ネットワークを形成している

これも、その職業の発展のための団体で然るべき地位に就いていたり、職業のエキスパートとして第一線で活躍されていて、インタビュイーになるべくご紹介いただいたりした方々なので当然といえば当然なのですが、所属組織外との人的ネットワークを持っている方々ばかりでした。新しい職業で、既存のネットワークがないので自らネットワークづくりをしている方々もいました。

勉強熱心・探究心が強い

職業の専門分野について深い見識を持ち、勉強や研究を続けている方が多かったです。人によっては学会で発表したり、本を書いたり、大学で講義をしたりしていました。関係学会で発表したことで、その職業の第一人者として認められた、というお話などは印象的でした。

学会や大学などは、人的ネットワークの形成にも貢献していて、例えば、大学で講義をしていると新人の勧誘にも役立つとのことでした。

向上心・工夫を凝らす

勉強熱心ということにも近いのですが、学術的な面ではなく、仕事の効率や対人サービス、顧客満足の向上といったソフト面で、様々な工夫を凝らしている方々が印象的でした。例えば、長年の経験を積んでいて、客観的にはエキスパートでも「自分はまだまだ一人前でない」と考え、努力を怠らない姿勢を持っておられました。

自分ができることで努力する

雲の上の人に見える職業の先導者、エキスパートの方々を少し身近に感じられる特徴ですが、「自分が一番やりたいこと」でなくても、「自分ができること」や「自分が最も確固たる立場を得られるところ」を見出して道を拓いたという方々もいました。自分が可能性を見出せるところで一生懸命取り組む、という姿勢も重要であると感じました。

このように書き出すと、すごい人、自分とは別世界の人、といったイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、彼(彼女)たちは世の中の一般的な職業に従事している方々です(もちろん個々の職業に就くための様々な要件はありますが)。また、すべての人からすべての特徴を感じたというわけではなく、印象的だったことを書き出すと、上のようになりました。

このような特徴は、「普通の」職業人が、職業生活を満足し充実したものにするためのヒントにもなるように思います。すべての人が職業の先導者、エキスパートになる必要はありませんが、チャレンジャー精神、先見性、人的ネットワークづくり、勉強熱心・探究心、向上心、工夫、自分ができることで努力…仕事でこのような能力や姿勢を発揮できたら、その仕事にやりがいや充実感を感じることができるでしょうし、またそのような姿勢で臨みたいと思う職業に就けたら、幸せなことでしょう。

インタビューなどを基にした研究成果は来年度に発刊予定ですが、それぞれの職業のやりがいや醍醐味をできるだけ伝えられるものにしたいと思っています。

(2014年3月14日掲載)