韓国の就業拡大に向けた取り組み

主任調査員 大島 秀之

韓国の9月の失業率は2.7%で11年ぶりの低水準を記録した。韓国の失業率がこんなに低いのはなぜだろうか。その理由として、非労働力人口の割合が高く、とりわけ若者と女性の就業率が低い点が指摘されている。その背景には、男性の長時間労働、仕事と家庭の両立の難しさ、高い大学進学率と大企業就職志向、自営業比率の高さなどがあるという。朴槿恵政権は、2012年に64.2%であった就業率(15~64歳)を2017年までに70%に引き上げることを最優先の政策目標に掲げている。そのため、若者やキャリアブレーク中の女性、中高年の就業拡大に向けた対策を推進している。その取り組みのいくつかを紹介したい。

韓国の2012年の平均年間総労働時間は2,092時間で、OECD加盟国平均より327時間も長い。政府は、これを2017年までに1,900時間以下に短縮し、ワークシェアリングによる雇用創出をめざしている。韓国の労働時間制度は、勤労基準法に基づき、1週40時間の法定労働時間に加え、最長12時間の時間外労働を認めている。しかし、休日労働は法定労働時間に含まれないため、1週の労働時間は休日労働(8時間・2日)を加えた最長68時間まで延長できる。さらに、公益性や業務特性に基づき指定された特例12業種において、労使が合意した場合、時間外労働の上限規制が適用されない。2010年に特例業種では330万人(勤労基準法適用対象労働者の33%)が働いていた。政府は、2016年から段階的に休日労働を時間外労働に含めるとともに、特例業種を縮小して対象労働者を145万人(14.7%)に削減する法改正を行う方針である。

韓国の定年制は、法律で一律の定年年齢を定めず、60歳以上の定年を努力義務としている。2010年の300人以上事業所における平均定年年齢は57.4歳にとどまる。1998年の通貨危機以降、退職勧奨により40代後半で後進に道を譲る「名誉退職」慣行が定着した。早期退職した労働者の多くが小規模な飲食店などを起業しているという。

国会は4月、60歳以上の定年制を2016年から段階的に義務づける「雇用上の年齢差別禁止及び高齢者雇用促進法改正法」を可決した。定年延長に伴う企業の人件費負担増加が懸念されている。政府は、定年延長や退職後の再雇用を保障する代わりに、一定年齢を超えた場合に賃金削減を行う「賃金ピーク制」を導入する企業に対し、助成金を支給している。また、中高年労働者が退職を遅らせるため1週当たり15~30時間まで労働時間短縮を要求できる制度を導入する予定である。

朴槿恵政権は、「時間選択制雇用」(パートタイム雇用)の拡大を就業率70%達成の切り札としている。任期中の5年間に238万人の雇用を創出し、そのうち93万人(38%)を時間選択制雇用で賄う計画である。時間選択制雇用は、労働者が生活の必要性に合わせて1日4~6時間勤務し、最低賃金の130%以上の賃金や国民年金、健康保険など4大社会保険への加入が保障された、福利厚生面でも正社員と格差のない雇用とされている。政府は、公共部門が率先して時間選択制雇用を創出するため、今後4年間に公務員4,000人、中央公共機関職員9,000人、国公立学校教員3,500人の時間選択制雇用を採用する計画である。新たに時間選択制雇用を採用する企業に対しては、賃金の2分の1(月額上限80万ウォン)を1年間支援する。また、中小企業には国民年金、雇用保険の事業主負担分を2年間助成する。サムスン、ロッテ、新世界など12の企業グループが2017年までに約1万8,500人の時間選択制雇用を採用する計画を発表している。

韓国の10月の就業率(15~64歳)は史上最高の65.2%を記録した。女性就業者の増加がこれに貢献したという。時間選択制雇用の拡大を柱とする就業促進策により、韓国が就業率70%の目標を達成できるのか。そのゆくえを今後も注視していきたい。

(2013年12月13日掲載)