ニッポンの新しい力―留学生の就職―

 主任研究員 中村 良二

30万人の若者を世界から

現在、わが国には13万余の留学生がいる。2008年から始まった「留学生30万人計画」では、東京での二度目のオリンピック開催が予定される2020年を目途に、現在のほぼ倍の留学生受け入れを目指している。学部4年間のみならず、大学院への進学やわが国企業への就職を含め、優れた人材を招き根づいてもらえるようにするという壮大な計画である。今後、留学希望者が増え、彼らを本格的にわが国に迎え入れる時代の到来となるであろうか。大学と企業に現在の状況を伺った。

シューカツって、何?

大学側は、近年、留学生採用を希望する企業からの問い合わせに急遽対応を始めている。ただ、彼らの多くは、日本で就職することのみを目的に留学してきた訳ではない。母国へ戻る、大学院に進学する、ふらりと旅に出る、留学先の大学が提携しているさらに別の国へと留学するなど、卒業後の進路は、我々が思うよりはるかにバラエティに富んでいる。

その中で、日本で働くことに興味を示す学生には、「別世界」のシューカツが待ち受けている。卒業年または卒業後にようやく就職を考え始めるという国や社会が多い中で、わが国の仕組みが全く異なることに彼らは戸惑ってしまう。大学側としては、入学後のなるべく早い段階から少しずつでも、その点を知らせていくことが必要となる。

留学生の就職をメインに担当する職員は、1~2名ときわめて少ない場合が多い。彼らを中心に、留学生のみを対象とした説明会を開催するなど対応を始める一方で、既にオン・キャンパス・リクルーディング(大学に企業を招き入れ、ニーズにもっとも適した学生とのマッチングを図る)を実施している大学もある。その対応には相当な幅がある。

採用したいのは『外国人の顔をした日本人』、まったく異質な『個性』?

「本格的なグローバル体制」を標榜する企業が、留学生採用を本格的に検討・開始したのも割と最近のことである。「日本人にはない個性、タフネス、ハングリー精神を持った、異質な人材で社を活性化する」ための試みである。溢れるパワーを活用したいという意図は各企業に共通しているが、実際の採用はまさに手探り状態である。大学側はそうした企業をみて少々戸惑うことになる。「企業が本当にほしいのはどちらなのか。外国人の顔をしているが中身は和を乱さない『日本人』か、あるいは、これまでには全くいない個性の持ち主なのか」と、ある大学担当者が発した疑問ももっともであろう。

採用試験の際、シューカツに見事に対応した学生には「個性を抑えてムリに合わせすぎでは」とみる一方で、自らのキャリア・プランを語れば、自分のことだけに固執しすぎと評することもある。確かに、初任研修を終えれば即座に母国で管理職になれる…と本人だけが思い込んでいても、無理なものは無理である。要は、彼らに何を期待し、どのように処遇しようとしているのか、基本的な姿勢をきちんと伝えることが第一歩となる。キャリア・プランを丁寧に摺り合わせながらまずは、一通りの仕事をこなせるように育成することが肝心であり、まさに現場管理職の腕の見せ所である。そして、その管理職を企業全体できちんと支える体制作りが、きわめて重要になろう。留学生たちが戦力となる前に、上司たる管理職がタフな彼らの指導で燃え尽きてしまっては、元も子もない。

働きはじめて感じること

すでに働き始めた元・留学生たちが、次のステージで感じている別の課題もある。その最大の問題の一つは、家族の生活環境、とりわけ子供の教育であるという。彼らが「ここで子供に教育を受けさせるのはマズイ」と判断して、さっさと他国へと移られてしまうことになれば、実にもったいない。選ばれるのは、大学や企業だけではない。優秀な人材は、自分自身と家族の生活のしやすさ、安全、将来に向けての希望もシビアに比較しながら、これから暮らしていく場所・社会を選ぼうとしている。企業という枠を超えて、彼らのライフ・プランと日本社会との摺り合わせ…ということになるのだろうか。驚きと大変さはあるだろうが、ちょっぴり楽しみである。

(2013年10月18日掲載)