やりたい仕事と適性検査

 副統括研究員 室山 晴美

最近、“やりたい”という条件で仕事を選ぶことの是非について論じられている本を何冊か見かけた。その中の一冊に、エピソードとして、やりたいことが曖昧で将来の見通しが不確定な状態だから、内定をもらっているにも関わらず就職を見送るという若者の話が書かれていた。これについて本の著者は、誰もが自分のやりたい仕事をわかって就職しているわけではなく、多くの人は縁あって就いた仕事をするうちに、それがやりたい仕事、できる仕事になる、だから“やりたい仕事”というこだわりを捨ててまずは行動せよ、と論じている。

自分にとって“やりたいこと”や“できること”は何かを考え、職業についても理解を深め、その上で、自分の個性に一致した職業を選ぶことが職業への適応を高める、というのが伝統的な職業選択の考え方である。そして、職業適性検査は、その“やりたいこと”(興味)や“できること”(能力)の見極め、すなわち自己理解の部分を助ける道具として開発されてきた。“やりたいこと”を考えずに仕事を選ぶことになったら、適性検査の出番はなくなるので、適性検査の開発に携わっている筆者としては微妙な気分である。

ただ、やりたいことが曖昧だからせっかく決まった就職を辞退するというような考え方には賛成しかねるし、やりたい仕事にこだわりすぎて貴重な時間を無駄にするような就職活動もどうかと思う。そのようなことから、適性検査の役割とは何かを改めて考えてみなければと感じた。

職業相談の現場で適性検査やガイダンスツールを活用している担当者に、どんな求職者に対して検査が有効かを尋ねたところ(i) 、「どのような仕事に就いたらよいかわからないなど、職種の絞り込みができていない人」、「応募職種に一貫性がない人」のような回答が共通に見られた。これは、上記のような“やりたいこと”探しのための典型的な活用例であろう。他方で、「職種を絞り込みすぎていて選択すべき範囲が狭まっている人」、「同じような職種に応募し続けているがなかなか採用に結びつかない人」など、求職者の希望職種を広げたり、応募先の職種の再検討に検査等を使っている活用方法も見られた。さらに、「もともとの性格や緊張等から流暢に話せないタイプの方や言葉の少ない人」への適用も有効なようで、検査等をコミュニケーションのきっかけとして使っている様子もうかがえる。

従来は、単に“やりたいこと”等を見極めるための道具として使われてきた適性検査であるが、最近は、求職者が就職に向けて一歩踏み出すためのきっかけとしての活用が相談の現場では工夫されているようだ。若者向けの施設では、PCタイプやカード式の新しいガイダンスツール類も導入され、若者の就職意欲を喚起すべく頑張っている様子もある。もちろん、“やりたいこと”へのこだわりを助長し、就職活動の妨げとなるような使い方は避けるべきであるが、多くの仕事から候補を絞り込む機能、反対に、候補とする職種の幅を広げる機能、就職に対する意識を高める機能などによって、現実的な就職活動に向けて少しでも求職者の後押しができるような役割を検査が担えたら…と感じている。

(i)^パソコンを使った総合的なキャリア・ガイダンスシステム、キャリア・インサイト(統合版)の試行運用に参加しているハローワークに行った活用状況アンケートの結果である。

(2013年7月19日掲載)