職業情報とキャリア支援

アドバイザリーリサーチャー 石井 徹

私は、職業に関する情報には3つのカテゴリーがあると考えている。いわゆる「職業情報」とは、職業の標準的、概括的な情報で、どちらかといえば職務内容が中心的な情報である。これまで多くの職業情報が提供され、例えば「職業ハンドブック」がこれにあたる。これにたいして「キャリア情報」があると考えている。キャリア情報とは、個人の能力や興味特性そして職業に就くのに必要な教育訓練や経験などが本人ないしカウンセラーにより選択、評価そして処方された職業情報である。簡単にいえば、自己理解をしっかり踏まえて選別された職業情報である。これは個人のキャリアの処方箋のようなもので、自己PRや就職対策に活用される職務経歴書などもこれに相当するといえる。そして3つめが「求人情報」である。これは労働市場で求人(求職)の引き合いが生じた職業に関する情報で、求められる具体的な職務内容や賃金などの労働条件が提示される。求人情報は、各種求人情報誌、「ハローワークインターネットサービス」などで提供され、就職先の探索や職業紹介のマッチングに使用されている。

 求人情報は就職には必須の情報であるが、キャリアガイダンスのプロセスからすれば、これが最初に提供されるのではなく、むしろ職業情報、キャリア情報、そして求人情報の順に提供され、利用していくのが望ましいといえる。就職したい職業が決まっているのであれば、求人情報が適切な情報であるが、若年者などのように就きたい職業が未定だったり、迷いがある場合は、まずベーシックな職業知識や理解が得られる職業情報、つぎに自己理解を踏まえたキャリア情報、そして社会経済情勢を反映した求人情報へと進むのがよいといえる。

「キャリア情報」には、背景に職業理解と自己理解そしてそれらを踏まえた職業選択という視点があるのだが、多くの職業情報から自分にとって最適で重要な情報を取捨選択するプロセスを経たもので、あらかじめ存在しているわけではない。いわば既製ではなく自分に合わせたオーダーメードの服のようなものである。従来キャリア情報を得るには、教師やカウンセラーなどの専門家の指導や相談などの支援にたよることが多かったが、それを生徒やクライエント自身でも簡単にできるようにしたのが、職業情報と自己理解ツールを統合化させた「キャリアマトリックス」である。この職業情報システムの開発には「セルフヘルプ」という概念が深く背景にある。つまり、システムをだれの援助もなく使用することができ、自分自身でキャリア目標を決め、それに必要な情報を集め、評価し、行動できるよう援助することである。セルフヘルプは、最も基盤的で効率的なサービスの方法だが、専門家によるガイダンスや相談などを排除するものではない。実際に、多くの生徒やクライエントが簡単な利用ガイダンスを受けたあと、自分自身でこのシステムを利用しているが、彼らを援助する教師やカウンセラーもガイダンスや相談場面においてしばしば利用していた。

キャリア情報が、深く関連しているのが「セルフヘルプ」とともに「キャリア発達」である。学校段階での進路学習において基礎的な職業知識や自己理解を得ることが、学校卒業時の初職選択その後キャリア選択の基盤となっているが、今の社会経済環境では、世の中の変化もキャリアの節目もかなり短いサイクルでやってくる。つまり、社会人になっても、さらなるキャリア発達のための方針策定や能力開発のために最新の職業情報や種々の情報を収集、分析し、処方することが求められている。このためには生涯的なキャリア発達とその支援を可能にするキャリア情報の提供、そして指導、相談などの最適なサービスミックスが必要になると思われる。

(2013年3月8日掲載)