非正社員の産休・育休

副主任研究員 池田 心豪

「子どもを産んだ後も仕事を続けたい。でも私は正社員じゃないから無理かな」という女性がもし近くにいたら、こう伝えてください。「正社員じゃなくても、産休や育休を取って仕事を続けることは、法律で認められていますよ」と。

昨年度までの5年間、筆者は出産・育児期の就業継続に関する調査研究を行ってきた。その過程で感じたのだが、育児休業(いわゆる育休)等、仕事と育児の両立支援制度について大きな誤解をしている人が今でも少なくないようだ。

その最たるものが、「育児休業は正社員を対象にした制度」という誤解である。育児休業制度の適用範囲は、育児・介護休業法に定められている*1。その規定によれば、期間を定めて雇用される労働者(有期契約労働者)は、特定の要件を満たす場合を除いて対象外とされている。裏を返せば、一部の有期契約労働者を除けば、パート・アルバイト・契約社員・派遣社員のような非正社員であっても育児休業制度は適用される。たとえば、無期契約のパートタイマーのように、期間の定めのない労働契約で雇われている場合がこれに当たる。また、契約上は3か月、6か月、1年といったように期間を定めていても自動更新しているケースなど、実質的には期間の定めがない労働契約と異ならない状態になっている場合も育児休業制度の適用対象になる。仮に勤務先で「非正社員の育児休業制度はない」といわれても、法律にもとづいて育児休業を取ることができるのである。

そうはいっても、たとえば「6か月契約のあなたが育休を取って1年も仕事を休むことは認められない」と勤務先からいわれたら受け入れるしかない、という人は少なくないだろう。育児・介護休業法には、育児休業の対象要件として「子が1歳に達する日を超えて引き続き雇用されることが見込まれること」という規定がある。この要件に該当するか否かの判断基準は厚生労働省から示されているが*2、更新の可能性があっても育児休業の対象にならないこともあり、その判断は容易ではない。

しかし、育児休業制度が適用されない場合でも、労働基準法にもとづいて産前産後休業(いわゆる産休)を取ることはできる。妊娠・出産を理由とする解雇・雇止めも男女雇用機会均等法で禁止されている*3。つまり、育児休業を取ることができなくても、産休明けに復職して仕事を続けるという道は残されている。だが、産休制度と育休制度を一体的にとらえ、「育児休業制度が適用されなければ仕事を続けられない」と誤解している人は少なくないようだ*4。企業の中にもそのような誤解をしているところはあるだろう。正社員の育児休業制度はあるが、パートタイマーには産休制度もないというようなケースである。こうした誤解から、就業継続を断念するのはもったいないことである。

昨今、正社員と非正社員の均等待遇・均衡待遇ということが問題になっているが、仕事と育児の両立支援制度についても同じことがいえる。前述のように、有期契約でも実態として雇用の継続性がある場合は育児休業の対象になる。復職後についても、フルタイムで働く契約社員には、正社員と同じように短時間勤務制度が必要だろう。たとえば保育園の送迎のために勤務時間を短縮しなければならないという場合、その必要性は正社員であるか否かを問わない。企業としても、正社員と同じように戦力となって働いている非正社員が退職するのはデメリットだろう。「正社員だから」「正社員ではないから」ということではなく、働き方の実態に即して両立支援制度を適用することが肝要である。

だが、産休を取って仕事を続けるか否かを正社員との類似性にもとづいて判断するのは適切でない。前述のように育児休業については、雇用が継続しない労働者を制度の適用対象から外すことができる。しかし、正社員と働き方が異なることを理由に、企業が非正社員を産休の適用対象から外し、妊娠・出産を機に退職させるということは認められない。繰り返しになるが、育児休業制度が適用されない場合であっても、女性労働者は等しく産休の対象になり、働き方を問わず妊娠・出産を理由とする解雇・雇止めは禁止されているからである。企業からみれば、産休のコストに見合わないという働き方も中にはあるだろう。しかし、だから妊娠・出産を機に退職させて良いということにはならないのである。

「会社が育休を認めてくれない」という女性がもし近くにいたら、こう提案してみてはどうでしょうか。「産休明けに復職することも視野に入れて、もう一度会社と話をしてみてはどうですか」と。

(2012年11月2日掲載)