最近の学生さん3

副主任研究員 大谷 剛

筆者は、これまでに2度(2007年11月2010年3月、当コラムで "最近の学生さん"に関して述べてきた。これらは、筆者が大学の非常勤講師を務めさせていただいている経験に基づきまとめた雑感である。

今回も、最近の学生さんについて述べたいと思う。理由の第1は、コラムを読んで下さる方の多くが、現役の学生さんと直に接する機会がなく、彼らの実態について興味を持ちつつもそれを把握する手段が少ないように思われること。第2は、ここ数年の間に、学生さんの様子が微妙に変化したことから、その点を新たにお話してもよいのではないかと感じたことである。決して、コラムネタに困っているわけではない。

なお、以前に執筆したコラムと同様に、以下で述べることは筆者の個人的な感想なのであり、学術的な研究成果を踏まえた上での議論などと呼べるものでは到底ないことは、ご承知おき願いたい。

過去2回のコラムで共通して指摘したのは、最近の学生さんは、大変真面目だがやや要領が悪いように思うということであった。この点についての思いは、現在でも大きく変わることはない。ただ、去年の講義中、ちょっとした変化に気が付いた。

就職の実態について話していたときであったろうか。筆者が「これだけ就職状況が厳しいと、正直、切羽詰まって余裕がない人も多いんとちゃう?大丈夫?」と問うと、「別にそこまでは…」、「そんなことはありませんが…」という返答や表情が帰って来たのである。正直驚いた。以前であれば、「まさにその通り!!」、「先生はよく分かってくれている!!」という反応が得られたものだったのだが。

では、なぜこのような変化が生じたのであろうか。つまり、学生さんたちはちょっとした心の余裕を持ち始めたのであろうか。1つの理由としては、学生さんたちの大企業志向の低下を挙げることができるのかもしれない。

以前に接してきた学生さんの多くは、「何がなんでも大企業に入りたい」というタイプが多かったが、最近接している学生さんの多くは、「大企業に就職できるに越したことはないが、中小企業が嫌なわけでもない」という感じのタイプが多い(両者は同じ大学・学部・学年)。両者を比較すれば、後者の方が就職候補先が増えることから心の余裕も増すと考えてよいだろう。

ここで、1つの疑問が生じる。大企業志向の低下が、なぜ生じたのかということである。仮に、十分な情報が学生さんに伝えられることにより、中小企業への就職に魅力を感じる者が増えたためだとすれば社会的にみても望ましい変化だといえる。企業規模間ミスマッチの解消に繋がり得るからである。他方、大企業に就職できそうもないが故に、やむを得ず中小企業を志向する者が増えたことに起因しているとすれば何らかの問題が生じる恐れがある。いわゆる、不本意就職が増加するかもしれないからである。

いずれが正しいのかをここで議論できるはずもないが、大企業志向の低下とそれに伴い生じた心の余裕が、よい意味のものであってくれればと願う。

(2012年5月2日掲載)