最近の調査で感じること

主任調査員補佐 渡辺 木綿子

このコラム欄で4年前、改正パートタイム労働法の施行を目前に、ヒアリング雑感(「最近のヒアリングで感じること」(注1))を記した。再び当番が回ってきたいま、折しも同法の施行後3年を経た検討論議の真っ直中にある。巡合せに感じ入り、改めて触れた。

昨年、改正パートタイム労働法の施行状況等を把握する、『短時間労働者実態調査』を担当した(注2)。同法は、事業所における雇用管理のありようや、短時間労働者自身の処遇の納得性に、どのような効果・影響をもたらしたのか。興味深いテーマである。

調査の結果、同法に対応するため6割を超える事業所で、短時間労働者の雇用管理の改善等見直しが行われていた。ただ、内容(複数回答)をみると、労働条件通知書等での特定事項の明示(第6条・義務事項、過料あり)が中心(45%超)で、賃金等処遇の改善や正社員転換推進措置の導入、教育訓練の新たな実施(第10条関係)、福利厚生施設の適用(第11条関係)等を挙げた事業所はいずれも10~12%程度だった。

短時間労働者全般の賃金決定に当たっては、能力・経験や職務内容が、地域の賃金相場を上回って勘案されるようになる一方、正社員と職務や人材活用の仕組み等が同じ短時間労働者に対して、算定方法(制度・基準)等を揃えながら、職務関連賃金の均衡待遇を確保する取り組みは、進展途上にあるようだった(第9条・努力義務事項)。

また、第8条・差別待遇禁止義務規定の対象となる、正社員と職務(業務内容及び責任の程度)かつ(全期間を通じた)人材活用の仕組み等がほとんど同じで、(実質)無期契約の同視すべき短時間労働者の存在を確認すると、事業所割合・人数割合とも極めて僅少だった。

正社員への転換推進措置(第12条・義務事項)を実施している事業所は、半数超にとどまっていた。

こうしたなか、少なくとも業務内容が同じ通常労働者と比較した、自らの賃金水準の評価については、「分からない」とする短時間労働者が減少し、「正社員より低いが納得している」(約53%)・「正社員より低く納得していない」(約28%)割合とも増加していた。

また、現在の会社や仕事に対する不満・不安(「ある」59%)の内容(複数回答)では、賃金が安い、雇用が不安定、正社員になれない、勤続が長いのに有期契約等が引き続き上位を占めた。

改正パートタイム労働法はその更なる普及・定着を通じ、今後も効果発揮が期待できるだろう。中でも、短時間労働者が自らの処遇水準について、正社員との比較で見つめ直す機会になった、いわばアナウンス効果は大きいと言える。だが、今回の調査は同法を活用し、一層の処遇改善を進める上では、未だ課題が残されているようすも浮き彫りにした(注3)

例えば、短時間労働者と正社員を比較する各要件は、ネガティブチェックリスト(職務分離含む)として働いている恐れがあることから、同法目的(「短時間労働者がその有する能力を有効に発揮することができるよう」)に照らした検討が求められるだろう。

また、短時間労働者の納得性を高めるには、均等・均衡待遇と正社員転換の補完・代替不可関係も念頭に置きつつ、事業所毎に当事者の実態・ニーズを把握しながら、効果的な処遇改善方策を議論する必要があることから、労使の自主的な取り組みを促す仕掛け等の検討も求められるだろう。

改正パートタイム労働法の検討論議が続くなか、一方では有期労働契約法制が強化されようとしている。また、多様な形態の正社員のありようや、非正規雇用全般にわたるビジョンが描かれている。配偶者控除の見直しや社会保険の適用拡大の検討等も進められている。

「正社員と非正社員の関係性をめぐり、重要なターニングポイントに差し掛かっている」(前回コラムより)――。労働政策の力を信じながら、動向を見守りたい。

  1. ^ 「最近のヒアリングで感じること」
  2. ^ 調査シリーズNo.88 「短時間労働者実態調査」結果―改正パートタイム労働法施行後の現状―
  3. ^ 近刊・JILPTプロジェクト研究シリーズ3「非正規就業の実態とその政策課題」第5章参照

(2012年4月6日掲載)