時間をかけてわかること

統括研究員 小杉礼子

2005年に大学のキャリアセンター(就職部)を対象にした全国調査を行った。研究全体としては、採用実態に関する企業調査や就職プロセスと意識についての学生調査などを組み合わせて、大卒採用・就職の実態を明らかにしようというもので、当時、採用の長期化や厳格化、一部での不公正な取り扱いなどが問題化していたことが背景にあった。

その分析の一部として、内定を得た学生となかなか得られない学生、また途中で就職活動を断念してしまう学生の違いは何かを検討した。当時も人文社会系の就職が焦点であり、これに限定した分析であるが、大学の属性的要因、大学の就職支援体制、学生の行動(学業からサークル活動まで含む学生生活)、大学の支援の利用状況の4つの側面をから影響力のある要因を検討した。そのうち大学の就職支援体制で効果のあったのは、インターンシップや企業実習の実施、就職指導担当の教員数、キャリア支援の講義の実施であった。ただし、インターンシップや企業実習はプラスの効果、すなわち内定獲得を促進する効果があったが、あとの2つはマイナスの効果だった。大学におけるキャリア教育は今やホットな話題であるが、教員を就職支援に投入しキャリア支援のための講義を行う大学ほど、内定が得られなかったり、就職活動を途中で断念する学生が多いという結果であった。

因果はおそらく逆だろう。未内定卒業者を出しがちな大学はそれゆえに教員配置などキャリア形成支援の体制を早くから整えていたのである。大学の選抜性(入学偏差値)によって就職状況が異なることは当時もよく知られた実情であり、この分析の中でも大学の選抜性を示す変数を入れることで、その影響を除いた大学の体制整備の効果を測ろうとしていた。ただしその区分が大括りだったために影響が除去しきれず、体制整備の効果がうまく測れなかったのだろう。

キャリア支援体制の整備などの施策が就職に対してどの程度の効果をもつかの分析は、今後の施策検討に大変重要であるが、また危ういものでもある。もともとの大学の労働市場でのポジションが大きく異なることもあるし、新卒者への労働力需要が先行きの見込みによって大きく変動するために、経年的に比較してもはっきりしない。

この問題に迫る新しいアプローチは、2010年に再度大学キャリアセンター対象の調査を行ったことで可能になった。また違う要請で行った調査だが、この2回目の調査によって、個々の大学ごとに2時点間の就職状況の変化が把握できた。この変化に対しての大学のキャリア支援施策の効果を検討することで、労働市場における大学のポジションの違いや景気変動の要因をかなり除去した分析ができる。結果は、2005年に就職支援のためにより多くの経費を投入し、また職員の支援活動への自己評価が高かった大学は、そうでない大学より就職率の改善が進んだという知見となった。

様々な施策の効果を測るには時間がかかる。施策の効果が表れるのに時間がかかると同時、それを測ることにも時間が必要だ。調査者側の研究蓄積もその時間には含まれる。

(2011年11月18日掲載)