ADITAKO BOKODAN DI GAWIS―よきものを分かち合おう―

調査・解析部長 荻野 登

東日本大震災は、日を追うごとに、被害の甚大さが明らかになっていきました。自然に対して人間はいかに無力な存在なのかについても、考えさせられます。その一方、避難所などで、世代を超えて支え合っている被災者のひた向きな姿には、国を超えた賛辞の声が寄せられています。

3月11日の地震発生時、当機構で発行している『ビジネス・レーバー・トレンド』4月号の編集作業をしていました。2月下旬に開催した労働政策フォーラム「非正規雇用の国際比較」を素材にした特集で、各国とも偽装請負的な自営業者が増加している共通した傾向があり、新たな課題との認識を強めました。

もうひとつ、興味深かったのはパート・モデルの成功が称賛されているオランダの報告です。オイルショック後、大きな経済危機に直面した同国の政労使がワッセナー合意を確認し、時短によるワークシェアリングで、難局を乗り切ったという成功譚が流布しています。しかし、実情は少し異なるようです。ワークショップのカントリーレポートでは、週当たりの労働時間短縮による雇用創出効果はあまりなく、女性を中心としたパートタイム労働の拡大が雇用の拡大や安定化の最も大きな要因だったとしています。そして今、パートタイムの労働時間が伸びる傾向にあり、オランダのパート・モデルも変容しつつあるとのことです。

また、若者の間で非正規雇用が増えているのは、どの国でも同じで、オランダの報告者は「非正規の雇用改善に正規雇用のわれわれが関与するためには、自分の子供たちがなかなか正規の雇用をみつけられない状況を認識しなければならず、世代間の連帯が必要だ」との発言が強く印象に残りました。

賃金削減を伴う時短によるワークシェアリングを進め、雇用創出につなげるというシナリオには疑問符がつくものの、わが国にあてはめた場合、震災後の難局を打開するためには、何らかの分かち合い(シェアリング)が必要になるでしょう。その実践が、避難所ですでに行われていることをTVニュースで知りました。神社の境内を避難所にしているある自治会では、厳しい避難生活を強いられるなか、大工の経験者は修理仕事を担当するといった直接的貢献だけでなく、ある女性は「私はこれしかできないので、体操の指導をしています」と語っていました。厳しい境遇を分かち合う「痛みのシェアリング」ではなく、自分が貢献できるものを提供し合う前向きなシェアリングといえます。

こうした姿を見て、30年ほど前、ボランティア活動で訪れたフィリピン・ルソン島の山奥で、2週間ほどの活動を終えて帰国するとき、現地の人が巨大なペナントに刺繍してくれたメッセージを思い出しました。「ADITAKO BOKODAN DI GAWIS」。タガログ語で「よきものを分かち合おう」(Share the Good)の意味です。今回の震災でこのメッセージの意味が、よく理解できるようになりました。

「復興」の第一歩を踏み出そうとするとき、このシェアリング(よきものを分かち合う)が大きな意味を持ってきそうな気がします。

(2011年4月8日掲載)