データの国際化

主任研究員 平田周一

現在、日本は様々な意味で国際化を求められている。政府もTPP等、市場の国際化を検討している。これらの是非はともかく、このコラムでは「データの国際化」について述べてみたい。

私は、現在、日本で非正規雇用と呼ばれている人々の動向が、日本以外の国々でどのようになっているかについて研究している。研究の方法は、様々な国の労働力調査等の集計結果を集め、その中から日本で非正規雇用とされている人々に該当する数字を集計し、これらに関する研究論文や研究報告書などを収集することが一つ。同時に、外国で行われている調査の生データを入手し、自分の問題関心に沿って、直接分析している。これを、日本で同等の分析ができるデータの解析結果と比較して日本とほかの諸国の比較を行おうというものだ。

現在、イギリスで行われているBritish Household Panel Studyと、ドイツで行われているGerman Socio Economic Panel Studyのデータを入手し、分析を行っている。どちらも、現在も進行中の追跡調査(パネル・スタディ)で、個人を単位として10,000人以上の調査対象者に関する膨大な情報が記されたデータだ。このような膨大な調査が海外で行われており、その生データを、他の国の研究者が自由にアプローチできることも驚きだが、このコラムでは、特にデータを入手する際の手続きについて書いておきたい。

イギリスの調査は、エセックス大学にあるInstitute for Social and Economic Researchで行われており、ドイツの調査はGerman Institute for Economic Research (DIW)という研究機関が行っている。どちらも、それぞれの機関に直接、データ入手の申請を行うことができる。事実、イギリスのデータは直接、データ使用を申請した。いっぽう、ドイツのデータは、アメリカのコーネル大学でCross National Equivalent File(以下CNEFと略称)というプロジェクトがあり、このプロジェクトにアクセスすることによって、データを入手した。

CNEFでは、ドイツ、イギリス以外にアメリカ、オーストラリア、カナダ、韓国、スイスで行われている調査データを収集しており、次に書くような手続きを踏めば、基本的に、どこの国の誰にでもデータが提供される。まず、使用したい国の調査を担当している調査機関に電子メールを送り、使用目的などを説明し、データの使用の許可を得る。各調査機関が使用許可を出したら、これをCNEFに送るとデータが送られてくる。データだけでなく、コードブックなど膨大な資料も一緒に送られてくる。

実際に、手続きをして驚いたのは、その迅速さだった。最初の電子メールを送った後、返事が来るまで最低数日はかかるかと思っていたのが、翌日には返事が来ていた(時差があるので、相手側は当日中に返信したのだろう)。しかも、CNEFに私の申請について通知し、所定の書類等があるが、それらをやり取りする前にデータを郵送するという。かくして、一週間余り後にはデータと膨大な資料を掲載したCD-ROMが送られてきた。もし、日本で同様の手続きを行ったらと考えると、めまいがしそうなくらいな簡便さだった。

ここで強調したいのは、第一に、CNEFプロジェクトのように各国の調査データを収集し、必要な研究者にこれを提供するようなシステムがあるということであり、第二に、このようなシステムに日本が含まれていないということである。私は、かつて世界銀行で行われたセミナーに参加したことがあり、そこで、あるアメリカの経済学者が、「日本に行く前は、日本では必要なデータがすぐ手に入ると思っていたが、実際に行ってみたら全くデータが手に入らなかった」という話をしていた。日本を世界に知ってもらうために、まず「データの国際化」を進めなければならない。

[脚注]

(2011年3月11日掲載)