メンタルヘルスケアの取り組み

主任調査員  郡司 正人

労組がやっている労働相談の現場が様変わりしているのだそうだ。何が違うかって?どうも今まで以上に、対応に慎重にならなければならないような状態の相談者が多くなっているようなのだ。職場で強いストレスにさらされ、メンタルヘルス不調の状態で相談に訪れる人が増えている。労働相談の駆け込み寺的存在であるコミュニティユニオンの代表格ともいえる東京管理職ユニオンでは、相談者の3分の1以上が、精神的にだいぶ参った状態で相談にやってくるという。団体交渉や労働委員会提訴などのアクションに労組が出るためには、当該の労働者本人がどうしたいのかという強い意志が必要不可欠で、従来の相談対応は、突き放すと言うわけではないけれど、まず、本人の意志ありきの対応が基本だった。これが、今は難しいのだという。とにかく、今にもポッキリ折れてしまいそうな状態でやってくる相談者には、何から何まで包み込むように慎重に対応することが必要なのだそうだ。

ここ数年の自殺者数が年間3万人強で高止まりしている事態を深刻に受け止めて、政府も対策に乗り出しており、厚生労働省では、メンタルヘルス不全を防ぐため、職場でのストレスの状態を把握する措置の義務付けなどを柱に、労働政策審議会安全衛生分科会で労働安全衛生法の改正を議論している。当機構では、議論のための素材として、「職場におけるメンタルヘルス対策に関する調査」(事業所調査)を実施し、中間集計の速報データを提供している。メンタルヘルスをめぐる実態を、中間集計から若干紹介してみよう(本集計の結果については来年早々に記者発表の予定)。

そもそも、どのくらいの事業所でメンタルヘルス上の理由によって休職・退職した労働者がいるのだろうか。その割合は、規模全体では26.2%と3割弱程度だが、300人以上規模では64.3%と過半数を占めている。メンタルヘルス問題をどのように認識しているかをみると、85.4%の事業所が、生産性の低下や重大事故など企業パフォーマンスにマイナスの影響を与えていると考えている。では、メンタルヘルス対策の取り組み状況はどうだろう。規模全体でみると、「取り組んでいる」事業所が49.7%で、「取り組んでいない」(46.8%)と拮抗しているが、「100~299人」「300人以上」では「取り組んでいる」事業所がそれぞれ55.6%、67.9%と多い。取り組んでいる対策の具体的な中身は、「相談窓口の整備」「管理監督者への研修」「労働者への研修」などが上位を占める(それぞれ55.7%、49.3%、38.0%)。それらの取り組みの効果については、「効果あり」と評価する事業所が70.3%と大多数だ。

詳細な分析は、全体の集計が終わるのをお待ちいただきたいが、中間集計からでもある程度のことがわかる。企業は、メンタルヘルスの問題について、労働者個人の問題ではなく、事業に密接に関わる課題だと十分に認識しているものの、規模の小さな事業所を中心に、具体的な対策に取り組むまでには至っていないところも少なくないようだ。しかし、取り組みの効果を約7割が感じていることは、企業ヒアリングなどで、メンタルヘルス対策は効果が測定しにくく説明が難しいと聞いていただけに意外な感じもするが、今後の取り組み拡大の可能性を示唆しているようでもあり、明るい材料だ。

(2010年11月26日掲載)