セクハラ問題―個人加盟ユニオンの紛争解決―

主任研究員 呉学殊

女性労働者の増加

日本では、女性の社会進出が進み、女性労働者数が過去20年間31%(1,787万人→2,333万人)も増加した。全労働者の中で女性の占める割合も1990年37.7%から2010年42.5%に増加した。

こうした女性の社会進出に伴い、職場の中で女性をめぐる様々な問題が発生している。募集・採用、配置・昇進・昇格、教育訓練における女性差別、婚姻、妊娠・出産等を理由とした不利益取扱い、母性健康管理、そしてセクシュアル・ハラスメント(性的な嫌がらせ、以下「セクハラ」という。)等の問題である。こうした女性の職場問題を予防・解消するために、1985年「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(以下、「均等法」という。)が制定・施行された。その後、同法は数回改正されて職場の女性問題の解決に一定の役割を果たしたとみられる。しかし、セクハラ問題は、依然として深刻である。

セクハラ問題の深刻性

セクハラ問題は、最近、相談件数の急増から見る限り深刻である。厚生労働省の雇用均等室に寄せられたセクハラ相談件数は、2004年6,291件、05年6,505件、06年9,281件、07年12,972件、08年13,747件と急増している。

セクハラ問題は、その発生件数の急増とともに、解決が難しいことで別の深刻性がある。セクハラの被害者は、その解決を求めて警察に訴えても証拠がない等でなかなか受け付けてもらえない。また、職場の女性問題を取り扱う雇用均等室にいっても、均等室が加害者個人への処罰を行うことができないことから、納得できる解決が難しい。最終的に、裁判を起こすこともありうるが、証拠立証の難しさ、解決期間の長さや同期間中の生活費、裁判費用等から非常に困難である。現に、セクハラ裁判件数は、年間10件~20件に過ぎない。

紛争解決が難しいセクハラ問題であるがゆえに、被害者は泣き寝入りすることが多いとみられる。諦念、働く意欲の低下、恐怖症等のメンタル問題への発展、さらに退職まで追い込まれることもある。どうすれば被害者の求める解決ができるか。労働者個人が加盟する個人加盟ユニオンを活用することも1つの道である。

個人加盟ユニオンのセクハラ紛争解決

私は、労働組合の個別労働紛争解決・予防への取り組みに関する研究を行ってきたが、その中で、個人加盟ユニオンのセクハラ問題を解決した3つの事例を調査した。そのうち、2つの事例は、加害者が事業主または専務の経営者であり、残り1つは直属の部長であった。セクハラは3つの事例とも服の中に手を入れて体を触る等の悪質なものであった。行政による解決ができなかった同セクハラ問題を、ユニオンは企業との団交や労働審判によって、解決した。ユニオンは、加害者にセクハラの事実認定と謝罪を行わせて、再発防止を促し、また、被害に応じた補償金(120万円、200万円、350万円)を払わせた。それにより、被害者は、紛争解決に納得し、次の仕事に取り組む蘇生力を得たのである。

母子家庭の増加、家庭の主な収入を女性が担う割合の増加等により、もし女性が職場のセクハラ被害にあっても簡単に辞めることが難しくなっている。一方では、少子高齢化の進展により、中長期的には労働力の不足が予想されて、女性の社会進出と能力発揮がもっと求められる。セクハラの予防や円滑な解決は、当該の女性だけではなく社会全体にとっても大変重要であるが、その役割を担っている個人加盟ユニオンの存在意義は高い。もしセクハラ問題を抱えている方がいれば、身近なユニオンに問い合わせてみると、解決の道が開かれるだろう。

(2010年9月6日掲載)