究極のガイダンス・ツールを求めて

特任研究員 松本純平

適性検査*が開発しにくい時代になっている。理由は、端的に言うと世の中の変化が激しいからである。職業の世界がある程度長期にわたって安定していればこそ、予測の一般法則が成就するのであって、変化の激しい時代には、なにをもって適性とするかという基準やどのくらい後の状況を予測するのかという射程によっても適性検査の内容や結果が違ってくる。特殊な適性検査は開発できても万能な適性検査は開発できるだろうか?

「適性心理学」**は、農民の中から戦士を選抜するため、リーダーが、彼らの考え方や行動を観察する基準を設けて選抜し訓練して戦いに勝利したという旧約聖書の記述が紹介されている。適性・適性検査というアイディアは古い知恵である。確かに集団の中から特定のグループを選抜する際、適性検査は妥当性のある効果的な手段である。しかし、このことは個々の事例の一貫した妥当性を前提としているわけではない点に留意する必要がある。こうして選ばれた農民の中には、多くの優れた戦士が含まれる一方、戦士に向かない農民がある程度含まれていてもおかしくないし、事実含まれているのが普通である。適性情報は、全員を戦士にすることやランダムに選抜することとの比較において、より合理的であれば、より目的にあった選抜を可能にすれば、有益な情報となるからである。

しかし、こうして蓄積された適性の知見ではあるが、近年ガイダンスにおいて個々人の進路計画のための情報として適性情報が求められ、開発者にはより大きな課題をもたらしている。なにより妥当性の検討が事実上できないからである。疫学的な手法を用いたとしても、実用に耐えるような実証的な証拠が揃う前に、それらの知識そのものが陳腐化してしまう恐れすらある。やはり、個々人は、その身のまわりにいる大人や実践家の知識や経験の範囲からしか適性について学べないのだろうか?

「職業レディネス・テスト」は、自らをガイダンスのための心理検査と定義して世に送り出された。ある個人がどんな職業と相性がよいのかという事前に確証し得ない適性情報を提供するようなものではなく、ガイダンスのツールとして大切なのは、利用時点における個人と職業との一般的な結びつきを見えるようにすること(視覚化)、および、検査結果から今後の進路計画と職業の世界を橋渡しするような普遍性をもった共通の言葉を提供すること(共通言語提供)であると位置づけたからである。これらを実現するために、(1)即時性(実施後すぐ結果が得られること)、(2)自主性(自分で実施・採点・解釈すること)、(3)発展性(得られた結果を職業情報と結び付けて学べるようにすること)などに工夫をこらした。また、第2版から尺度の枠組みに、より研究が蓄積されているHollandのRIASEC理論が採用された。

職業レディネス・テスト」第3版を原版とするVRTカードがこの6月に公表された。ガイダンス・ツールとして38年前に世に出た「職業レディネス・テスト」に込められた開発者の志を更に1歩前進させたものである。標準テストの特徴である換算を割愛した見返り***に、カードと結果・整理シートとの活用によって、利用者は、自分の興味や自信度の視覚化と言語化を容易に体験することができると共に、それらと照応する奥深い職業の世界探索へと動機付けられるツールへと進化したのである。

* ここでは適性・能力だけでなく、興味やパーソナリティをも含む広義で適性・適性検査という表現をしている

** 「適性心理学」永丘・北脇編、朝倉書店、1965

*** 結果・記録シートの利用で、従来のテストと同じ結果を得ることもできる

(2010年8月6日掲載)