中高年齢者の職業適性を測ってみる

 主任研究員 長縄久生

職業適性検査というものがある。就活中の大学生や高校生にとってはなじみ深いものであるが、これを受けてみたいという中高年の求職者がいる。リストラなどでこれまでの仕事ができなくなったので、どのような仕事ができるかを知りたいということのようだ。しかし、厚生労働省編一般職業適性検査(GATB)は、45歳以上の中高年齢者には適用できない。この検査で測られる能力は年齢によって変化するうえ、その判定基準が若年者(高校生)の成績に基づいているからである。中高年齢者は能力が低下しているので、若い人と比べても仕方ないというのである。そのため、中高年齢者の成績に基づいた中高年齢者向け適性検査がなければいけないともいわれている。けれどもそれはちょっとヘンな話である。職業適性検査が職務分析に基づいてそれぞれの職業の所要適性能を測っているのであるならば、中高年齢者であろうと若年者であろうと果たすべき職務に変わりはないので、その職務が遂行できるかどうかを評価する基準は同じでなければならないのではないだろうか(中高年齢者の場合、将来の業績を予測する適性といえるのかどうかという問題はあるが、ここでは立ち入らない)。

そこで、45~65歳の中高年齢者にGATBを実施して、加齢によって能力がどのように変化するのか調べてみた。日頃、老眼のせいかものを読むのがおっくうになっていたり、駅の階段の上り下りにも苦労しているので、さぞかし酷い成績かと思いきや、これがそれほどでもない。全体としてみると確かに成績は低下するが、ひとりひとりの変化とその程度は一様ではない。さすがに形態照合や記号記入検査ではもたついたりするが、長年経理の仕事をしていた人は計算や算数応用問題では高校生よりはるかにによい成績だったりする。平均すると言語能力や数理能力のような認知機能はほとんど変わりなく、加齢によって変化するのは形態知覚、空間判断力といった知覚機能と運動共応や指先の器用さなどの運動機能で、50歳代で1標準偏差前後低下することがわかった。この検査は測定誤差を見込んで加算評価をすることとなっているので、この程度の低下ならば加算評価によって補うことができるのではないかと考えられた。

実際に適用してみると、認知機能を所要適性能とする適性職業群が多いこともあって加算評価しなくても適合する職業が見つかる人も多く、たいていの人は加算評価すればなんとか適合職種を見つけることができそうであった。知覚機能と運動機能は多くの場合低下するので、これらを所要適性能とする適性職業群については基準を満たせなくなることがある。このことにはあらかじめ配慮しておく必要があるだろう。ただ、どうしても適合職種の見つけられない人もいる。けれども、若年者でもそういう人はいる。そういう場合は、適合水準に近い適性能からできそうな職種をさがしていくことになっている。こうしたことから、この年齢層においてもGATBによって適合職種を探索することができるのではないかと考えられる。

ただし、それは職種転換したり、職業訓練を受けて経験のない仕事に就こうとする場合のことである(適性か技量かという違いも、その限りにおいて問題としなくてよい)。中高年齢者の場合、実際には経験を活かせる仕事を探すことのほうが多いだろう。いま、最も求められているのは、中高年齢者の豊富な職業経験がどのように活かせるかを評価する方法であることには変わりない。

(2010年4月16日掲載)