キャリアガイダンスとセルフヘルプ

副主任研究員 下村 英雄

今、仮に若者を支援するキャリアガイダンスの体制を整えたとしよう。周知をしなければ誰も来てくれないので、ホームページなどを作って支援を求める若者に呼びかけるとしよう。その際、「自分の将来に悩む若者を支援します。親身に相談に乗りますので、是非、われわれの機関まで来てください!」では、まず、うまくいかないだろう。キャリアガイダンスの基本的なあり方として、この呼びかけ方では絶対にうまくいかない理由があるのだ。

うまくいかない理由としてすぐに思い当たるのは、自分で相談に訪れるほどの若者なら、そもそも自分で就職先を見つけられるはずではないか。そんな積極的な若者が支援を必要とするはずがないではないかということがある。むしろ、何らかのキャリアガイダンスを必要とする人とは、そもそも、そうした支援を求めようとさえしない人ではないのかという議論である。これは、いわゆるキャリアガイダンスのアウトリーチの問題であり、キャリアガイダンスが抱える基本的なパラドックスであると言える。

しかし、冒頭の呼びかけ方には、キャリアガイダンスのあり方として、もっと根本的な問題点がある。

それは、この呼びかけに応じた場合、その若者は、自分は将来について深刻に悩む、人に支援されるべき人間なのだ、ということにまで同意することになってしまう点である。つまり、冒頭の呼びかけ方では、あなたは人に助けられるべき人間だから助けてやるといっているのと同じになってしまう。このような言い方で満たされるのは、支援者側の自尊心であって、支援される側の自尊心ではないだろう。

自分のキャリアに問題を抱え、どうも、うまくいっていないと考える人は、ほとんどの場合、自尊心が根深く傷ついている。その上、「自分は助けられるべき人間なのだ」と思ったのでは、なかなか次に向かって動き出すことはできない。なぜなら、多くの調査が明らかにしてきたように、人は、普通、誰かに助けてもらいたいと考えて生活を送っている訳ではないからだ。むしろ、自分で何とかしたいと思っているのが一般的である。そして、自分の力で日々の生活を何とかうまくやれていると考えられる時、人は自分の生活に満足を感じることができる。

したがって、キャリアガイダンスというのは、入り口の段階で、基本的には、次のように言わなければならない。「自分で将来を切り開く若者のお手伝いをします。皆さんの夢や希望を実現するために、一度、われわれの機関にお立ち寄り下さい!」

こうしてキャリアガイダンスとは、入り口の段階では、常に、自助努力を求めるセルフヘルプ型の体裁を整えることになる。

どのような状況からでも、どのような立場からであっても、「自分は自分で将来を切り開いていける、またそのように期待して良い人間である」と思うことができて、初めて人は、次に向かって動き出すことができる。そして、このことを最初に信じてあげることこそが、第一線でキャリアガイダンスを提供する人が、まず何よりもなすべきこととなる。キャリアガイダンスを提供するにあたっては、臆面もなく自分の可能性を信じて良いのだというメッセージを積極的に発信し続けなければならないのだ。

無論、今の世の中、セルフヘルプで自分の将来を切り開けるとのん気に言えるような状況ばかりではない。若者に限らず、誰しも少なからず厳しい状況に直面しているであろう。ただ、だからこそ、世の中でキャリアガイダンスを提供する人間だけは、せめてセルフヘルプを本気で信じてみせる真剣な素振りが必要になってくるのではないだろうか。

(2009年12月11日掲載)