坐禅一考

国際研究部 研究交流課 飯田 恵子

最近少し疲れ気味で何となく溜息をついていたところ、職場の人から週末坐禅の話を伺い、同僚と一緒に行ってみた。

大都会の中にありながら緑豊かなお寺の中で、線香の仄かな薫りとともに背筋を伸ばして坐ってみたら不思議と気持ちが安らいだ。それからしばらくの間はゆったりした気持ちになり、仕事もはかどったので、その効果にも驚いた。この不況期に無料で一般に開放して、坐らせてくれるというのもありがたい。

疲れの原因は、人員削減がすすむ中で業務量だけが増えていく現状や、将来への不安などいろいろだ。しかし、こうした悩みは何も自分ばかりではなく、学生時代の友人と飲んでも同じような話が出ることが多い。 

ところで、私の所属する部署では、労働法を英訳する業務 を行っているためか、日頃国内外から英語で法律や雇用に関する問い合わせが多く寄せられる。中でも最近目立つのが、「解雇されてしまったが、どうしたらよいか」といった日本に住む外国人労働者からの切羽詰まった相談等である。

基本的な労働情報については提供できるが、それ以上の個別の法的相談や求職情報等については、残念ながら専門の公的機関の英語相談窓口を紹介するという対応をしている。しかし、このような問い合わせから、外国人も含めた労働者に重くのしかかる不況の影響や、不安定雇用の問題などを改めて感じることが多い。

こうした状況の中で、働く(または、働きたい)人たちが様々な問題や不安を払拭していけるような政策や制度策定に役立つアウトプットを私たちが行っていくことは大切だと思うし、その参考になるような海外の事例や制度がないかと思いながら、日々海外情報の収集にあたっている。

例えば、オランダでは、政労使が話し合いを重ねた上で同一価値労働同一賃金を採用してワークシェアリング 政策を行い、イギリスでは、給付型福祉から就労促進型福祉に転換してワークフェア政策やトランポリン政策を推し進めてきた。また、デンマークでは、労働市場の流動化と不安定雇用の削減を目指したフレキシキュリティ政策が有名である。このような諸外国の政策は、遠く海を隔てた日本の労働政策にも影響を与え、日本の現状に合った形でその政策のエッセンスが取り入れられたものもある。実際に、毎年行っている行政官アンケートや有識者アンケートの結果を見ると、国際研究部で行った国際比較調査海外情報収集の多くが、政策立案者や有識者に活用されており、その結果を見ると今後も時宜にかなった情報提供をしていきたいと思う。それがめぐりめぐって、前述のような相談者や労働者のためになるような政策に反映されることを願いたい。

といったことをツラツラ考えながら坐っていたら、お寺の禅師から「坐る時は何も考えない、執着しない、全て流していくというのが大切なのです」と聞き、なるほどと思った。

ただ、坐る。これが意外と難しい。

(2009年11月13日掲載)